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2020年9月の記事一覧

小説 ケア・ドリフト⑥

小説 ケア・ドリフト⑥

 休憩中に、葛西が入院するとの知らせが入った。ちょうど、丹野と一緒に休憩していた東野介護主任の携帯電話に連絡が入ってきたのだ。東野はどうにも不機嫌で、常にムスッとしながら食事を摂っていた。急いで食事を済ませて、喫煙所に逃げ込もうと丹野が画策していたところで電話がかかってきたのだ。
「葛西さん、入院するんだって。家族さんが必要な荷物を取りに来られるから、対応よろしくね」
 電話を終えると、東野はそう

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小説 ケア・ドリフト⑤

小説 ケア・ドリフト⑤

「それで、この施設がヤバいというのは、他にも要因があるんだ。施設長が言うには『私には決裁する権利がない』ってことなんだ。これってどういうことか分かるか?」
 岡田の顔が急に凄みを増した。声も地の底から出すような物に変質している。その声色に、丹野の表情もいよいよ曇っていく。
「つまり理事長が給料出すのを渋ったら、給料がストップするってことだよ。あの理事長の性格からしたら、儲けが少ないとなったら、やり

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小説 ケア・ドリフト④

小説 ケア・ドリフト④

 結衣の住む家に到着したのは一九時を五分程過ぎてからだった。彼女は白い七分袖のシャツにスキニージーンズといった出で立ちで、ポテチを食べていた。
「遅いって言いたいけど、急な残業だから、マー君は責められないよね。会社が悪い」
 助手席に座った彼女にそういう結論を出させてしまうことに、丹野は罪悪感を覚えずにはいられなかった。ちなみに、”マー君”とは丹野の下の名前「真斗(まさと)」から取られたものである

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小説 ケア・ドリフト③

小説 ケア・ドリフト③

「どうかした?」
 君子が声をかける。丹野の記録を書く手が止まっていた。
「それヤバいよ。派遣の職員が一斉に引き上げたら、とんでもないことになるぞ!」
 丹野が危機を募らせると君子も、
「それって八代さんもいなくなるってこと?」
 と慌てだす。すると、スリッパを履いた足音が聞こえてきた。そして、その音は隣のユニットに入ったところで消えた。
「八代さん、特養やまびこへの派遣契約を解消しました。撤収し

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小説 ケア・ドリフト②

 それは数週間前のことだった。丹野は夜勤明けで、帰る前に一服していこうと、喫煙所に寄った。そこにはワイシャツにスラックス姿の男がいて、何やら電話をしている。口調はかなり険しい。
「えっ、分かった。またそっち行って話をつけるから、待っとけよ」
 そういったことを大声でまくし立てるように話している。タバコを家まで我慢しようかと思ったが、喫煙室にいた男と目が合ってしまった。こうなると変に逃げるのも、怪し

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小説 ケア・ドリフト①

小説 ケア・ドリフト①

 山に囲まれた特別養護老人ホームやまびこに何台もの車が入ってくる。しかも午前六時三十分に、である。日の出の時間が四時台になるくらいの時期だが、梅雨明け前の空は厚くて黒い雲のせいか、まだ日が出ていないようにも思えた。この時間帯に入ってくる車の主は、そんな天気の影響を受けているからか、一様に眠そうな顔をしている。彼らは早番と言われる職員だ。
「おはようございます」
 一人の男が挨拶をしながら、喫煙スペ

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