春助

浅き夢見し

春助

浅き夢見し

マガジン

  • 《映像》エッセイ集

  • 所感

最近の記事

都市の曇天に香る密林は原始を思わせ、知りえぬ本当の大地を奇妙に懐かしく思う。窓を開けて青い夕方を取り込む。雑踏が遠い。鳥の声は厭世的に反響し、都市の退廃を謳うようだ。この時、総てがくだらなく思える。私は文明に拝謝し、しかし文明を嫌悪する。欲する無限への帰還を畏れる己に辟易する。

    • メロスと犬

      メロスは激怒した。 「ジェノサイドを許すな!」 青空の元で煌々と照らされる彼らは、高らかに看板や拳を掲げ、街を行進している。 昨今の世界情勢はひどいものだ。 もう戦争が起きても、以前ほど驚く反応も得られない。 人々の感覚は少しずつ麻痺している。 彼らの掛け声は威勢よく響く。 Fuck Israel! メロスは独善的である。 王に怒れる者は、身勝手な結婚式も、友を人質として差し出すことも、犬を蹴とばすことも許容されてしまうのである。 要するに、彼らが行進する道路に面したマンシ

      • このカフェは本当にカフェとしての機能を持っているのか? 渋谷から原宿方面へ行く細道や、表参道の裏道などでよくこう考える。 もっと馬鹿らしいものは、新大久保に多い。 ただ果物にチョコレートをかけてハングルでラッピングすれば、軽薄な女は列を成すのだ。 東京とは、もはや巨大な空虚だ。

        • 怪獣

          波のような音がきこえる。 目の前が真っ白になって、全く人々の表情が見えない。 遠く連なる光。 ライトはものすごい光で私を照らしている。 途端に緊張が解けて、その時いつも、光はこんなに眩しかったっけ、と思う。 その時間が、本当に好きであった。 無機質なリズムが赤く点滅している。 夕闇に浮かぶビル群のたくさんの光を背景に、左右から電車のライトが次々に近づいてくる。 東海道線はいつもとんでもなく人が詰め込まれていて、見ているだけで不快感が込み上げる。 黄色と黒のしましまのバーの前

        都市の曇天に香る密林は原始を思わせ、知りえぬ本当の大地を奇妙に懐かしく思う。窓を開けて青い夕方を取り込む。雑踏が遠い。鳥の声は厭世的に反響し、都市の退廃を謳うようだ。この時、総てがくだらなく思える。私は文明に拝謝し、しかし文明を嫌悪する。欲する無限への帰還を畏れる己に辟易する。

        • メロスと犬

        • このカフェは本当にカフェとしての機能を持っているのか? 渋谷から原宿方面へ行く細道や、表参道の裏道などでよくこう考える。 もっと馬鹿らしいものは、新大久保に多い。 ただ果物にチョコレートをかけてハングルでラッピングすれば、軽薄な女は列を成すのだ。 東京とは、もはや巨大な空虚だ。

        マガジン

        • 《映像》エッセイ集
          9本
        • 所感
          5本

        記事

          【所感】5-猫と高校生

          やっぱり、猫が好きだと思う。 駅からだいたい10分くらい離れれば、だいたい猫の住む住宅地がある。 猫が野良犬と同じ扱いでないのは、不幸中の幸いである。 散歩しているとき、猫が通り過ぎた。 理由はなく、理由など要らず、ラッキーだと思う。 制服に着られている感じの、多分高校一年生の男子が走っていった。 モサっとした感じの彼は、顔を低くして膝の曲がった前屈みのフォームで走っていった。 怒ったような、でも表情筋の不足した表情で。 彼の背後を、桜の花びらが追っていったのを見た。 その

          【所感】5-猫と高校生

          対岸のひかり

          たとえば、猫が空を飛んでいるような。 私はぼけっとして草むらに寝そべって、雲の流れを見ている。 意外と雲は早く流れているな、と思いながらミサイルの通知を無視する。 それで死んでもいいし、もしくは生きていてもよいのだ。 暑くもなく、寒くもなくて、風は体温よりわずかに低いので、このまま眠ってしまいたくなる。 しかし、猫が空を飛んでいるから、そろそろイワシが降るな、というような。 たとえば、宗教とか音楽や、旅行とか映画など。 そのような愛の教えが、生命に意味づけをしているに違いな

          対岸のひかり

          カーテンからわずかに漏れる街灯のあかりが、薄暗い部屋に肉体の輪郭を演じた。 こういう時、少し怖い目をする。 その黒い目が少し下を向いた時、それは始まりの合図だ。 首筋を真近に見た時、バッハのパルティータを思った。 いつも完璧な構造に破滅が香る、まるでグールドの指先のようなのだ。

          カーテンからわずかに漏れる街灯のあかりが、薄暗い部屋に肉体の輪郭を演じた。 こういう時、少し怖い目をする。 その黒い目が少し下を向いた時、それは始まりの合図だ。 首筋を真近に見た時、バッハのパルティータを思った。 いつも完璧な構造に破滅が香る、まるでグールドの指先のようなのだ。

          せかいのふた

          午前8時に目が醒める前、浅い夢を見た。 寒くて布団から出たくないはずだったのに、そうではなかったからだ。 突然やってきた麗らかな陽だまりに、思い出したのだ。 春の匂いはとても穏やかで、凍えていた木やビルが弛緩してゆくのを感じた。 季節の隙間は、世界のふたが外れる一瞬の綻びである。 これから世界に春のふたがされたら、私はまた何も思い出さなくなる。 だから今夢を見たのだ。 砂時計。 ペテルギウスはもうすぐ死ぬのだと聞いた夜が妙に明るかったのは、雪が積もっていたからだ。 ぼんやり

