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「私たちは幸せになるために生まれてきた」 朴慶南


「人はだれも不幸せになるために生まれてきたわけではないでしょう。私たちは、命を与えられたときから、すでに幸せになる権利も力も手にしているにちがいありません。」



「私たちは幸せになるために生まれてきた」 朴慶南



前回の記事につづきまして、この本も「一万円選書」で送っていただいたものです。


本の帯に岩田徹さんのメッセージがありました。


本屋という狭い空間で一日を過ごしています。こんな本と出会えたときは、本屋をやっていて良かった!と思いました。

「私たちは幸せになるために生まれてきた」 文庫本の帯より


僕はこの本を読んで、朴慶南(パク・キョンナム)さんの言葉に憧れを抱きました。


「こんな文章が書けたら!」


それは


「文章」というものが生まれる前の朴慶南さんの大きな包容力を含めて、すべての文章にその優しさが漲(みなぎ)っているのです。


すべての話に慈愛と感動がありました。


「願生」(がんしょう)とアイデンティティ

ドキュメンタリー映画から受けた、メッセージと解説

育児放棄された子どもとのふれあい

お父さんと歴史をふりかえる「ふるさとへの道」

福知山線脱線事故と懲罰

ポル・ポト派による虐殺と赦しの気持ち

友人のお義父さんの「終わらない戦争」

関東大震災と「慰霊の鐘」

全盲の画家の見える色彩

がん患者の医師による「痛みのわかる医療」

ありのままの歌と祈り

考古学と平和

仏師のごとき、滝田栄

カンボジアで子どもたちを「抱きしめる」

東日本大震災の光と影

無言の願い「戦争と平和」

松本サリン事件の冤罪と大いなる愛


この本を読んでみて、感じた感想を目次風に書いてみました。


本当に広く、深いお話で、噛みしめて2度読みました。


朴慶南さんは、名前を男性とよく間違えられるそうですが女性で、鳥取県で生まれ育ちました。


日本人でも韓国(朝鮮)人でもないような〝在日〟という不確かな存在として。


そんな人生を歩む中で生まれた、朴慶南さんのパースペクティブな視点は、エッセイというカテゴリーだけでは捉えきれないものがありました。


まるで映画監督であるかのような、ジャーナリストであるかのような、詩人であるかのような言葉の数々。


一瞬に心を奪われたのは「願生」という言葉。


そもそも私たちは、自分が望んで生まれたてきたわけではありません。

(中略)

人生は思いどおりにならないことばかりのようです。

「生・老・病・死」の四苦がまさにそうでしょう。

そのため、なげやりになったり、虚無的になったりしがちです。

しかし、それではせっかく生まれたかいがありません。

(中略)

それならば、いっそのこと、「自分は願って生まれてきたんだ」と腹を決めて、そこを人生のスタートラインにしたらどうでしょうか。

これこそ「願生」という考え方、生き方の第一歩です。

自分の人生を、正面から引き受けるということになります。


この本は、思いどおりにいかなかった「人生の話」が朴慶南さんのフィルターを通して語られています。


でも、思いどおりにいかなかったのは、不幸なのか?


否、すべてが「私たちは幸せになるために生まれてきた」と思えるのです。


壮絶な話においても、朗読を聞いているかのような慶南さんの語りが、心を癒してくれます。


彼女自身の話もありますが、ほとんどが慶南さんがご縁をいただいた方の話であり、その話は、まるで密着取材したドキュメンタリー映画を見ているのではないかと思うほど心が震え、画面がズームアップ、ズームダウンをくりかえし、ゆらぎのBGMが流れてくるような臨場感があるのです。


加えて


リアリティを持った話なのに、詩のようにまるく包み込まれ、やさしい慈雨が胸中にふりそそぎます。


とくに最後の話、松本サリン事件の被害者であり、当初、犯人ではないかと容疑者にされてしまった河野義行さんの話には、人間の内面にある醜悪さ、また反対に、人間の高貴さ、素晴らしさ、家族(子ども)や知人の「大いなる愛」を感じさせられました。


また


冤罪や報道のあり方、一つ間違えると我が身にも降りかかってくるような恐怖を感じました。


自身が被害者であり、妻もサリンで亡くした上に、警察やマスコミの間違った見解による冤罪、社会からの誹謗中傷。河野さんは、それらと真っ向から闘い続け、無実を証明しました。


その上、オウムの元信者も「被害者」であるという考えから彼らを赦し、交流するのです。


事件後、犯罪被害者の救済や支援活動、マスコミの報道のあり方に対しても一石を投じました。


そんな河野さんの言葉に、深い感銘を受けました。


人は間違えるものですから

人は使命(役目)があるうちは死ねない


そして、この本のタイトルにもなった


「人はみんな幸せになるために生まれてきたのだと思っています。自分がいちばん幸せを感じることを、するべきではないでしょうか」


小説・物語にはよくありますが、エッセイとしてこんなにも広大かつ深遠で、心が震える話が詰まっている本に巡り会えたのは、本当に幸せでした。



【出典】

「私たちは幸せになるために生まれてきた」 朴慶南 光文社




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