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テレビCMの投下量規定に関する方法論

タイミーでマーケティングを担当している中川と申します。(Twitter
過去インタビューなど掲載いただいたものです(////

このシリーズでは初めてTVCMを出稿する際に知っておきたいノウハウを綴っています。
前回までを含めた記事一覧は下記です。

・はじめに
【初級編】
・テレビ広告の基礎知識〜市場と視聴率〜
・TVメディアプランニング:視聴率とプランニング(1)
・TVメディアプランニング:視聴率とプランニング(2)
【中級編】
・TVメディアプランニング:エリア戦略
・TVメディアプランニング:投下量規定の方法論
・テレビCMの効果をどう考えるか
・さいごに

前回の記事で、テレビCM出稿の際に「エリア戦略をどう考えるか」という点に触れました。
下記はメディアプランニングをするときに検討する論点ですが、本日はこの中の「投下量」について書いていきたいと思います。
すなわち何GRP(視聴率何%分)の出稿が必要なのか?をどう考えるか です。

・オリエン(広告主からの依頼内容の確認)
・現状分析
・競合分析(特にメディア戦略面)
・オリエン記載の目標達成に向けたKPI設定
・ターゲット分析および設定
・メディア選定
・予算配分(オリエンによっては予算提案も行う)
・エリア戦略
・時期戦略
・(TV)投下量検証
・(TV)コスト検証 -> 局選定/ゾーニング -> フライトパターン検証
・(その他)メディア選定
・メディア全体スケジュールの作成


SPOT(スポット)とタイム(番組提供)

まず、テレビCMには大きく、SPOT(スポット)とタイム(番組提供)があり、これまで実はスポットについて記載してきました。
その違いをざっくり表にまとめると下記になると思います。

画像2

ちなみに最近ですと「スマートアドセールス」といって、15秒CMを1本から変える第3の形態が登場してきてもいます。
 
今回はスタートアップが初めてテレビCMを出稿し、自社のプロダクトの告知をする、ということを想定し、スポットで出稿する場合について記載します。


投下量規定の考え方

投下量について、まず、「どの期間で考えるか」という議論があるかと思います。
1回のキャンペーンあたりの投下量なのか、1週間あたりの投下量なのか、筆者自身も事業会社のマーケティング担当として担当しているアプリなどのアクション(インストールなど)の即時性が高いサービスだと、1日あたりの投下量が気になるところだと思います。
この辺りはご自身の携わるビジネスを鑑みて、期間を検討されてみてください。

さて、投下量の設定に関して、データを分析する際によくあるのは以下の2つの考え方です。

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考え方(1)投下量と調査データの関係性から規定する
考え方(2)投下量とユーザデータの関係性から規定する
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(1)投下量と調査データの関係性から規定する

広告代理店さんやビデオリサーチさんのような会社は過去の実施キャンペーンのデータを非常に豊富に保有しています。過去の同カテゴリや自社のデータを分析し、
「x-GRP投下すると、リーチ/広告認知率/純粋想起率/助成想起率/商品理解度/購入意向がy%獲得できる」
というところから投下量を規定していく方法です。

イメージとしては下図のような散布図と回帰曲線です。

画像2

上記は、
・同じカテゴリの製品・サービス
・過去実施のターゲットGRP(例えばM1とします)と広告認知率
をプロットし、広告認知率を x %獲得するのに、どの程度のターゲットGRPが必要になってくるかを分析しているものです。(ダミーです)

筆者が目にしてきたデータでも、もちろん投下量が増えれば増えるほど、調査した時の広告認知率のスコアは高くなる傾向にあります。しかし、多くのデータを集めると次第に傾向が見え、
「ここまでだと投下し過ぎかもね・・・」というラインが見えてきます。
この辺りから投下量の基準をつくる、というのがこちらの考え方です。

もちろんどんなクリエイティブにするかで、到達できる広告認知率は変わってくるのですが、データを活用することでクリエイティブ要素も織り込んだ上での投下量を決める努力をしていきます。Best Estimateです。


(2)投下量とユーザデータの関係性から規定する

2つ目のアプローチです。
Webサービスやアプリを運用する事業会社の場合、広告認知率や利用意向度よりも実際のユーザーの行動(インストール・利用登録・課金 etc.) をKPIとしているケースが多いと思います。
広告の投下量データをこうしたKPIとぶつけて適切な投下量を検討しよう、というのがこちらの考え方です。

一般にアプリのインストールなどは即時性が高い(CMが1本流れるとすぐにインストールが起こる)ですし、事業会社のマーケターは日々こうした数字は見ていることと思いますので、キャンペーン全体というよりは、「1日にどのくらい投下すれば良いのか?」という方がプライオリティが高い印象です。(もちろん、キャンペーン終了後に、アプリの認知度がどう変化したか、なども気になりますが)

したがって、そういう場合には
・日別(あるいは時間帯別にブレークダウンして)のデータ
・日別のインストール数データ
から、1日あたりの適正投下量を決定。
さらに、予算内で投下できる量からすると●日分カバーできる -> 出稿期間の決定、というアプローチもあります。

ただし、こちらの考え方で留意いただきたいのはTVCMの投下量には閾値(threshold)もあるのもまた事実だと思う点です。
すなわち、積み上げで考えるからと言って、「3日間で数百GRPだけ投下する」というやり方はお勧めしません。であればやらない方がベターだとも思います。
それは、様々な製品やサービスのCMが流れている中で、認知してもらったり、インストールなどの行動を起こしてもらうには、人々のマインドシェアを取りに行く必要がある、そのためにある程度の回数アプローチをする必要がある、というのは肌感でも納得感あるのではないでしょうか。

