恐怖で目覚める新たな力!異能力バトルが始まりそうで始まらない!何かの前日譚のようだけどそうでもない!これは一体何映画なんだ…「ラプチャー 破裂」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(701日目)
「ラプチャー 破裂」(2016)
スティーヴン•シャインバーグ監督
◆あらすじ
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蜘蛛が嫌いなシングルマザーのレネー。ある日突然、見知らぬ男達に拉致される。謎の隔離施設で目覚めた彼女を待っていたのは、被験者に”生きている中で一番嫌いな物”を与え続ける人体実験。拘束され、動けない状態での執拗なまでの“蜘蛛攻め”の果て、レネーの体は驚愕の変化を見せ始める--。この異様すぎる実験は一体、誰が何のためにおこなっているのか―?(Filmarksより引用)
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『ある日突然見知らぬ男たちに拉致され、怪しい施設に連れてこられた主人公。そこで行われる狂気に塗れた実験の真意とは、そして彼女が迎える運命は…』という内容のSFパニックスリラーですが、公式ではSMホラーと称されています。
設定に関する説明をあえて最小限に留めながらも、意味ありげなワードをこれでもかと連発することで壮大な世界観を視聴者に想像させる演出は中々に飲み込むのが難しいんですけども、個人的には想像力が膨らむので面白かったです。
この『風呂敷を広げるだけ広げて何の回収もせずに終わらせる』というのが、打ち切りになった漫画のヤケクソ気味の哀愁漂う最終話のようでもあり、なんだか懐かしい気持ちにすらなりました。私はジャンプの打ち切り漫画を収集する程の打ち切り漫画愛好家だったこともあり、今作のことが妙に引っかかるというかほっとけなくなりました。
「ダブルアーツ」、「ソワカ」、「タカヤ-閃武学園激闘伝-」、「バレーボール使い 郷田豪」、「青春兵器ナンバーワン」、「クロス・マネジ」、「新米婦警キルコさん」と挙げだしたらきりが無いくらいに、短命に終わったけども面白かった作品はたくさんあります。それと同じ匂いが今作からも漂っていました。
個人的にはですけど、「あの時オレは●●と…」とか「君は■■から戻って来たじゃないか」とか「◆◆はどうしているんだろう…」とか気になるセリフや設定を伏せ字にして散々っぱら散りばめておいてそのまま終わってしまった「ゾンビ•パウダー」に一番近いかもしれません。
「BLEACH」でお馴染みの久保帯人先生のデビュー作なので、もちろんめちゃくちゃ面白いです。連載復活を今でも願ってます。
すいません。話が逸れました。戻します。
今作の主人公レネーを演じたノオミ・ラパス氏はスウェーデン出身の俳優で、代表作としてはジャーナリストで作家のスティーグ・ラーソン氏による小説「ミレニアム」を映画化したミレニアム3部作(「ドラゴン・タトゥーの女」、「火と戯れる女」、「眠れる狂卓の騎士」)のヒロイン•サランデル役が一番有名だと思われます。
デヴィッド•フィンチャー監督版の「ドラゴン・タトゥーの女」(’11)の方が知名度としては上なんじゃないでしょうか。正直、私もこちらの方しか知らなかったですし、3部作の一つだということも今日知りました。ちなみにノオミ版のミレニアム3部作の方が映像化としては先となっています。3作とも3時間超えの大作なので見る方も体力持っていかれそうですね。
その他にもラパス氏は「エイリアン」シリーズの前日譚を描いた「プロメテウス」(’12)、可愛らしい羊少年やキモい羊男が登場する北欧神話系ホラー「LAMB/ラム」(’21)など数多くの作品で重要なポジションを担っています。
監督のスティーヴン•シャインバーグ氏は今作以外だとちょっとアダルティでSMチックな長編映画を2本ほど手掛けておりますが、今作を発表した2016年以降の活動は不明です。脚本を担当したブライアン•ネルソン氏も同様に今作を最後に映画の脚本などには携わっていないようで、過去には良い感じのB級ホラーやB級アクション映画の脚本を担当していたようです。
現在アマゾンプライム、U-NEXTにて配信中です。ちなみにミレニアム3部作の方はDMMTV、Lemino、WOWOWにて配信中です。
◇蜘蛛が苦手なシングルマザーのレネーは反抗期の息子に手を焼きながらも慎ましく暮らしていた。週末には離婚した元夫のもとへ息子を預けねばならず、毎度の事ながら口喧嘩となり、息子を送り届けた後も気もそぞろのまま車を運転していた。そんな彼女を付け狙う怪しい連中は用意周到な手口でレネーを一瞬にして拉致、どこにあるかも分からない研究施設へと連れて行った。ベットに拘束され、あらゆる尋問を受けるレネーに対する「君はもうすぐだ」、「興味深い肌だ」、「資質がある」などの意味不明な言葉の数々の真意とは一体なんなのか…彼女がもっとも恐怖を感じるもの、すなわち蜘蛛による拷問は彼女に何をもたらすのか…
