見出し画像

SF小説『___ over end』⑨

 警官の携帯で、だだ漏れしていた作戦会議を聞いたルーワァの目つきはみるみるうちに変わっていった。
「行かなきゃ」
 ルーワァはすぐさまアルジーの腕を乱暴に引っ張って車へと向かった。
「どこへ」
「決まってるでしょ、月へよ!」
 この発言にはさすがの父も驚愕してすぐさま娘に反対した。
「ダメだ、ホワイト。危険すぎる!」
 しかしルーワァは車に向かって激走していた。不用心にも鍵が車のドアにかかったままになっているのは知っている。
「そうだよルーワァ。僕たちが行ったって何もできないよ!」
「ここで大活躍したら四年待たなくても宇宙で働けるかもしれない。こんなチャンス逃せない」
「四年待つ方がマシだよ! 一日で死ぬよりは!」
 運悪く、ルーワァの方が父よりも車にかなり近い場所にいて、父がどれだけ全力を超えてもルーワァに追いつくことはできなかった。だが、経験の差というものか、未来を知っていたかのように、車の前には祖父母が揃って立っていた。
「止めても無駄だよ、おじいちゃんおばあちゃん。私はここで結果を残してお母さんを――」
 祖母は優しくルーワァを遮った。
「止めにきたんじゃない。渡そうと思って」
 祖父が持っていた包みを「よっこらせ」と呟きながらルーワァに渡した。
「重っ」
「ルーワァ家に代々伝わる剣だよ。きっと役に立つ……さぁ早く行きなさい。娘思いの父親がくる」
「ありがとう!」
 ルーワァは行きたくない行きたくないと喚くアルジーを強引に車に乗せてアクセルを強く踏んだ。土煙を高く上げ、車は天高く伸びる宇宙行きエレベーターがそびえる方角へと走り出した。
「あぁ、もう!」
 息が絶え絶えになった父は、遠ざかる車を見ながら頭を抱えた。
「強盗が押しかけた時は一緒に戦ってたじゃないか」
 と祖父。
「それは地球だからだよ。宇宙となると話は別だ。あいつだって、すぐ帰ってくるね、って言ってもう十年帰ってきてないんだよ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?