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SF小説『___ over end』

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宇宙と地球を行き来して展開される、リズム良いSF小説です。
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記事一覧

SF小説『___ over end』完結

SF小説『___ over end』完結

 ……こうして、一連の騒動は幕を閉じたのであった。宇宙ステーションに迎えられたルーワァとアルジーが大歓迎されたのは言うまでもない。アルジーは泣き喚きながらルーワァに抱き着いた。極度の緊張と疲労にアルジーの軽くはない体重が押し寄せて、ルーワァはそのまま横にぶっ倒れた。
「やったぁ、やったね、ルーワァ!」
 重い、重いと言いながらルーワァは笑った。筋肉は疲労でピクピクと痙攣しているが、その疲労に含まれ

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SF小説『___ over end』⑫

SF小説『___ over end』⑫

 歩兵たちは白銀の宇宙服に身を包み、顔だけ出して戦う。一昔前まではヘルメットというものをつけなければ船外活動を行うことができなかったが、今では液体の技術が発展し、宇宙服の首のあたりから透明な液体が顔に張り付き、それだけで呼吸も満足にでき、圧力でぺしゃんこになることもないのだ。
 そんな顔だけ出した状態で銃撃戦だ。各々が好きな銃を持ち、好きな色の光線を出すことができるので、遠くから見ると虹がかかった

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SF小説『___ over end』⑪

SF小説『___ over end』⑪

 先ほどは問題を後回しにしてしまったが、シャトルで宇宙にいくには大問題が一つある。それは、連合の許可がなく宇宙にいった場合(例えばルーワァたちみたいに勝手にシャトルを奪ったとか、あるいは自家製のシャトルで独自に宇宙に行こうとしたりした場合)、地球を監視する何百もの小型無人船が一斉に攻撃をし、許可がない船を粉々に砕くシステムが存在するということだ。……後回しにしていいような問題では断じてない。
 ル

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SF小説『___ over end』⑩

SF小説『___ over end』⑩

 都会は情報に惑わされて混沌と化していた。
 月からの刺客に襲われる! と口々に叫びながら人々が大荷物を背負って侵略者の手から逃げようと右往左往しているのだ。しかし月から敵がくるとして、どこに逃げるのが正解なのかが誰にもわからない。車と車が道路で激突し、どこそこに逃げるべきだという主張の戦いが銃撃戦のように繰り広げられており、船も飛行機もどこに向かって動き出せばいいのかを忘れてしまったようだ。
 

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SF小説『___ over end』⑨

SF小説『___ over end』⑨

 警官の携帯で、だだ漏れしていた作戦会議を聞いたルーワァの目つきはみるみるうちに変わっていった。
「行かなきゃ」
 ルーワァはすぐさまアルジーの腕を乱暴に引っ張って車へと向かった。
「どこへ」
「決まってるでしょ、月へよ!」
 この発言にはさすがの父も驚愕してすぐさま娘に反対した。
「ダメだ、ホワイト。危険すぎる!」
 しかしルーワァは車に向かって激走していた。不用心にも鍵が車のドアにかかったまま

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SF小説『___ over end』⑧

SF小説『___ over end』⑧

 静止軌道上宇宙ステーション〈ファースト〉
 対月面基地の本部となったオペレーションルームは大混乱していた。あっちで大声が飛び出し、こっちで発狂が巻き起こり、敷き詰めた人と人が荒波のようにぶつかり合いうねっていた。
「依然〈ヴィンテージ〉からの連絡はありません!」
「しかし基地が内部から破壊されているのは事実です!」
「進行中の大事な実験がいくつあると思っているんだ!」
「知らねえよ!」
「お前、

