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#46「強み」の診断結果はスタート地点に過ぎない - ポジティブ心理学 -

ここでは、「ポジティブ心理学」の中核的な研究テーマである「強み」について一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、さまざまな定義がある「強み」の中でも特に研究が進んでいる「キャラクターストレングス(徳性の強み)」とは何かについて、一緒に学んできました。

今回の記事では、「強み」を診断する心理アセスメントについて、一緒に学んでいきたいと思います。まず、巷で広く活用されているツールが2つありますので、その2つのアセスメントの紹介をさせて頂き、その後、これらの診断ツールを使う上での注意点やコツについて、一緒にみていきたいと思います。


それでは、早速、その2つの心理アセスメントについて、みていきましょう。これら2つの診断ツールは、欧米圏を中心に、職場や学校などでよく活用されている「強み」のアセスメントツールになります。

VIA調査 (VIA Survey)

まず、一つ目は VIA Institute on Characterが管理するVIA調査(「ヴィア」と呼びます)というアセスメントです。

前回の記事でも紹介したように、この心理アセスメントは、自分の中にある24種のキャラクターストレングス(徳性の強み)の濃淡をみるためのアセスメントになります。僕たち人間は大なり小なり、「人格の一部」を形成する24種の「徳性の強み」を全て持っているわけなんですが、その濃淡が濃いものから順番に1~24番目まで順位として出てくるアセスメントになります。( こちらの詳細に関して、前回の記事をぜひご覧ください)

クリフトンストレングス®

2つ目のアセスメントは、米国GALLUP社が管理する「クリフトンストレングス®」(旧名称の「ストレングスファインダ-®」でも呼ばれます)というアセスメントです。こちら、日経BPの「さあ、自分の才能に目覚めよう新版:ストレングスファインダー2.0」という本が日本でもベストセラーになったこともあり、各書店の自己啓発やビジネスコーナーで目にした方もいらっしゃるかもしれません。

人類共通である「美徳」や「善」とは何かを哲学や宗教、倫理学などの文献研究から導き出したVIAのキャラクターストレングス(徳性の強み)とは異なり、クリフトンストレングスは、さまざまな業界で活躍する200万人のハイパフォーマーたちにインタビューを行い、彼らが自然とやっている癖(これを「才能」と呼びます)を特定しようと試みたのが始まりでした。その結果、十人十色、様々な癖(才能)があったわけなんですが、「これとこれって似ているよね」と因子分析を行っていった結果、34種のテーマ(これを「資質」と呼びます)に分けることができたんです。このアセスメントを受けると、自分の中にある34種の「資質」の濃淡が出てきて、より色濃くあるのが上の方から出るといったアセスメントになります。

このアセスメントのポイントは、VIA調査では徳性の「強み」が結果として出てきますが、クリフトンストレングスは、あくまでも「自然とやっている癖(才能)」が出るだけで、それをうまく使っていけば、「強み(優れたパフォーマンス)」に育ちますし、間違って使えば、「弱み(成功を妨げるもの)」にもなるという点です。(例「まずはリスクを洗い出したい」と自然に思っちゃう癖も、ある状況でうまく使っていくと、素晴らしいリスクヘッジ能力になっていきますが、ある状況で誤って使うと臆病になってしまいます)

名前は「クリフトンストレングス(ストレングスファインダー)」ですが、「強み」を診断しているわけではないという点は押さえておいた方がいいかもしれません。あくまでも、うまく使っていけば、優れたパフォーマンスになっていくその人の癖を見ているツールです。

VIA調査とクリフトンストレングス®の違い

また、よくVIA調査とクリフトンストレングスの違いは何かを質問されることがあるんですが、各々の成り立ちを知っていれば、その違いは明確ですよね。VIA調査は「人類共通の美徳や価値を置く"善"」について、クリフトンストレングスは「優れたパフォーマンスに繋がる“癖“」について見ているものになります。ですから、善い在り方(Being)について明確にしていきたい場合はVIA調査の「徳性の強み」の分類の方がより適していて、パフォーマンス(Doing)について考えたい場合はクリフトンストレングスの方が向いているんじゃないかなというのが個人的な見解です。

「当たっている・当っていない」の「占い」ではない

さて、ここから、これらの「強み」に関する心理アセスメントを用いる際の注意点やコツについて、一緒にみていきたいと思うんですが、このような「性格診断」の類いのアセスメントを受けてみると、よく「当たっている・当たっていない」といったような「占い」になりがちです。特に僕たちジャパニーズは、やはり関係性や相対的な立場を重んじる文化からなのか、なかなか「自分は何者であるか」を自分で決めるのが難しく、「周囲に決めてもらいたい」という欲求が少なからずあると思います。

別にそれ自体、悪いことじゃないと思うんですが、こと、上述の2つのアセスメントツ-ルを用いる際は、一つ注意が必要です。それは、「あなたはO型だから」や「あなたは ”提唱者タイプ” だから」など、人を既存のタイプに分ける性格診断テストや占いとは異なり、これら2つのアセスメントは、自分の中にVIA調査だと24種の「徳性の強み」、クリフトンストレングスだと34種の「資質」を大なり小なり、全て持っているというのが前提になっています。(これは「特性論」という理論に基づいた心理アセスメントだからです)ですから、この2つの心理アセスメントを用いる際は、「当たっている・当たっていない」「ある・ない」のお話にはそもそもならないのが前提なんです。

