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赤鼻のサンタ


【第一幕】


 クリスマスの1週間前。この街は毎年クリスマスの時期になると、たくさんの雪が降ります。シンシンと降るその雪は街から音を消し去って、身体の熱もあっという間に奪い取ってしまうのです。そんな雪は【彼ら】にとってはとても脅威でした。【彼ら】というのは、お家をなくし路上で暮らしている、いわゆるホームレスたちです。彼らは、街の人がボランティアで支給してくれている炊き出しでその日をやり過ごし、いらなくなって捨てられた服を重ねて身に纏うことで、その時期を乗り越えていました。…おや?何やら騒がしいですね。誰かが喧嘩をしているようです。ああ…またいつもの【彼】です。

   「お前!!ワシの飯を取っただろう!ちゃんと並んでもらって来たのに!自分で取ってこんかー!!」鼻を真っ赤にさせて怒りをあらわにしているひとりの男がいます。【赤鼻】です。怒りっぽい性格で些細なことでよく喧嘩をしては、よくみんなを困らせる。感情が剥き出しになると鼻が真っ赤になる特徴から、そう呼ばれるようになりました。今日も朝から怒鳴り散らして、ホームレス仲間はみんな赤鼻に呆れているようです。

 冷たい風が吹き込み、赤鼻は身体を震えさせました。今年の冬は例年よりも冷え込み、赤な鼻が身につけている薄着では、とても乗り越えられそうにありません。そんな時、風とともに一枚のチラシが飛んできました。赤鼻の顔に張りつき、そのことにも腹を立てる赤鼻でしたが、そのチラシの内容に目が釘付けになりました。その内容は【サンタクロースのアルバイト募集!制服支給!】というものです。

 この街は、クリスマスを一大イベントとしていました。こどもたちには内緒ですが、肝心のサンタ役は毎年アルバイトで募集しているんです。そのアルバイト期間はクリスマス前の1週間。その期間、こどもと遊んだり家族のお手伝いをしたりすることで、こどもが求める物を聞き出し、プレゼントする。その満足度に合わせて報酬が支払われる仕組みだ。

 赤鼻はチラシを手に、サンタ募集の事務所に向かいました。赤鼻は事務所に入ると、受付にサンタ希望の意思を伝えた。赤鼻は決してサンタをやりたかったわけではありません。お金にもあまり興味がありませんでした。彼はただ、支給される温かいサンタの制服が欲しかったのです。

 事務所は少しざわつきました。なぜなら赤鼻はこの街では少し有名人だからです。もちろん良い意味ではなく、すぐ怒るホームレスとしてです。そんな彼がサンタ希望とは…トラブルを起こされては困ります。採用担当の男は、引きつった笑顔のまま丁重にお断りしようとしました。

 けれど赤鼻は自分に自信だけは持っている男です。あらゆる断り文句を次々と強引に打破していきます。採用担当の男も、それには呆れてしまい、露骨に嫌なそぶりで断ろうとした時、赤鼻は鼻を真っ赤にさせて怒り出しました。
 「ワシをコケにするつもりかー!!」男は、赤鼻の勢いに負け、ついに採用してしまいました。

 温かいサンタの制服を手にした赤鼻は、満足げに道のりを歩いていました。目的は達成できたとはいえ、約束を破ることは赤鼻としては許されません。しっかりと仕事を全うしなければ。赤鼻は採用担当の男から渡された地図をもとに自分が担当するお家へと向かっています。しかしその地図に書かれた場所がどうも変なんです。何が変かというと……。

 「はぁ〜‼️⁉️これが家…なのか⁉️」

 赤鼻の目の前には、それはそれはとてつもなく大きな屋敷がそびえ立っていたのです。こんな豪華な家を赤鼻は今まで見たことがありませんでした。しかし、地図は確かにこの屋敷を指しています。赤鼻が屋敷の前でたたずんでいると、大きな門がひとりでに開きました。そしてその門の奥には燕尾服を着た老人が立っており、赤鼻に語りかけました。

 「お待ちしておりました、赤鼻様。おぼっちゃまがお待ちです。」


【第二幕】

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