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りんごのかじりかた

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りんごは齧り方によっては芯も種も丸々そのまま食べれます。 りんごを齧るとは、実はりんごを齧る以上の行為なのです。 そしてそれは私たちの自尊心すら回復させます。 落ち込んだとき、う…
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りんごのかじりかた①〜長野県民より愛を込めて〜

りんごのかじりかた①〜長野県民より愛を込めて〜

実はりんごのかじり方一つとっても、一人の人間の尊厳を保つほどの力がある。長野県民としてそのかじりかたを書いておく。だけどまずは、そのかじるものがりんごである、ということの意義を考えておきたい。どうかじるか、の前に、なにをかじるか、である。

ひとつは、りんごほどシンボリックな果実がないだろうからだ。古くは旧約聖書のアダムとエバが食べた禁断の実。あれも別にどこにもりんごという表記がないのに、いつの間

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りんごのかじりかた②〜丸を丸のままに〜

どうかじるか、の前にもう一つ、なぜりんごか、ということだ。あるかじり方をすると、実はりんごは芯まで食べられる。プロはへたまでその気になればいける。この、丸の生命を丸のまま食べる、ということだ。

意外と、手を一切加えず、捨てるところも一つもなく食べているもの、というものは少ない。バナナやみかんであれば、皮のまま食べる人はあまりいないだろうし(時にはいると思うが)、卵はまさに丸っと生命というイメージ

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りんごのかじりかた③〜掌の中の輝くハート〜

りんごのかじりかた③〜掌の中の輝くハート〜

さあ齧ろう、りんごを。
だが焦らないで欲しい。できれば近くのダイエーでりんごを買って手にして読んで欲しい。今年はシナノスウィートの出来がいいらしいから。

りんごの素晴らしさは齧る前からある。りんごを掌でくるんで、2〜3回こすって欲しい。高いオシャレ着でなければ、袖に優しくこすり付けて欲しい。ほら、あっという間に輝くだろう。こんなに簡単にこするだけで光りを増す果物はりんごだけだ。これはリノール、オ

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りんごのかじりかた④〜りんごは己の歯の鋳型〜

りんごのかじりかた④〜りんごは己の歯の鋳型〜

結論からいえば、ケツから齧る。言い方が汚いので、お尻の方から齧る。すると意外とすんなりと芯も含めて食べていける。りんごを丸ごといただくには、下から食べるのだ。ほら、なんだか随分、自分に野性味を感じないだろうか?いままさに生命をひとのみにせんとする、生き物としての己の内なる凶暴性や背徳感が、なんとなく湧き上がらないだろうか。それで正解だ。

この時に大事なのは、齧った痕、すなわち自分の歯型がみえる、

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りんごのかじりかた⑤〜下から齧れば人生がみえる〜

りんごのかじりかた⑤〜下から齧れば人生がみえる〜

りんごを尻から、下から齧ったろうか。甘かったと思う。

りんごを下から齧るのは、言い換えれば、重力を食べるということだ。比重の高い、糖度の強い果汁が時間をかけて下へと溜まってくる。つまり、一番甘い部分からりんごを齧ることになる。

本来であれば、甘みの浅い部分から食べていけば、常に舌は次の一口を甘く感じ、食べ終わるまで口の中の満足度は右肩上がりのグラフを描くことになる。(りんごを食べる目的が、甘い

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りんごのかじりかた⑥〜からっぽのりんご〜

りんごのかじりかた⑥〜からっぽのりんご〜

りんごをお尻から齧ったあなたは、芯も種も思ったよりも簡単に食べれたことに驚いていると思う。手にはヘタだけが残っているはずだ。それを飲み込むかどうかは自由だ。いずれにしろ、きっと今あなたはいままで味わったことのない不思議な満足感を得ているだろう。もう一度、りんごを下から齧り丸々と食べることの意義を思い出しておこう。

・りんごは人類のDNAレベルに刻まれた普遍的、シンボリックな果実である。
・手や袖

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