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2023年10月の記事一覧
瀬取狩【せどり-がり】
新月の海。
指定の座標に着きボートから錨を下ろす。南十字星が冷たく輝く。
髪を結い、ダイビング機材を背負い、海に身を投げる。夜の海底に広がる白化した珊瑚礁。水中ライトが青に染まらない原色の海中世界を照らす。いつも通り、沈められた荷物を回収して浮上する。
甲板に上がり機材を外し、フロントファスナーを下げ大の字で寝転がる。息を整えながら顔を横にして荷物を眺める。
荷物の中身は、 覚醒剤か
法務庁特別審査局調査員・佐伯
ごった返す人々の放つ臭気。汗と熱気がいっしょくたになった猥雑さ。芋飴は公定価格の五〇倍の値段がついている。
闇市の飯屋で、一杯五円の肉入りうどんをその男はすすっていた。
「稼いでるんだろう? なんでこんな場末で食ってる」
「こういう場所のほうがその国の日々の暮らしがわかる」
流暢な日本語でダニエル・リーが答えた。そんなもんかね、と佐伯は言った。
妙なもんだ。佐伯の生きてきた世界では敵
路線バス 魔王城行き
かつてあまねく神の聖地と呼ばれたニネエフの高原とその都は、魔王の手により一晩にして地獄と化した。悪魔と魔獣は跋扈し、緑と土壌は汚染され、それから20年もの間どれほどの民が殺されたか見当もつかない。
そしてそんな魔境において唯一営業が続いている路線バスが存在するのだという。ならば一介の旅好きとして一度乗ってみない訳にはいかないだろう。
早速、その路線バスの途中駅のある北ニネエフ駅前のバス停
派遣で作ろうバベルの塔
突然、上から派遣社員が落ちてきた。地面に叩き付けられた衝撃で、工具がいくつか跳ね上がった。
「バカ野郎! 落ちるならもっと離れたところへ落ちろ! オイ、誰かこれ片付けとけ!」
班長が死体を蹴飛ばし、怒鳴り散らす。いつも具体的に誰にやれと言わないので、誰もやらない。結局は班長が自分でやる羽目になる。
「そっちの作業はいい! 建材の確認と選定が最優先なんだ! 塔に命を吹き込む、重要な工程なん