SF小説『___ over end』③
地球、オーストラリア。
二人はエレベーターから降り、別のエレベーターに(ちゃんと人を乗せることが専門のエレベーターに)乗っていた観光客たちと合流し、ぞろぞろと施設の外に出た。
施設の外にはいきなり繁華街があり、普通に生活している人や観光している人、宇宙旅行からの帰りを迎えにきている人などでごった返していた。ここまでカラフルな世界は二人にとって久々で、ルーワァとアルジーは目を細めた。
ルーワァは人ごみの中で父と祖父母の姿を発見した。
「それじゃ、アルジー」
「うん、また一年後、訓練生募集の時に会おう」
ルーワァは現実を突きつけられて苦笑するしかなかった。
「気が遠くなりそう。またあんな地獄みたいな訓練を三年もやるなんて」
挨拶をして別れかけた二人だが、アルジーが一人で空港にいこうとしていることにルーワァは気がついた。
「アルジー、一人なの?」
アルジーは笑った。
「そう。家族は皆優秀で、上の世界で仕事をしているからね。地球には僕一人」
「ふうん」
ルーワァは少しでも宇宙との関わりを繋げておきたかった。
「じゃ、何日か私の実家で泊まれば?」
「いいの?」
「いいよ。暇でしょ、二人とも」
二人はしばらく乾いた声で笑い合った後、同時に肩を落とした。
ルーワァの家族は、宇宙から零れ落ちた娘とその友達を温かく歓迎した。
「やぁ、お帰りホワイト。三年ぶりだね」
「ごめん、お父さん、私……」
「気にするな。ホワイトはよくやったよ。まさか手を抜いて落ちたわけじゃあるまいし。さぁ車に乗って、お友達も――」
「アルジーです!」
「アルジーか、どうもよろしく! 車に乗って、久々の地球を楽しもう」
祖父母はそのやりとりを後ろで微笑ましく見守っていた。
車に揺られて広大な大地を駆ける。タイヤが小石にぶつかったり溝にはまったりする度に車が激しくバウンドする衝撃は地球でしか味わえない。今や車も時代遅れになりつつある現状だ。アルジーは車に乗るのも初めてだという。
アルジーが驚異的なコミュ力を発揮してルーワァの家族と打ち解ける中、ルーワァは一人座席に沈んだ。
誰よりもお母さんに会いたいと思っているのは絶対にお父さんだ。本当は今すぐにでも宇宙に飛び立ってお母さんを探しにいきたいと思ってる。でもできない。それは技術や知識が劣っているということではなく、お父さんには私やおじいちゃんたちがいるから。養わなければいけないから。気持ちを抑えて努めて明るく振舞い、お母さんがいない生活を充実させようとしている。
だから、私が!
なのに、私は……。
ルーワァは深いため息をついて、現実に絶望した。
すると、祖父が目を輝かせながら家族が一番聞きたがっていることに踏み込んできた。さすが人生経験の長い祖父。タイミングと思い切りがいい。
「ところでホワイト。一体何が原因で試験に落ちたんだね」
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