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海のカメレオン

原作:植草志帆
シナリオ:KAZUNORI

【第一幕】


 大きなビルが立ち並ぶ街で暮らす、ひとりの女の子がいました。
彼女の名は【シホ】、スポーツ用品を販売する仕事を終え、帰宅すると、大きなため息をついてベットに横たわります。彼女は今、とてつもない絶望感で溢れていました。
その理由は結婚を考えていた彼氏の浮気です。
しかも浮気が発覚し、問いただしたところ彼からこんな無神経なことを言われてしまいました。
「お前ってさ、いつも周りに合わせてばっかりで、自分らしさっていうものがないよな。正直一緒にいても退屈なんだよ。だから目移りしちゃうし、浮気に走っちゃったというか…。そうそう、まるでカメレオンだよ。周りに溶け込んで、自分の色を主張しないってやつ。」
シホはカメレオンが大好きで、部屋にはカメレオンのぬいぐるみや服がたくさんあります。
それなのに、よりにもよってそのカメレオンに例えて心を抉ってくるなんて…!と彼と大喧嘩をし、そのまま別れてしまったのです。
シホはどうすればよかったのか、主張しない自分が悪かったのかと思い悩み、日に日に元気を無くしていきました。
いつしか職場にも出られないほどになり、とうとう彼女は長年働いた職場を離れることになってしまいました。

 シホにはふたりの姉と母がいます。
彼女のことを心配して毎日のように電話をくれますが、それでもシホは立ち直れませんでした。
いつも相談に乗ってくれる親友からの連絡にも反応できないほどです。
電気もつけず、暗闇の中で何度も危ない考えが頭をよぎりましたが、ギリギリのところで踏みとどまります。
そんな時、部屋に飾ってあった昔の家族写真が目に入りました。
その写真の中には自分と、ふたりの姉、母、そして父親の姿があります。
そうです、シホの両親は彼女が幼い時に離婚してしまったのです。
ですがシホは父親のことが大好きでした。
優しくて、旅が大好きで、いつも旅先の思い出を話してくれました。
母はそんな自由気ままな姿に呆れてしまい、離婚してしまったようですが、本当は別れて欲しくなかったのです。
その父親との楽しい会話を思い出していると、シホはある場所の名前を思い出しました。
【シホ…《ハテルマ》という島はな、本当に忘れられないくらい、素晴らしいところなんだ。】

 その父親の言葉を思い出した途端彼女は、さっきまでまるで動けなかったのが嘘のように、インターネットでハテルマについて調べ出しました。
ハテルマというのはこの街からずっと南に離れた小さな島のこと。
その島は観光とトウキビ農業をによって成り立っており、人口は立ったの500人。
一見何にもなさそうなところだが、数々の国と地域を旅してきた父親が、あんなに絶賛していた《ハテルマ》という島は、一体どんなに素晴らしいところなのだろう…。
そう思い出した途端に、なぜだか元気が溢れてきました。
そして彼女は急いでハテルマでの求人を探し始め、そして電話をかけたのです。
「私をここで働かせてください!」


【第二幕】

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