シェア
春助
2024年6月11日 20:13
メロスは激怒した。「ジェノサイドを許すな!」青空の元で煌々と照らされる彼らは、高らかに看板や拳を掲げ、街を行進している。昨今の世界情勢はひどいものだ。もう戦争が起きても、以前ほど驚く反応も得られない。人々の感覚は少しずつ麻痺している。彼らの掛け声は威勢よく響く。Fuck Israel!メロスは独善的である。王に怒れる者は、身勝手な結婚式も、友を人質として差し出すことも、犬を蹴と
2024年5月8日 21:02
波のような音がきこえる。目の前が真っ白になって、全く人々の表情が見えない。遠く連なる光。ライトはものすごい光で私を照らしている。途端に緊張が解けて、その時いつも、光はこんなに眩しかったっけ、と思う。その時間が、本当に好きであった。無機質なリズムが赤く点滅している。夕闇に浮かぶビル群のたくさんの光を背景に、左右から電車のライトが次々に近づいてくる。東海道線はいつもとんでもなく人が詰
2024年4月9日 22:56
たとえば、猫が空を飛んでいるような。私はぼけっとして草むらに寝そべって、雲の流れを見ている。意外と雲は早く流れているな、と思いながらミサイルの通知を無視する。それで死んでもいいし、もしくは生きていてもよいのだ。暑くもなく、寒くもなくて、風は体温よりわずかに低いので、このまま眠ってしまいたくなる。しかし、猫が空を飛んでいるから、そろそろイワシが降るな、というような。たとえば、宗教とか音
2024年2月18日 19:56
午前8時に目が醒める前、浅い夢を見た。寒くて布団から出たくないはずだったのに、そうではなかったからだ。突然やってきた麗らかな陽だまりに、思い出したのだ。春の匂いはとても穏やかで、凍えていた木やビルが弛緩してゆくのを感じた。季節の隙間は、世界のふたが外れる一瞬の綻びである。これから世界に春のふたがされたら、私はまた何も思い出さなくなる。だから今夢を見たのだ。砂時計。ペテルギウスはも
2023年8月10日 22:03
多摩川の向こうの灰色の都市は、よそよそしく砦を築いている。ビル群のスカイラインから湧き立つ雲は次第に橙色を帯び、煙が匂ってくる。私はひとりで散歩している。イヤホンから鳴るラヴェルの緻密な和音は、孤高の景色を彩る。青い空の奥から橙色が染み出している。こんな色のジュースをどこかで見たことがある。草むらに花火の残骸を見つけて、会わなくなって久しい人のことを思い出した。もし今、空が同じ色をし
2023年12月16日 22:35
前髪が張り付く。樹木の帝国は白い霧に包まれ、なにかの動物の鳴き声が甲高く響いた。夜明けか夕暮れかも分からないここは、きっと地球の裏側だ。嘘みたいに鮮やかな鳥が、深い緑にハイライトを彩っている。嘘みたいな色のこの植物には、きっと毒があるに違いない。私は森を彷徨っている。驚くほど大きな草木を面白がったのも束の間。煩わしい熱気と湿気に、気持ち悪い虫たちが蠢いている。もうこんなところはうん