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「におい」が音楽のように多彩に変化? 空間演出の新しい表現に独自技術で迫る            

ソニー広報部のHTです。

ソニー社内ではグループ横断の技術交換会である「Sony Technology Exchange Fair 2022(以下、STEF)」を毎年開催していますが、今年で50回目。グループ内の技術者が多様なテクノロジーを互いに披露し、意見を交わし、新たな価値創造の探索につなげています。 
今年のSTEFのテーマは「感動を生む、テクノロジー」。 開催50回目を記念し、一部の展示を社外の関係者の方々にも公開しています
(特設サイトはこちら)。

STEFが始まったのは1973年。今年で50回目を迎える。

数ある展示の中から今回は嗅覚にアプローチした新しい価値創出の取組を紹介します。 

展示空間は約4メートル×1.5メートル四方。映像・音楽に合わせ、ムスク、バラ、柑橘、クリスマスをテーマとした森・チョコレート菓子といったにおいが、音楽が流れるように次々と切り替わり、最後に映像の終わるとにおいも消えるという数分間のインスタレーションです。 

映像と音楽に合わせてにおいが変化 3つのスポットの間を数歩移動すると別のにおいに包まれる

この演出のカギとなるのが、嗅素のコントロールを可能とするにおい制御技術のTensor Valve(TM)テクノロジー10月5日に発表したにおい提示装置とともに紹介した新規技術です。 ソニー㈱新規ビジネス・技術開発本部で嗅覚事業を統括する藤田修二さんと、当展示で演出を担当した株式会社フロウプラトウ(旧 ライゾマティクス デザイン)の佐藤文彦さんにお話を伺いました。

嗅覚は、本能・感情・記憶に直接結びつく感覚。人の安心・感動へのアプローチとして、においを活用していく

ソニー 嗅覚事業室 藤田さん

今年10月に、におい制御技術Tensor Valve テクノロジーと本技術搭載の新商品におい提示装置『NOS-DX1000』を発表しましたが、発表以降、ありがたいことに医療業界や食品業界など大変多くの方から反響がありました。
においのコントロールの難しさを解消したい、手軽に扱いたいというニーズが多いことを日々実感しています。

嗅覚は、本能・感情・記憶に直接結びついていることから、人の安心や感動に関わるアプローチとして、嗅覚を活用することはとても理にかなっていると考えています。
今回のSTEFでは、Tensor Valveテクノロジーの応用例として、当技術を搭載したモジュールを最小単位として、空間に自由に配置し連結して数を増やせる空間芳香に関する新提案「Grid Scent構想*」を紹介しています。
*Gridは訳すと格子。モジュールを自由に空間配置できることを連想させるワードを盛り込み名付けています。

今回展示しているインスタレーションは、その空間芳香の実例としてご紹介したものです。

左:Tensor Valve テクノロジーを搭載したモジュールのモック展示 
右:Grid scent構想のイメージ
におい制御をモジュール単位で行うと、空間芳香の演出に自由度が増す

 空間芳香で「においを即時にオンオフし、強弱をつけ、また足し引きもできること」を伝えたい

ソニー 嗅覚事業室 藤田さん

Tensor Valve テクノロジーでは、限られた量のにおいのみを高出力して提示できます。においが拡散し一定の域に濃度が薄まることで、においを必要以上に広げずに届けられるのが特徴です。
展示では、当技術搭載のモジュールを使い、指向性のある気流をファンと組み合わせることで、横50センチ四方の範囲で、1メートル以上離れた所に届けることが可能です。これにより、数歩離れた場所で異なるにおいを楽しめるようになりました。様々な業種における企画や研究者、マーケターの方など広い意味でのクリエイターの方々が、においを取扱いたいと思い立った時に手軽な選択肢として選んでもらえるツールになることを目指しています。

技術交換会であるSTEFの場を通じ、社内外の多くの方のフィードバックやご意見を頂き、オープンイノベーションの発想でこの技術の新たな可能性を広げていきたいです。

 音楽を紡ぐように、においを紡ぐ新たな体験を作り手は自由に演出できる

株式会社フロウプラトウ 佐藤さん

10月のにおい提示装置の発表後、藤田さんからTensor Valve テクノロジーを空間演出に応用したデモを受け、とても可能性を感じたという佐藤さん。

「本技術により、『におい』の演出に空間・時間という軸を加えて設計できるということ。人にどのような感覚を与えられるか興味がありました。従来のにおいの表現では、においを広げる範囲や放出する量の調節に課題がありました。空間を分けないと範囲のコントロールが難しく、また換気しないと時間差で別のにおいに切替えできません。ですが、本技術では音におけるスピーカーのように、においを感じる空間・時間を調節でき、音楽を紡ぐようににおいを紡ぐ”香楽”を、作り手の自由に設計できます。」

‐今回の演出において一番こだわった点は

「 具体的な映像とにおいを組み合わせるのは分かりやすい一方、用途の想像がつきやすいので、今回はあえて抽象的な映像で構成しました。
においには「情景」を想起させる力があるので、この特性を生かした演出にトライしました。例えば、緑の点で構成する映像に草の香りをあてると、ある人には、一面の草原や森の情景が浮かぶかもしれず、そこに、甘いお菓子の香りがすると、クリスマスをイメージするかもしれない。同じ映像も、においが想像を掻き立て、見る人のイマジネーションや記憶によって見え方が変わります。今回はやや実験的な試みですが、体験した方が「自分ならこの技術をどう使おう」と想像を膨らせるきっかけになればと思います。
においを時間ごとにコントロールできると、思い浮かぶ「情景」が移り変わり、「物語」を紡ぐこともできるかもしれませんね。」
 
‐演出では、におい成分の選定にも、さまざまな工夫があったそうですね 

「 数分間の中で『においのオンオフ・強弱・足し引き』を中心に3種類のデモをしていますが、特に足し算の要素を伝えやすい「におい」の選定・設計に苦労しました。100種類近く嗅いで選定したのですが、同じ分量のにおいでも、繊細さや人への感じやすさに違いがあり、必ずしも程よく感じられる訳ではありません。においの組合せを考えたのは初めての経験でした(笑)。
なお、演出面では、においが空間を移動するかのようなパンニング(音において音像定位を変化させる表現)にも新たにトライしました。」

においの演出プランの譜面のようなイメージ 
においのオンオフ・強弱・足し引きを、3つのチャンネル(L/C/R)で同時にコントロールしている

 「人間の嗅覚は視覚や聴覚に比べて記憶と結びつきやすいので、パーソナルな記憶を呼び覚ます体験に本技術は相性がいいと思います。例えば、本を開くと香る、傘を開くと香る、明かりを灯すと香るなど、過去に誰もがしたことのある行動と紐づけたインタラクティブな体験も試してみたいです。今後もさまざまな可能性を考えてみたくなる技術です。 」

㈱フロウプラトウの佐藤さん(左)とソニー 嗅覚事業室の藤田さん(右)

STEF2022の取組は、以下の特設サイトでご紹介しています。
ぜひご覧ください!

執筆:広報部HT

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