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おにぎりくん!


【第一幕】


 おにぎり星、それは宇宙で最も平和な星と呼ばれています。この星は宇宙一美味しいお米が獲れることで有名です。食糧も豊富にありましたし、資源にも恵まれ、何より人に恵まれていました。その星で暮らす人々は心穏やかで、自分のこと以上に他人を思いやる、そんな人たちばかりなのです。おにぎり星には星の代表として王様がいました。その王様もまた穏やかで、誰にも対しても平等に優しく、みんな王様が大好きでした。そして王様とその姫は、こどもを授かりました。元気な男の子です。人々は大いに祝福し、このままいつまでも平和が続けばいいと誰もが願っていました。

しかし、その平和は突然壊されることになるのです。宇宙で最も暴力的と恐れられていた星の軍勢が、おにぎり星の豊富な資源を手に入れるため、侵略しにやってきたのです。人々は抵抗しましたが、圧倒的な武力を前になす術もなく、あっという間に制圧されてしまいました。王様は捕まる直前に、まだ幼い赤ん坊を緊急脱出装置に乗せました。そして執事に尋ねたのです。

「おにぎり星と同じくらい平和な星はどこだ?あと、美味しいお米がと獲れる土地がある方がいい。」執事は少し悩みながら、答えました。

「地球です。おにぎり星と同じくらい資源が豊富で、美味しいお米もたくさんあると聞いています。ただ…地球人は優秀すぎるが故に、多くの悩みも抱えていると…。」王様は優しく微笑み、緊急脱出装置の脱出場所を設定しました。その行き先は、地球です。

「大丈夫だ。この子ならきっと乗り越えられる。地球が抱える悩みだって、きっと良い方向へと導いてくれるはず、そう願おう。」そうして、おにぎり星の王子様はたくさんの願いと共に、地球へと送られたのでした。

 コメコメ村、そこは美味しいお米が獲れることで有名な…というか他にとりわけ目立つものがない割と大きな田舎の村です。どんどん技術が発達し、あちこちで高いビルが建てられていく中、この村だけは時が止まったように、ずっと変わらず田舎のまんまです。

コメコメ村のはずれに、一軒の民家がありました。そこには耳の聞こえないおじいさんと目が見えないおばあさん、そして何故か小さな男の子が住んでいたのです。その少年は寝転がりながら、おにぎりをおいしそうに頬張り、満足そうに腹をさすっています。そして急に思い付いたかのように飛び起き、おばあさんの元に駆け寄りました。

「ばあちゃん!ちょっとみんなのとこ行ってくるね!」元気な声でおばあさんに呼びかけ、おじいさんには大きなジェスチャーでそのことを伝えました。おばあさんはか細い声で言いました。

「気をつけるんだよ、おにぎりやい。」少年の名は【おにぎり】くん。丸坊主の頭に星形のアザがきらりと輝いています。

 おにぎりくんは村のこども達が集まる広場に向かうため、駆け出しました。しかしそのスピードがとんでもないのです。コメコメ村は土地だけは広々としているので、車で移動するような距離なのですが、おにぎりくんはその車でさえ追い越してしまうのです。何故そんなに足が早いのかは、おにぎりくん自身にもわかりません。ですがひとつ確かなことは、おにぎりを食べるととんでもない力を発揮するということです。そうしておにぎりくんは、農家の人たちと挨拶を交わしながらいくつもの田んぼや畑を過ぎてゆきます。

今日はとてもいい天気です。不思議な形をした雲もたくさんあります。おにぎりくんは空を見上げながら走ることはやめません。ちょっと危ないですね…あ!おにぎりくんの進む先に交差点が!しかも右手からものすごいスピードで迫ってくるバイクの姿が!けれどおにぎりくんは空を見るのに夢中で全く気づく気配がありません。おにぎりくん危ない!!

【ガーン!!!】バイクとおにぎりくんは…なんと、ぶつかってしまいました。

 村には小さな交番がひとつだけありました。そこにいるお巡りさんもたった1人だけ。ですが村はのんびりしていますから、ほとんどコーヒーを飲みながら新聞を読んでいるような一日を過ごしています。そんな平和な交番に、1人の少女が泣きながら駆け寄ってきました。

「おまわりさーん!!!大変!!おにぎりくんが…!!おにぎりくんが……!!」おまわりさんは慌てて自転車に乗り込み、少女が教えてくれた事故現場に急いで向かった。その事故現場には人だかりができていています。そしておまわりさんは言いました。

「バイクの人!大丈夫ですか!?」なんと事故で被害に遭ったのはバイクの方でした。バイクがおにぎりくんに当たった衝撃でぺしゃんこになり、運転手は田んぼにハマって、泥まみれ。あまりの出来事に気を失ってるようです。ですがおにぎりくんは全くの無傷で、申し訳なさそうに被害者の側でしゃがんでいます。一体どういう身体をしているのでしょう。どうやら村の人も、おまわりさんにとってもこの光景はすっかりお馴染みなようです。

そのすぐ後にわかったことですが、そのバイクの人は近くのスーパーで強盗を働き、逃走中だったのだそう。それが運悪くおにぎりくんに出くわしてしまったのです。おにぎりくんはおまわりさんから前を見て走るように注意され、そして何事もなかったかのように広場へと駆け出して行きました。


【第二幕】

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