こちらの方針で投下量をプランニングしていく場合は、デイリーの投下量と、全体としての規模感の両輪をレビューしながら決めていく方針がお勧めです。


TVCMの累積効果

今、アプリのような行動の即時性が高いサービスについて触れましたが、他方で自動車に代表されるように、検討期間が長い製品・サービスもあるかと思います。
そうした場合は、キャンペーン後に考え方(1)で見たような調査項目(広告認知率/純粋想起率/助成想起率/商品理解度/購入意向等)がどう動いたか、で検証をしていく方法もありますし、「TVの累積効果」を可視化するアプローチもあるかと思います。

意見が分かれるところかもしれませんが、そもそもテレビCMは流れたら終わりでしょうか?すぐ忘れてしまうものでしょうか?
あるタイミングでテレビCMに接触し、その後スマホ広告で思い出す、電車の中のステッカーで想起する、などユーザー(視聴者)の頭の中に残り続ける可能性もあります。
あるいは、「今見たCMの新商品、来週の特売で買おう」とタイムラグが発生しているけれども実際にはテレビCMでの認知効果が寄与しているケースもあるかと思います。

1つ1つのケースを見ているだけでは中々テレビCMの累積効果を示すのは難しいですが、そうしたケースの集積であるデータ(売上等)とGRPのデータから、テレビCMの累積効果を検証してみることはできる、と、筆者は考えています。
具体的な方法にまで踏み入ってしまうと長くなってしまうのでここでは割愛しますが、残存のGRPを仮定して、その相関をみる、が基本的な分析方法になります。

この辺りの納得感次第ではありますが、こうしたテレビの累積効果が見えると、テレビCMの投下量の「上限値」や「年間プラン」も検討しやすくなるかと思います。それは、累積効果があるので、まだ打たなくて良いよね、であったり、累積効果加味するとこんなに投資しているのにKPI/KGIへの跳ね返りがサチュレイトしてきた、、上限値の基準はこのくらいか、といった判断をする拠り所が生まれる、ということです。


投下量の規定に関するその他の視点


リーチから考える

これまで、投下量と過去データから適正量を決めるというアプローチをご紹介しましたが、もちろんこの他にも投下量を決めるアプローチはあります。
代表的なものはまず、「リーチから考える」というものでしょうか。
「ターゲットに何回見せる」、だったり、「このCMを3回見てもらう人をx%とりたい」という結果から逆算してテレビの出稿量を決めていく、というアプローチです。

その際、よく用いられるのは 「リーチ3+をz%」という考え方で、このCMを3回以上見た人をz%獲得していく、というものです。
単純に到達率のみを見るわけではなく、一人に何回見せれば良いのか?といういわゆるフリークエンシーの概念も含まれてプランニングしている点が特徴的です。
フリークエンシーに関しては「スリーヒッツセオリー」という3回を基準にする理論が有名です。接触回数別の分析記事なども参考にしてみてください。

市場になじみのない新製品やサービスの場合、まずは情報を届ける、ということを重視し、リーチの観点から投下量を決めていく、というのもアリとは思います。
(ちなみに、上の考え方(1)(2)の場合でも、最終的に作ったメディアプランで、どのくらいの人が何回見るのか、の数値感を掴んでおくことは非常に重要です。なぜなら、効果を分析するにあたり、母数がテレビCMがリーチした人の数、になることがあるからです。)


SOV(Share of Voice)で考える

もう一つよく見聞きするのは、SOV(Share of Voice)の考え方です。
個人的な感覚で恐縮ですが、市場のプレイヤーが出揃っている成熟産業やシンプルに競合の数が多い消費財領域、シーズナリティの高まるシーズンが決まっている業界等でSOVを重視されるケースが多い気がしています。

これは競合B社がいるA社が、自社の広告の絶対量ではなく、競合B社の出稿量に対してどのくらい出稿(露出)するか、という考え方です。
簡単にいうと、「予想される相手の出稿量を上回ろう」であったり、「負けないように相手の1/3の量は出稿しよう」といった判断をする、というものです。
シーズナリティのはっきりした商材の場合、年間のカレンダーの中で出稿してくるであろう時期はだいたい予想できるため、過去データも分析しながら投下量を決めていく、ということはあり得ます。

SOVで出稿量を判断する場合は、SOVと売上の関係など、データを分析した上で決めていくのが良いかと思います。


以上、テレビCMの投下量をどうやって考えていくか、について代表例を解説しました。
当然ですが、世帯コスト(視聴率1%あたりいくら)で値付けがされているため、投下量がテレビCMの予算に直結してきます。事業会社のマーケターとしてはこの辺りの量が自社にとって適正か(多すぎないか、だけを指摘しているわけではなく、少なすぎても効果がなかったら本末転倒です。)、広告代理店さんと議論していけることが望ましいかと思います。

次回はTVCMの効果をどう考えていくかについて、改めて記載していきたいと思います。
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(参考書籍です)

「初めてテレビCMをやる前に知っておきたいプランニングノウハウ」
・はじめに
【初級編】
・テレビ広告の基礎知識〜市場と視聴率〜
・TVメディアプランニング:視聴率とプランニング(1)
・TVメディアプランニング:視聴率とプランニング(2)
【中級編】
・TVメディアプランニング:エリア戦略
・TVメディアプランニング:投下量規定の方法論
・テレビCMの効果をどう考えるか
・さいごに


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