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SLG 竜胆のセグレート ~ルナリア~

作:ハリー 

エピソード1

郵便ポストを開け、封筒が入っているときに胸がざわつく感覚は、これで何度目だろうか。今の時代は書面ではなく、メールやSNSで企業とやり取りをする時代の中、私が面談をする会社は決まって古くからのしきたりであるかのような時代遅れの封筒で来ることが多い。誰もいないアパートの一室へカギを開けて入り、電気をつけ、カバンを置き、手洗いうがいをした後、手を拭き、ペーパーナイフで封を開け、中に入っている紙面を取り出し、文字を目で追う。
「またダメか……はぁ……」
ため息ばかりつくと幸せが逃げていくと、日本人の父が教えてくれた。その通りだと思う。私の日々はため息で彩られているかのように錯覚する。一体私のどこがダメなんだろう。自分に自信がまったくもてない――

学生時代、私はいじめられていた。いじめていた子はそう思ってないかもしれないが、私はいじめられていたと、思っている。
「うわっ、初日からブロンドの髪かよ」
「カラコン付けてるの?目が真っ青だよ~」
悪意がなかったのかもしれない。あったかもしれない。いちいち聞くのが嫌だったから私は黙って耐えることを選んだ。母親から授かった髪と目の色が大好きだった。小学校に通うまでは……。
周りと違うだけで……なにもしなくても目立ってしまい、子供の頃特有の好奇心は私の見た目をとらえて逃がしてはくれなかった。全員がそうだったわけではない、私を庇い護ってくれる子もいた。それでも、子供の頃に深く傷つけられた溝は、今でも私の中に残り続けている。少しでも、なにかよくないことがあったら、すぐに深い溝が顔をのぞかせる。きっとそのせいなんだよと、深い溝が私に語りかけてくる。
中学まではなんとか耐え抜いた私は、高校に入学するも、三年間通うことは出来なかった。両親はそれを受け入れてくれた。学校に通うことがすべてではないんだよと言ってくれたときは涙が止まらなかった。退学した私は勉学に励むようになった。高校に通う子たちに馬鹿にされないよう、何か少しでもいじめたあの子たちに負けないくらい、自分に自信がもてるような強い【武器】を手に入れたかったからだ。
それから三年……知識ならば誰にも負けないと言えるくらいの【武器】を手にした私は、高校を卒業したあの子たちと同じ歳で社会人として働く決意をした。手助けしてくれていた両親から離れ、一人で暮らすために、知識という【武器】を手に社会へと旅立った。……が、待っていたのは知識だけでは到底太刀打ちできない人間関係という名の、高い高い壁だった。
社会に出ても、見た目のことを言う人は少なからずいた。見た目のことは、学校で既に経験済みだったのでまだ耐えることができたが、学校では味わったことのない別の苦痛を浴びせられる日々が続いた。

「ルナリアさんってさ~。他の人より仕事が出来るからって調子乗ってない?中退のくせに」
「お、出来たのか!じゃあ後は俺が引き継いでやっとくから、ルナリアは次にこれを頼むな」
「君は女なんだから……少しは場の空気を読んだらどうかね?」
「半分外人の血が入った奴は、なに考えてるのかわかんねぇな」

……今思えば、あの会社はブラック企業と呼ばれるところだったのかもしれない。分かりやすいくらいの男尊女卑。パワハラ、セクハラは当たり前。誰も声を上げようとしない閉鎖された空間に、私は一年も耐えることが出来なかった。
「これは、私が取り組んでいたプロジェクトです!それを、どうして取り上げるんですか!?」
内気な私が爆発した瞬間であった。このままこの会社にいても、私を認めてくれる人などいない。成果も横取りされてしまい、差別と嫉妬の混じった目で見られることに耐えかねた私は、一年も経たないうちに退職した。

社会経験が一年も満たない私を中途採用してくれる会社はなかなか見つからなかった。両親からは戻っておいで、と何度も連絡がきたが今ここで実家に帰ったら学校を辞めたあの時みたいに甘えてしまうと思ったので、もう少しだけ一人で頑張ってみようと奮闘していたが、その心も折れかかっている。不採用通知の封筒をシュレッダーへかける。散り散りになっていく紙を見つめながら再び深いため息をつく。
「何やってるんだろう、私……」
ゴールのない迷路に迷い込んでしまったような気分になる。シュレッダーが役目を終えた直後、ピンポーンと来訪を告げる音が部屋に鳴り響いた。私の家を訪ねてくるのは宅配業者くらいしか心当たりがないので、誰がきたのか確認しないまま戸を開けてしまった。目の前に飛び込んできたのは、ご当地キャラですか?と尋ねたくなるような着ぐるみが、ズンという効果音が聞こえるかのごとく直立していた。予想外の珍客に固まってしまった私に、着ぐるみがスッと箱を私に差し出した。
「ご両親からの贈りものです」
着ぐるみの割によくとおる声でそう言い、とっさに箱を受け取ってしまった唖然としたままの私を置いてスタスタと立ち去ってしまった。……今のは何だったんだろう。新手の押し売りだろうか?でも、箱に記載されている差出人は確かに両親のものだ。筆跡も似ている。しかし、いつもの仕送りにしては大きさが少し小さい気がする。怪しさの塊でしかない箱を開けるかどうか迷ったが、今の私より不幸なことが開けただけで起きることはないだろう……という訳のわからない持論を展開し箱の中身を確認することにした。
「……ゲーム機と、カセット?」
箱の中に入っていたものは、私の知らない世界へと誘う招待状だった――


エピソード2

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