というお話になっております。
『普通の女性が突然拉致され、怪しい施設に連れて来られて、あれこれ聞かれて、拘束された状態で蜘蛛を腕に這わされたりと散々な目に遭う』という何のこっちゃの序盤から中盤にかけては意味深なセリフややり取りが非常に多く、これらが後半にかけて回収されていくんだろうなとワクワクさせてくれます。
都合よく偶然カッターを持っていたレネーはこんなとこにはいちゃおれんと隙を見てカッターで拘束具を外し、脱出を図るんですけども、一般的な成人女性であるはずのレネーがアクティブ、というかめちゃくちゃ動けるのがこの時は少々違和感でした。なんですけども後半の展開を鑑みるに、やはりレネーには元々素質というか片鱗みたいなものがあり、だからこそ身体能力が普通よりも優れているんだと思われます。
カッターで巧みに排気口をこじ開けて、ダクト内を大移動して施設内がどんなもんなのかを冷静に見て回るレネーは自分以外の被験者がそれぞれの一番恐怖を感じるもの(ヘビ、高所、両親etc…)を与えられて苦しむ様子を目にします。
スタッフの話を盗み聞きした感じだと、今現在自分を含め46人が拉致されており、一番の恐怖を与えることで何かしらを目覚めさせようとしている。その何かの適性が無いと無事に返してくれるようだけど、上手く覚醒しなかった場合は肌が腐って死に至る。そして研究所の人間は全国の医療機関のデータを調べ上げ、適性があると思われる人物の詳細を徹底的に洗い、その上で目覚める可能性が高い人間を拉致しているようです。
そして重要な研究をしているラボにて、カラコンを外した研究者の目が小さな黒目が3つあるおぞましい眼球になっている様子や、別のスタッフの顔が不自然に歪むところも目撃したレネー。どうやらここの研究者たちは全員元々被験者で、実験に成功した者はそういった目や様相になることが分かりました。
その後再び囚われ、またもや蜘蛛の拷問を受けたレネーは狂ったように悶え苦しむが、突如として静止。彼女の中の潜在能力が目覚め、彼らと同じように顔が歪み、蜘蛛に対する恐怖を一切感じなくなる。さらに研究所の人間たちは、彼女の一人息子であるエヴァンにも素質があることを掴んでおり、レネーに協力を仰いでエヴァンを拉致しようと企んでいたが…
といった感じで幕を閉じます。
正直なところ、最後の最後までいまいち世界観が分かりにくい作品でした。
主人公を拉致した研究所が『被験者に対して耐え難い恐怖を与える人体実験を行い、人間なら誰しもが持っているG10-12Xという遺伝コードを破裂(ラプチャー)させることで新たな生命体へと進化させる』という実験の設定やそれ自体は魅力的なんですが、一番重要な『それをやったから何なの?』をもっと具体的に見せて欲しかったです。あえてそれを見せないという演出なんだとは思いますが…
『視力や聴力、記憶力など人間のあらゆる機能が向上することで、より優れたニュータイプの人間になる。これはすごく良いことだからもっともっと増やしていこう。あと、不適合者は生きる価値無いから死んでもOK』
おそらくまとめるとこういうことだと思うんですけど、“この優れた人間を増やして何をするのか”、“どうなるのか”が伝わってきません。これが『その優れた人間たちだけの国家を作り、行く行くは地球を支配する』とか『生物兵器として戦争で利用する』とかなんか一個でもあれば世界観自体も飲み込める気がするんですけど、今のままだとちょっとふわふわしているように感じました。
例えばなんですけど、「X-メン」みたいに特殊能力を持っている登場人物がいて、その人たちがその能力を使って悪と戦うみたいな、もうすでに世界観や特殊能力を得た経緯とかがしっかり説明されている作品の前日譚とかスピンオフとして今作があるんだったらまだ分かると思います。「あの実験、この頃からあったんだ」とか「過去にはそういう能力もあったんだ」とかそういう楽しみ方も出来ますし、主人公の誕生に迫ったり、両親の話にしたりと作品としても相当作りやすいと思います。
今作に関してはそういったものが一切無い状態でいきなり『遺伝コードを破裂させてニュータイプの人間を作る』という壮大な設定をぶっ込んでくるため、この作品単体でそれらを全て飲み込むのは中々に難しかったです。映像のクオリティや諸々の設定、キャストも非常に魅力的だっただけにちょっと勿体ないなと思いました。終わり方もすごく好みだったので本当に続編とか作って欲しいです。
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