「カーテンコール!」 加納朋子
「あなたは素晴らしい」
「カーテンコール!」 加納朋子
この本を読んでいる間中ずっと、私立萌木女学園の特別補講による半年間の合宿を共に受講しているような、そんな感覚になっていました。
私立萌木女学園はすでに閉校が決まっていました。なので、単位を落とした生徒たちは卒業できないでいたのです。
しかし
萌木女学園の理事長は、そんな生徒たちに救いの手を差し伸べました。
大学の寮で集団生活をさせながら補講を行い、落ちこぼれの卒業保留組を全員卒業させるという、前代未聞のプロジェクトを試みたのです。
その卒業保留組はみんな、何らかの悩みや事情がある女の子ばかり。それもかなりの個性派ぞろいでした。
性同一性障碍
ナルコレプシー
睡眠障害
拒食症
過食症
カフェイン依存症
フーテンの女子
そして
リストカットをくり返す女子
理事長は直接生徒たちに勉強を教える理事長先生であり、彼女たちを管理する責任者でありました。
理事長先生は部屋を2人1組の相部屋にしました。その組み合わせは悩みの解消に通じる絶妙な組み合わせでした。
彼女たちは「ここは女子刑務所か!」と言うほど、管理されていました。
スマホは取り上げられ、外界とは遮断され、連絡をとる方法は手紙やハガキのみ。売店もないし、食べ物も理事長の奥さんと娘さんによって完全に管理されていました。その徹底ぶりは完璧なものであり、昭和の時代に逆戻りしたかのようなアナログな生活が設定されていました。
でもそれは、理事長が仕組んだシナリオであり、理事長もかつて深刻な悩みを抱えていて、過酷な体験をした過去があったのです。
だから、彼女たちを献身的に支えました。愛情という愛情をこめて、彼女たちを変えました。はじめは地獄のような合宿だと感じていた彼女たちも
みんなそんな気持ちになっていました。
この物語は、悩みを抱えた女の子たちの視点で語られていく連作短編。
いろんな悩みが顕在化し、少しずつ彼女たちの持っている純粋で、親切で、あたたかい心が互いを癒してゆきました。
そして
卒業前に成長した彼女たちを見て、理事長先生の目頭には涙が・・・
それを見た彼女たちは理事長先生に、
「どうしたの?」と言いました。
理事長先生は自身の過去と、この学校の歴史について語りはじめました。彼女たちはみんな真剣に話を聞きました。
理事長先生の哀しい過去が語られました。
理事長先生は、その苦しみを愛情に変え、彼女たちの悩みを癒しました。その愛情を生徒たちはしっかりと受け取りました。
みんな勢揃いの卒業式
理事長先生は、卒業生たちにこの言葉を捧げます。
こんな素敵な先生がいたら、本当にみんな幸せになるだろうなぁ。
一人の悩みを解消するだけでも先生は大変なのに、生徒全員の問題に対して全集中で気を注いでいる。(気を遣っていないように振る舞っているところも素敵です。)
理事長先生は自分自身の過去の悔恨をエネルギーに変えて、生徒全員を卒業させました。
この本は北海道の本屋さん、いわた書店さんの「一万円選書」に応募して送られてきた本の中の1冊でした。
抽選に選ばれて、選書カルテに書き込み、いわた書店さんに送りました。
その選書カルテの中には、このような問いかけがありました。
今まで嬉しかったこと、辛かったことは何ですか? その他にも何でもいいからあなたのことを教えてください。とありました。
僕はできる限り丁寧に、自分の辛かった過去を記しました。自分の中の井戸に降りていって、暗闇の中で自らの地下水脈を探りました。その中で出てきた言葉を無心でカルテに書き込んでいきました。
そうして、岩田徹さんがそのカルテを読み、本と言葉を贈ってくれるのです。
それは、本当に今までに経験のない貴重で尊いものでありました。
カルテの内容に直接答えてくれるのではありません。送られてきた本を読み、嚙み砕き、味わい、自分で気づきを得るものなのです。まるで禅問答のようでした。
僕は「カーテンコール!」で彼女たちと悩みを共有し、成長していく物語の真っ只中に居て、気づき、救われたのです。
『あなたは素晴らしい』
という言葉とともに。
いわた書店さんも苦しい書店経営の中、「この本のこの言葉に救われました。」と語っています。
『あなたは素晴らしい』
そして
言葉のパスをいただいたと。
「カーテンコール!」の解説は、いわた書店の岩田徹さんです。
本当に素敵な本を贈っていただきました。今までに味わったことのない、こころに泉が湧くような満たされた気持ち・感覚になりました。
そして
加納朋子さんの素晴らしい言葉が、心の底から私たちを応援してくれます!
【出典】
「カーテンコール!」 加納朋子 新潮文庫
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。それだけで十分ありがたいです。