見出し画像

SF小説『___ over end』⑥

 地球の田舎での生活はのんびりと過ぎていった。
 宇宙食も進化しているとはいえ、やはり採れたての野菜や新鮮な肉で作られた料理には敵わない。時間を気にせず、テレビなんかを点けっぱなしにしながらダラダラと美味しい料理を食べることができる。広大な緑の庭で草野球なんかもでき、ルーワァは金属バッドでホームランを大量生産してピッチャーのアルジーをへこませた。ベッドも訓練生用のそれと比べると遥かに柔らかく、心地よくて仕方がなかった。朝になれば太陽の光が窓から差し込み、夜の帳が下りたなら、風が草を靡かせる微かな音や、虫たちの会話が綺麗に耳に入ってきて、穏やかな眠りに入ることができる。
 地球は色の星だ。見渡せば色彩豊かな景色が眼球全体に降り注ぐ。音にも色があるようで、匂いにも色があるようだった。
 しかし、だがしかし!
 一日も経てばその感動は消え去り、のどかな時間に対して感じるのはひどく冷たい敗北の実感のみ。夜に空を見上げると、宇宙が果てしなく遠い。手を伸ばしても触ることができないのだ。
 ルーワァは宇宙に行きたかった。どうしても。

「ホワイト、起きろ」
 体を揺さぶられて、ルーワァは唸りながら目を覚ました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?