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SF小説『___ over end』⑦

SF小説『___ over end』⑦

「ホワイト、起きろ」
 体を揺さぶられて、ルーワァは唸りながら目を覚ました。外はまだ暗い。
「何?」
「静かに。家の周りに怪しい奴らが何人もいる」
 父は小声でそう言った。隣の部屋から祖父母に連れられたアルジーが千鳥足でフラフラと歩いてくる。ルーワァも慌てて布団から抜け出して緊張感を携えた。
「こんな田舎の家を誰が狙うの?」
「知らないさ」
「年々この辺りも治安が悪くなってるわ」
 と祖母が呆れた

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SF小説『___ over end』⑥

SF小説『___ over end』⑥

 地球の田舎での生活はのんびりと過ぎていった。
 宇宙食も進化しているとはいえ、やはり採れたての野菜や新鮮な肉で作られた料理には敵わない。時間を気にせず、テレビなんかを点けっぱなしにしながらダラダラと美味しい料理を食べることができる。広大な緑の庭で草野球なんかもでき、ルーワァは金属バッドでホームランを大量生産してピッチャーのアルジーをへこませた。ベッドも訓練生用のそれと比べると遥かに柔らかく、心地

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SF小説『___ over end』⑤

SF小説『___ over end』⑤

 宇宙行きを志望する若者たちを指導した先生方は皆口を揃えてこう言った。
「いいですか皆さん」
「いいかお前ら」
「しっかりと聞け」
「地球連合で働くために一番重要なことがある」
「極めて大切なことがある」
「宇宙は死と隣り合わせだ。太陽系外には未知の敵がゴロゴロといる」
「ズバリ」
「狙撃力――銃の腕前だ」
「十一年前に行われたグリンガン人との大戦争は有名だろう。あの戦争を勝利に導いたのは間違いな

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SF小説『___ over end』④

SF小説『___ over end』④

 静止軌道上宇宙ステーション〈ファースト〉
 地球連合の正規隊員になったばかりの新人たちを引き連れて、教官がオペレータールームに入ってきた。新人たちの顔は緊張しつつも自信と興奮に満ち溢れている。とっくに落第した者たちのことなど忘れているに違いない。
「今日から君たちは晴れて正規の隊員になったわけだが、だがまだまだ学ぶことは多い。そう簡単にお望みの配属船に乗れると思うなよ。君たちはそれぞれ別の宇宙ス

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SF小説『___ over end』③

SF小説『___ over end』③

 地球、オーストラリア。
 二人はエレベーターから降り、別のエレベーターに(ちゃんと人を乗せることが専門のエレベーターに)乗っていた観光客たちと合流し、ぞろぞろと施設の外に出た。
 施設の外にはいきなり繁華街があり、普通に生活している人や観光している人、宇宙旅行からの帰りを迎えにきている人などでごった返していた。ここまでカラフルな世界は二人にとって久々で、ルーワァとアルジーは目を細めた。
 ルーワ

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SF小説『___ over end』②

SF小説『___ over end』②

「アルジーとルーワァ。三十分後の箱に二席用意した。それに乗って地球に帰れ」

 箱とはエレベーターのことだ。そう、地球と宇宙を繋ぐエレベーターだ。こいつに乗って地球から宇宙へと向かう時の感動といったら並大抵のものではない。青い空が次第に漆黒へと変わっていくのだ。頭の先からつま先まで身体の全てに鳥肌が駆け巡る。
 しかし、今はまるっきり逆だ。下降。神秘的な漆黒が安っぽい水色に変わってしまう。
 ルー

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SF小説『___ over end』

SF小説『___ over end』

 月面基地〈ヴィンテージ〉に、一隻の太陽系外惑星探査船が長旅を終えて帰還していた。その宇宙船の背中には、ボロボロになった小型の宇宙船が括りつけられており、基地内で帰還の光景を見ていた月面の職員たちは眉をひそめた。
「これは何です?」
 大きい方の宇宙船から出てきたキャプテンを月面職員たちが質問攻めにする。長旅で疲れているキャプテンはやや苛立ちながら答えた。
「わからない。帰る途中に拾ってきたからま

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