全ての要素が自分の中にあり、その濃淡を見るものであるため、一概にどんなタイプかは言えない。また、各要素の強度は出ず、個人の中の順位が出るため、人と比較することは出来ない。

ですから、これら2つのアセスメント結果を見て「私・あなたは〇〇タイプだから」といった形で扱っちゃうと、いくらそれがポジティブな内容でも、レッテル貼りになりかねませんので、注意が必要です。

人間はもっと複雑な生き物である

また、2つ目の注意点として、心理学の世界では「テストバッテリー」という「ある心理状況をより明確に把握するために、心理アセスメントを複数用いる」という考えがあります。VIA調査でもクリフトンストレングスでも、しっかり妥当性が実証されているアセスメントにはなりますが、複雑な人間という生き物を一つの心理アセスメントだけで説明することはできません。そのため、診断結果のレポートのみを見て、相手がどんな人なのかを解説するプロファイリングは誤った使い方になります。自分の診断結果を見た上で、改めて自分自身についてどう思うのかを過去の体験と照らし合わせながら深く内省することで、初めて自分の「強み」が明確になっていきます。そのため、アセスメントの結果よりも、自分が思ったことの方を大事にして頂きたいと思います。

自分なりの「言葉」にしてみる

これらの注意点を踏まえた上で、皆さんがこのような「強み」に関連するアセスメントを受けられたとき、まず、自分にとって、それが何を意味するかを考えてみることをお勧めします。

例えば、VIA調査で1番目に「スピリチュアリティ」が出てきました。ここで、「私の強みはスピリチュアリティ なんだあ」と鵜呑みにするのではなく、「自分にとって、このスピリチュアリティって何を意味するんだろう?」「自分の言葉で言い換えるとしたら、なんて言うだろう?」と自分なりの意味づけ、定義付けをしてみてほしいんです。そして、なぜそのように定義付けをしたのかを考えていくと、その言葉に紐づいた色んな過去の経験が思い浮かんでくると思います。そうやって、過去の経験を振り返りながら、自分の言葉で定義してみると、アセスメントの結果をキッカケに、本当の自分の「徳性の強み」や「癖」が見えてきます。

通り一辺倒に書かれた診断テストの結果が「あなた」ではありません。「あなた」は、あくまでも「あなた」であり、診断テストの結果は、そんな複雑な存在の「あなた」を探求するための、あくまでキッカケ、スタート地点に過ぎません。ですから、これら「強み」に関する心理アセスメントの結果に自分自身を定義されるのではなく、まずは、過去の経験を振り返りながら、ご自身の言葉で定義してみてください!

診断結果はあくまでも自分の「強み」を見つけるスタート地点

最後に、クリフトンストレングスを開発した元GALLUP社CEOでネブラスカ州立大学の教育心理学者でもあったドナルド・クリフトン氏の言葉を引用したいと思います。

「ポジティブ心理学の祖父」と呼ばれるドナルド・O・クリフトン

彼は、クリフトンストレングスを開発していた最中、同僚からこんなことを尋ねられました。


「そんなものを作って、もしその診断結果が間違っていたらどうするんだ?」(同僚)

そしたら、彼はこう言ったのです。

「間違っていてもいいんだ。それよりも、その後の対話の方が大事なんだ。」と。


テストの診断結果が当たっていると思うなら、なぜそう思うのか?当たっていないと思うなら、なぜそう思うのか?では、本当の自分はどんな人間なのか?・・・このように、あくまでも診断結果をキッカケに繰り広げられる対話や振り返りが最も重要なんだということを開発者のドン・クリフトン氏も開発段階から仰っていたんですね。

「強み」に関する心理アセスメントは、自分を肯定してくれるものですから、非常に魅力的です。一方、誤った使い方をしてしまうと自分自身や相手を、複雑さを失った「箱(レッテル)」の中に入れてしまう恐れがあります。これらのアセスメントツールを最大限に活用するために、テストを受検された後、ぜひ、以下の問いを大切にしてほしいなと思います。

  • ご自身の結果を見て、まず、どう思いましたか?

  • その「強み/資質」を自分の言葉で表すとしたら、何と言いますか?

  • それはなぜですか?

  • それに関連する過去のエピソードを教えてください。

さて、ここでは主な「強み」に関する心理アセスメントであるVIA調査とクリフトンストレングスについて、そして、それらの診断結果の注意点とコツについて、一緒にみてきました。特にVIA調査は無料で受けられますので、百聞は一見に如かず、ぜひ、受検してみてください!次回の記事では、「強みを活かすために何をすればいいか」について、一緒にみていきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Hickman, A. & Evans, M. C. (2021, March 17). How do CliftonStrengths and the VIA Survey compare?https://www.gallup.com/cliftonstrengths/en/249878/compare-via-survey-cliftonstrengths.aspx

Niemiec, R. M. (n.d.). How is the VIA Survey different from StrengthsFinder? https://www.viacharacter.org/topics/articles/how-is-the-via-survey-different-from-strengthsfinder

Niemiec, R. M. (2018). Character strengths interventions: A field guide for practitioners. Hogrefe Publishing.

Rath, T. (2007). StrengthsFinder 2.0. Gallup Press.

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Shin Matsuguma | 松隈信一郎
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