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SF小説『___ over end』⑤

 宇宙行きを志望する若者たちを指導した先生方は皆口を揃えてこう言った。
「いいですか皆さん」
「いいかお前ら」
「しっかりと聞け」
「地球連合で働くために一番重要なことがある」
「極めて大切なことがある」
「宇宙は死と隣り合わせだ。太陽系外には未知の敵がゴロゴロといる」
「ズバリ」
「狙撃力――銃の腕前だ」
「十一年前に行われたグリンガン人との大戦争は有名だろう。あの戦争を勝利に導いたのは間違いなく銃の熟練度だ。船外戦闘の銃撃戦、小型シップでのスペースファイト、あらゆる局面で優秀な隊員たちの狙撃力が大いなる活躍をした。我々が宇宙の遠方を目指し続ける限り戦争は起きる。自分の命を守り、また地球を守るために、銃の力が必要なんだ」
「戦争だけじゃないわ。船の進路を妨害する障害物の破壊や、未知の物質の回収、船と船とのドッキングも、私たち地球連合では全て銃の使い方をベースにしている。戦争だけじゃない。日常的な任務の一つ一つに銃の扱い方が関わってくる」
「というわけで、練習あるのみ」
「さぁ、訓練です!」
 ……ルーワァはむっつりとして窓の外の景色を凝視した。
「なるほど。地球よりも広い宇宙でより銃が重宝されると。何だか悲しい話じゃ」
 祖父が唸った。
 ルーワァが何も言わないので、アルジーが空気を読んで言葉を紡いだ。
「一日中銃の訓練だった時もあるんです。ひたすら銃を持って標的に見立てた人形を撃ち続けるんです。遊園地のアトラクションみたいなものですね。でも全然楽しくはないですよ。最初は止まっていた標的が一時間後には動き出し、最初は立っているだけだった僕たちも一時間後には様々な地形を想定した凹凸だらけの地面を駆けながら銃を撃つことになります。しかもお昼ぐらいになると敵も銃を撃ってきやがるようになるんです! 敵の攻撃が当たるとまぁ痺れるし痛いしあざはできるしで……とても訓練とは思えない激痛が走るんです。でもそこで悶絶すると教官の罵声が頭上から降ってきます!」
「馬鹿野郎! リアルな戦闘なら死んでいるんだぞ!」
 アルジーとルーワァの声が重なった。
「もういいわアルジー」
 さらに話を続けようとしたアルジーをルーワァが止めた。ルーワァが服の袖をめくる。彼女の腕には、青く腫れて痛々しいあざが無数にひしめいていた。祖父母は呻き、父はハンドルを離して運転を放棄しかけた。
「私は銃の才能がとことんなかったの。訓練での成績はゼロ。つまり百発ゼロ中、千発ゼロ中。動いている標的なんかに光線を当てることなんてできなくて、それどころか、立っていて動かない標的にすらかすりもしないのよ!」
 涙が混ざったような大声で絶望をまくしたて、それが終わると廃人のように座席に沈んでいった。誰も何も言わなかった。
「銃を撃てない奴が宇宙にくるなんておこがましいわ」
「訓練生募集の時点で落とすべきだった!」
「今すぐにでも地球に帰すのはどう?」
「使い物にならない」
「雑用係くらいにはなるんじゃない?」
「そんなもんロボットがやってくれるさ」
「早く諦めればいいのに」
「冷静に考えてさ、一発も当てられないっておかしくない? 赤ちゃんでも百発に一発くらいは当たるだろ」
 ルーワァの脳裏に教官の声がありありと湧き上がってきた。
「筆記テストは問題ない……実技も、銃の扱い方を除けば。……総合値では落とすような点数ではない。だが……だがなぁ……銃を全く使えないのは……」
「ああ……あぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」
 ルーワァは髪をかきむしって今度は暴れ出した。アルジーたちが慌てて止めるが、ルーワァは言うことを聞かない。
「なんで、なんで私には銃の才能がないのよぉ!」
「落ち着けホワイト、車が、揺れる!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁあ!」

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