見出し画像

「一万円選書」 岩田徹


「63歳にして僕はやっと、ずっと「やりたかった本屋」に近づけたんです。おもしろい本を書いた作家のバトンを読者につなげる本屋に。」



「一万円選書」 岩田徹


北海道砂川市で小さな町の書店「いわた書店」を営んでいる岩田徹さん。


1990年バブル崩壊後


岩田さんは精神的に追い詰められていました。


出版不況、ネット書店や大型書店により、町の本屋がどんどん潰れていってしまっている。本が売れなくなってしまっている現状に加えて、「いわた書店」の店舗を改装した借金もあり、売り上げは下り続け、赤字が膨れ上がっていました。


岩田さんはご飯も喉を通らず、眠れない日が続きました。ついに、下血して入院することにもなりました。

しかし

岩田さんは、本屋をたたむという選択肢はありませんでした。

本を必要としている人がいる限り、田舎の本屋にも生きる道があるはずだ。


と岩田さんは経営状態が悪い中、本屋を継続します。


そんなある日のこと、岩田さんは高校の先輩たちと飲んでいたときに、店の窮状をこぼしてしまいます。

そうすると、ひとりの先輩が

「これで、俺に合うおもしろそうな本を見繕って送ってほしい」


と岩田さんに一万円を差し出しました。


岩田さんは考えます。

これは本屋にとって究極の問いだ、と思いました。

選べなければ、うちにはおもしろい本がないということになる。

その一万円を受け取りながら大きなプレッシャーを感じていました。


岩田さんは、家に帰って本棚を見渡しました。先輩の人となりを考えて、今まで自身が読んだ本の中から10冊の本を選びました。


手紙を添えて本を送ってから何日か経って、先輩は「おもしろかった」と言ってくれました。


また

「俺みたいなやつが100人もいたら、本屋の経営も安定するべ」って言ってくれたんです。


岩田さんの心の中に沸き立つものがありました。


「一万円選書」というアイデアが。

しかし

「一万円選書」をはじめたものの、応募は月にひとりかふたり。


メディアに取り上げられることもあったそうですが、少し話題になっただけで定着はしません。


なにをやってもうまくいかなくて、いよいよ店をたたむしかないと思ったとき

忘れもしない2014年


テレビの深夜番組で「一万円選書」が取り上げられました。


放送の翌日


インターネットの検索急上昇ワードに「一万円選書」が上がります。


それにより、問い合わせが殺到。


「一万円選書」の申し込みが、山のように届いたのです。

「本屋の神様はいた!!」妻はそう言って、一緒に喜びました。

やっと見つけてくれた。本屋を続けていて、あのときあきらめなくて、本当によかった。

(中略)

63歳にして僕はやっと、ずっと「やりたかった本屋」に近づけたんです。おもしろい本を書いた作家のバトンを読者につなげる本屋に。


「人生は何が起きるかわかりません。」
そう岩田さんは語っています。


この本は「一万円選書」で使用している本の紹介や、お客様との選書によるメールのやりとりなど、「一万円選書」の全貌・ノウハウが語られています。全国のいろいろな本屋さんに実践してみてほしいと。


岩田さんは本の業界がより活性化・変化することを求めているのですね。

日本中に個性的な本屋が存在し、みんながおもしろい本を発信する。

読者は、小さな町の小さな本屋で読みたかった本と出会う旅をする。

この業界の明るい未来が見えるようです。


         ◇


以下は、僕の「一万円選書」体験談です。


僕は、いつ何で知ったか忘れたのですが「一万円選書」のことを知りました。すごく申し込みがあるので、一年に何日かしか申し込みができないということでした。それも抽選で。


何回か申し込もうとしたのですが、申し込みの日が過ぎていました。


2020年、3日間だけの申し込みのタイミングが合い、申し込めましたが連絡はなかなかきませんでした。「きっと抽選にハズれたのだ」といつの間にか申し込んでいたのを忘れていました。たまたまメールを開いたときに「いわた書店」さんから「一万円選書の抽選で当たりました」とのメールが。


〇〇様 一万円選書のご注文ありがとうございます。そして3,000通の応募の中からの当選、おめでとうございます。

僕はただの本屋のオヤジでしかありません。出来ることは、お客様の話を聴いて、参考になりそうな本を紹介してあげる事くらいです。

この一万円選書をやってきて判ったことがあります。

お客様自身が、ご自分のこれまでを振り返ることにより、自分の人生と言うものを、立ち止まって考えてみるいい機会にされているということです。

今のうちに誰か、会っておくべき人がいるのでは、大切な人に大事な話をしておくべきではなかろうかと(自然と)考えられるようです。

そんなふうに、少し落ち着いて、違った切り口、別の視点を探り始めた人に、僕は参考になりそうな本を提示するだけです。答えはお客様ご自身がすでに見つけられているようです。

選書カルテにじっくりと書き込むという作業自体が、良い結果を招いているようなのです。実にこの「一万円選書」は、お客様ご自身の「内側の力」によって成り立っているのです。


送られてきた選書カルテという用紙に質問がありました。今までの読書遍歴やうれしかったこと、苦しかったこと、上手に年をとることができますか?やりたいことがありますか? あなたにとって幸せとは何ですか? などなど。


自分自身のことを真剣に考えました。過去をさかのぼっていきました。うれしかったことよりも、苦しかったことの方が多くありました。僕はできる限り丁寧に、自分の辛かった過去を記しました。自分の中の井戸に降りていって、暗闇の中で自らの地下水脈を探りました。その中で出てきた言葉を一心不乱にカルテに書き込んでいきました。

そうして


岩田徹さんがそのカルテを読み、本と言葉を贈ってくれたのです。


「1万円分の本」を選んでもらって自宅に本が届いたとき、わけの分からないくらい心が震えました。


メールで送られてきた本のタイトルを見ただけでも、ジワ~っと感動していましたが、実際に本を手にしてみたときの感動は、今までに経験したことのない感動がありました。


自分の苦しみのカケラを因数分解してもらって、人生のヒント、生きるヒントを提示してもらったような喜びがありました。まるで禅問答のような境地でした。


自分の選ぶ本以外に、選んでもらった、与えてもらった本には、「可能性」や「気づき」や「これからの人生の道しるべ」がありました。


人生にとって大切なことは教えられるものではなく、気づくことであると今まで本を読んできた中で教えられました。


本は、そういった気づきやヒントを教えてくれます。


「選書」


自分の中の深層に降りて行って言葉を紡ぎ、それを読んだ書店員さんがその人ひとりのために本を選ぶ。なんと素敵なことでしょう。


本が大好きな書店員さんの真骨頂がそこにあります。


選書サービスをされている書店が増えています。


本は海のように広く、数えきれないほどたくさん出版されています。


いろんな書店員さんのフィルターを通しての選書は、あらゆる気づきやヒントをもらえれえるのではないかと思いました。

モヤモヤするとき、つらいとき、悲しいとき、先がみえなくなったとき、何もかも投げ出したくなったとき。いつだって本を頼ってください。

本の中にはすべてがある。本はいつだってあなたの人生の味方だから。


機会があればいろんな書店員さんの選書サービスを受けてみたい。


「一万円選書」を体験してみて、そう思いました。



【出典】

「一万円選書」 岩田徹 ポプラ新書



この記事が参加している募集

読書感想文

いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。それだけで十分ありがたいです。