見出し画像

新連載「KIGEN」第一回

※この物語はフィクションです。登場する人物、団体等は、実在のものと一切関係ありません。


―目次―

   序章「晴れの日」
   一章「起源」
   二章「夢の欠片」
   三章「研究所の真実」
   四章「結託」
   五章「門戸」
   六章「相撲道」
   七章「御機嫌斜め」
   八章「ライバル」
   九章「再生」
   十章「揺れる国技館」
   十一章「両国は風のかなたに」
   終章「若い瞳」


序章「晴れの日」

 爪の先まで美しく張り出された右のかいなが、大地を巻き込み抱く様に持ち上げられてゆく。惜しみなく日の下へ露わになった大器がせり上がる様は、勇ましくも落ち着いて、その地位を得た者にしか味わう事を許されない、まさしく頂の景色を瞳に焼き付けて行くようである。やがてしなやかな流線を維持したままの腕は右手が返され、意志は滑らかな運びを持続して、続けて左手がぱっと翻すと、悠然たる風格、いよいよ大きな四股を一つ踏む。美しく空へ、高く持ち上がった足が地面を踏むその瞬間、詰めかけた大観衆の口から一斉に、大地割らんばかりの轟き。

「よいしょ!」

 清浄なる境内に遍くあまねく響き渡った。

 
 澄み切った青空、短い日は早くも傾きかけて、足元にはそろり影が差す。冷たい風が吹き込んでは静かに場を祓い、固唾を飲んでその時を見届けようとする観衆の頬を撫でていった。一月にしては珍しく、穏やかな晴れの日であった。

                        (序章・晴れの日・終)


第二回に続くー



ここから先は

0字
ようこそいち書房へ。長編小説はお手元へとって御自分のペースでお読み頂きたく思います。

「AI×隕石×大相撲」 三つの歯車が噛み合ったとき、世界に新しい風が吹きました。 それは一つの命だったのか。それとももっと他に、相応しいも…

この記事が参加している募集

多様性を考える

AIとやってみた

お読み頂きありがとうございます。「あなたに届け物語」お楽しみ頂けたなら幸いにございます。