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SF小説『___ over end』⑪

 先ほどは問題を後回しにしてしまったが、シャトルで宇宙にいくには大問題が一つある。それは、連合の許可がなく宇宙にいった場合(例えばルーワァたちみたいに勝手にシャトルを奪ったとか、あるいは自家製のシャトルで独自に宇宙に行こうとしたりした場合)、地球を監視する何百もの小型無人船が一斉に攻撃をし、許可がない船を粉々に砕くシステムが存在するということだ。……後回しにしていいような問題では断じてない。
 ルーワァとアルジーが宇宙にいくことは許可されていない。シャトルに乗り込むことも許可されていない。旧型のシャトルで宇宙にいくことも許可されていない。
許可されていることなど一つもない! 
空が暗くなり始めた頃から、もう小型無人船たちは二人に向かって大砲を次々とぶっ放してきた。
「危ない!」
 ルーワァを始めとする普通の訓練生なら初撃で間違いなく撃墜されている。しかし、歴代屈指の才能を持つアルジーは続々と放たれる太い光線を軽々とかわし、それどころかグングンと加速していった。操縦桿を握るアルジーの顔には躊躇いが一切なかった。
 窓の外の景色がみるみる内に黒を帯び、爽やかな青が吸い取られていく。
 虫を捕まえる網のように光線と光線が折り重なり、まさしく包囲網を形成していた。アルジーは汗を濁流のように流しながら旧型シャトルを操り、懸命に地球軌道の突破を試みる。太い光線の端っこがシャトルの背中をこするような、間一髪の場面も何個かあった。
「避けて!」
「うわっ!」
「うぉ!」
「ルーワァうるさいって!」
 一応シャトルにはキャノンがついてはいるが、ルーワァがそれを使ったところで気休めにもならない。無数と呼んでしまいたくなるくらいに光線と小型船が繁茂しているというのに、彼女が撃ったキャノンは全て外れてどこかへ消えてしまうのだ。素晴らしい才能だ。
 静止軌道上宇宙ステーション〈ファースト〉
 オペレータールームに、歩兵部隊が月面に到着したという連絡がはいった。ミサイルで月面基地粉砕派の人々は大きく舌打ちをした。
「優秀な歩兵を殺すことはできん。これでミサイルは撃てなくなった。どんな結果になっても知らんぞ!」
「結果は一つしかない。成功だ」
「フン!」
 その時、先ほど盛大なやらかしをしてしまった若いオペレーターがまた叫んだ。
「今度は何だ?」
「また何かやらかしたのか貴様!」
「許可されていないシャトルが地球から月面を目指して飛んできています!」
「そんなもの、小型機が撃ち落とすだろう」
「撃ち落とせていないんですよ!」
「何だって?」
 月ばかり見ていた人々が一斉に地球を見た。すると、雨あられのように降り注ぐ光線の中を、旧型のシャトルが凄まじい動きで飛行しているとんでもない光景が目に入った。思わず関心したような声を上げる人もいた。
「誰が乗っているんだ?」
「えっと、男女二人です。元訓練生の――」
「ルーワァとアルジーだ!」
 クリスが興奮気味に言った。
「あの運転ができるのは彼しかいない!」
「何しにきたのよあの二人」
 フィールズ・マーカスが怪訝な表情で呟いた。
「まさか手柄を上げて選考結果を変えてもらおうとしているんじゃないでしょうね」
 教官が隣で青ざめている。
 しかし、クリスたちを除いて、連合の上層部はすぐに視線を月に戻した。確かに素晴らしい操縦ではあったが、撃ち落とされるのは時間の問題に思われたからだ。旧型ジェットは明らかにボディに不満を抱えていて、アルジーが想像している動きと数センチのずれがあった。次第に光線がかする回数も増え、動きにもキレがなくなってきた。
 動き出そうとしたクリス。しかし、フィールズ・マーカスが腕を掴んで離さない。
「クリス! 何する気?」
「あいつらを助けないと。このままだと死んでしまう」
「そんなことしたらあんた宇宙から追い出されるよ」
「構うもんか」
「冷静になってよ。宇宙で働くのは私たちの夢よ。あんな奴らの為にそれを犠牲にするなんて馬鹿げてる」
「仲間だぞ」
「仲間だった」
 マーカスは懇願するような愛着ある目でクリスを見つめた。
「いや、今も仲間だ」
 クリスは華麗な身のこなしで人の間をかき分け、オペレーターの席を奪った。
「おいこらっ、何をするんだ」
「やめろっ!」
「誰だ?」
「こいつもガスにやられたのか!」
 クリスは大人数の上司に席から引き剥がされそうになったが、断固たる意志でその場を動かず、小型船の攻撃プログラミングを消去した。
「貸しだぞ!」
 突然小型船からの攻撃がピタリと止んだ。
助かったのはアルジーだ。口には出さなかったがかなり追い込まれていて、もう死ぬと覚悟しかけていたところだったからだ。突如静まり返った宇宙。光線の音がなくなると、シャトルの中のあらゆる部分から警戒音が鳴っているのがわかった。
「どうして攻撃されなくなった?」
「わからない。でも……ラッキーね」
 二人は大歓声を上げた。月が段々と近づいてくる。
 アルジーが根性を見せた。次はルーワァだ。

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