          せかいのふた

          家に着いて、ひとりであることを知る。 暖房のリモコンを押すとき。 コートを適当に椅子にかけるとき。 冷たい風を受けてボサボサになった髪の毛をそのままにしているとき。 疲れた、疲れた。 壁のしみを見つけて、私はいつか死ぬことを思い出した。 まるで詰まった排水溝である。 明日なんて来なければよい、と思っては寝落ちる生活にくたびれた。 いつだって明日は怖いものだ。 私は明日死んだって後悔しない。 なぜなら今とっても疲れているからだ。 どれだけ歳を取っても、人は誰かの子どもである

          凍える指でさえ、触れた結晶はすぐに形を失った。 なんて残酷な世界だろうか。 雪の降る夜、アスファルトの上でそのように思った。 静かだ。 今この白い世界には、私しかいないと思えた。 雪は音を吸収するから、という理屈を聞きたいのではない。 さっきの夜のしじまの理由を、聞きたいのだ。

          凍える指でさえ、触れた結晶はすぐに形を失った。 なんて残酷な世界だろうか。 雪の降る夜、アスファルトの上でそのように思った。 静かだ。 今この白い世界には、私しかいないと思えた。 雪は音を吸収するから、という理屈を聞きたいのではない。 さっきの夜のしじまの理由を、聞きたいのだ。

          【所感】4

          駅前地下街のクリスマスコーナーが撤去された。 いまだかつてないほど、速い時の流れを体感している。 正確には体感していない。 時の流れを正確に体感出来ていないから、速く感じるのだ。 もう年の瀬だなんて、信じられない。 この間夏が終わったばかりだったはずだ。 私は冬用の服を買うでもなく、有り余った服で師走をしのいだし、このまま厚手の布団を買うでもなく、服を着たまま1枚の毛布をかぶって冬を越すのだろう。 季節に取り残される、とはこのことである。 なんだか色々なことがあった一年だっ

          【所感】4

          首都の若者

          赤い霧の  霧の中で 踊る人はわたし 火をつけたの 渋谷に 何者にも成れない 何者が 横顔を紅く染めて 見上げる 見上げる スクランブルビジョンが 灰になるまで 青い線の 電車の中で 叫び惑う人たち 刺してやったの あいつを 夢やぶれて、東京あり 使い果たした夢の果て 夜に虎がやってくる 誰も誰も 努めるな 煌めくな 幸福な笑みを 浮かべるな 赤い霧の  霧の中で 踊るあんたも 破れたのね 東京に わたしたち もう疲れたの 夜が明けたら 全部終わりさ

          首都の若者

          忙しい日々の中では、コンビニの弁当をレンジでチンすることが精一杯である。精一杯の惣菜を買い集め、安い梅酒を添える。明日からの仕事に備え、精一杯の贅沢を尽くす。本日の謝肉祭。 サンサーンス! 醤油の匂いを悲しいくらいに思い出さないように、私にはこのくらい無機質な宴が相応しい。

          忙しい日々の中では、コンビニの弁当をレンジでチンすることが精一杯である。精一杯の惣菜を買い集め、安い梅酒を添える。明日からの仕事に備え、精一杯の贅沢を尽くす。本日の謝肉祭。 サンサーンス! 醤油の匂いを悲しいくらいに思い出さないように、私にはこのくらい無機質な宴が相応しい。

          前髪が張り付く。 樹木の帝国は白い霧に包まれ、なにかの動物の鳴き声が甲高く響いた。 夜明けか夕暮れかも分からないここは、きっと地球の裏側だ。 嘘みたいに鮮やかな鳥が、深い緑にハイライトを彩っている。 嘘みたいな色のこの植物には、きっと毒があるに違いない。 私は森を彷徨っている。 驚くほど大きな草木を面白がったのも束の間。 煩わしい熱気と湿気に、気持ち悪い虫たちが蠢いている。 もうこんなところはうんざりだ。 しかし、森は全く終わりが見えない。 なぜ私が今ここに居るのかも分からな

          文筆家はもちろん上手いが、私は素人の文章が好きだ。 それはプロの合唱団ではない、中学生の合唱コンクールのような。 プロのミュージシャンではない、大学生のコピーバンドのような。 初々しい、はキュンです。 芸術と愛の関係。 巧いだけじゃダメなんだから、難しい。

          文筆家はもちろん上手いが、私は素人の文章が好きだ。 それはプロの合唱団ではない、中学生の合唱コンクールのような。 プロのミュージシャンではない、大学生のコピーバンドのような。 初々しい、はキュンです。 芸術と愛の関係。 巧いだけじゃダメなんだから、難しい。

          【所感】3

          ジブリで一番好きな映画は「おもひでぽろぽろ」だ。 子供の頃から飽きるほど見たものだが、最近気がついたことがある。 タエ子は27歳、トシオは25歳、私も25歳なのだ。 気がついたらアニメのキャラクターが年下になる、なんてことが増えた。 そろそろ、子供時代の答え合わせが始まってくる年齢なのだと思う。 最近は何を書いても過去のことばかり書いてしまうから、きっと27歳のタエ子も同じだったのだ。 私にも、少年の私が常に背後を付き纏っている。 少年の私だけではない。 まだモーツァルト

          【所感】3