美月の肉食女子的アドバイス(フランス恋物語108)
美月
1月5日、火曜日。
不動産屋で働く私はまだ休みだ。
この日は、美月ちゃんが家に遊びに来る予定になっていた。
彼女は椎名林檎似の和風美人だが、肉食系女子というギャップが面白い、愛すべき親友である。
去年の5月、私がSNSで”パリ在住の日本人女性の友達募集”という告知をしたところ美月ちゃんから声がかかり、以来一緒に旅行に行ったり、ガールズトークしたりと濃い友人関係を築いてきた。
先月彼女も完全帰国し、2ケ月ぶりの再会となったのである。
Bonne année
約束の14時になると、インターホンが鳴った。
「Bonne année et ça fait longtemps!!」
(明けましておめでとう、久しぶり!!)
ドアを開けると、美月ちゃんはフランス語で挨拶をしながら飛び込んで来た。
「Bonne année, ma Mizuki!!」
私も、それっぽくフランス式の挨拶である”ビズ”をした。
二人一緒になると、フランス被れのノリでふざけてしまうのは相変わらずだった・・・。
Le travail
ソファに座ってお揃いのカフェオレを飲みながら、私たちは女子トークを開始した。
まずはお互いの仕事の近況報告から。
私は、「12月~4月期間限定で派遣で不動産屋で働いていること、仕事は楽しんでやっていること」を報告した。
美月ちゃんは、「今は実家でのんびりしてるけど、もう少ししたら仕事を始めなきゃ。」と言った。
グラフィックデザイナーの仕事で独立するのか、それともまずは企業に入るか、どちらにするのか悩んでいるんだという。
独立が視野に入れられるほど”手に職”がある彼女を、私はとても羨ましく思った。
そもそも、美月ちゃんはアートを学びたくて渡仏したんだもんな。
「フランス人の彼氏を作りたい」という動機でフランスに行った私とは大違いだと思った・・・。
Marc
コイバナは、まず美月ちゃんのフランス人彼氏・マルクとの破局話から始まった。
二人の出会いは去年の7月のJAPAN EXPO in Parisでのナンパで、その場にいたから私もよく覚えている。
それからも美月ちゃんを交えて何度か会ったことがあり、仲良さそうに見えたのだが・・・。
「いつもラブラブな二人だったのに、一体何が問題で別れたの?」
美月ちゃんは唇を尖らせて、ふてくされたように言った。
「結局、マルクは口だけだったんだよね。
『ワーホリに応募して、今度は自分が日本に住む』とか『日本語を勉強する』とか、付き合い始めた頃から熱っぽく語ってたくせに、まったく行動に移さないの。
私、英語は話せるけど、フランス語はまだまだじゃない?
フランスでアートに触れられる生活は良かったけど、一生住みたいっていうほど好きなわけじゃない。
私も玲子ちゃんと一緒で『遠距離恋愛はナシ派』だから、帰国したらマルクとは別れるつもりだったのね。
でも、彼は『ずっと付き合いたい、将来的には結婚したい。』って言い続けててさぁ。
それじゃ、行動してみせろって言うの!!」
・・・あ、それすごくわかる、と思った。
「同感。国際恋愛って、お互い同じくらい努力しないと、片方にフラストレーションが溜まるよね。
今までの彼氏も何人か『日本語勉強する』って簡単そうに言ってたけど、『じゃ、さっさとやれ!!日本語ナメんじゃねえよ』って思ってた。
・・・おっと、口が悪くなっちゃったわ。」
美月ちゃんは爆笑した。
「玲子ちゃんたまに口悪くなるの、ウケる!!
それくらい腹立つってことだよね。」
「そうそう、そういうこと。」
フランス人、というか外国人との恋愛は新たな発見も多くて楽しいけど、言葉とビザの問題は常に付きまとう。
そこをクリアにしていかないと、交際を続けていくのはとても困難だ。
「で、美月ちゃん、もう外国人はコリゴリ?次は日本人がいい?」
彼女は「う~ん・・・。」と少し考えながら言った。
「日本人と付き合うのは楽だけど、彼らは過重労働に疲れちゃって体力がないのがね・・・。
私、『この人が絶倫かどうか』って見極める自信は結構あるんだけど、たまに外れるからな~。」
私は吹き出してしまった。
「美月ちゃん、オモシロすぎ!!」
彼女は持論を展開した。
「やっぱね~、フランス人の濃い愛情表現とHを体験すると、日本人だと物足りなく思っちゃいそうで・・・。
間を取って、日本語ペラペラで日本永住希望の外国人か、ハーフを狙おうかなぁ。
玲子ちゃん、外国人がたくさん集まる交流パーティー、一緒に行かない?」
さすがの私も今は辞退することにした。
「いやいや、正月に失恋したばっかりだから、まだいいよ。
それより、北原さんとの箱根の年越しの話、聞いてくれる?」
「あぁそうだ。それ聞かなきゃ!!」
美月ちゃんは目を輝かせて、私が話しだすのを待った。
北原博之の話
ミラノ在住の北原さんとは、去年10月イタリア旅行で知り合った。
年末年始に帰国中の彼と12月25日に会い「結婚を前提として付き合いたい。箱根で年越しをしよう。」と誘われたことと、それにOKしたことまでは、美月ちゃんも周知の通りだ。
「42歳の谷原章介似の、知的な爽やかイケメンっていいじゃない?
しかも、ミラノ生活5年、イタリア女性との恋愛経験も豊富で、女性の扱いも慣れてるんでしょ?
Hも上手そうだし、結婚して一緒にミラノに住めば最高じゃん!!
何がダメだったの?」
そう、彼自身、男性としては最高の相手だった。
でも・・・。
「美月ちゃんの言う通り、申し分のない人だったよ。
遠距離恋愛嫌いの私が、『この人なら付き合ってもいい』と思ったくらいだったんだから・・・。
でもね、元旦の夜に北原さんの元奥さんから『子どもが入院した』って電話があって、彼は私を宿に置いて行ってしまったの。
そりゃあ、冷静にもなるよね。」
美月ちゃんは残念そうな顔をした。
「そっか・・・。それはどうしようもないね。」
そう、やはり北原さんは運命の相手ではなかったのだ・・・。
及川類の話
次に、職場で毎日顔を合わせる謎の多い先輩、及川類の話をした。
「水嶋ヒロ似の超絶イケメンなんだけど、チャラ男だから警戒して、あんまり関わらないようにしてたのね。
でも、12月23日に当時の彼氏に”連絡なしでドタキャンされる”という事件があったのね。
その翌日、たまたま及川さんと車内で二人きりになることがあって悩みを相談したの。
そしたら私泣いちゃって、そんな私を及川さんは優しく抱きしめながら慰めてくれて・・・。
そんなことがあったら意識しちゃうよね。」
美月ちゃんは、今日一番の歓声を上げた。
「何それ~!!超羨ましいんですけど!!
及川先輩、私にちょうだい!!」
・・・人に「ちょうだい」と言われたら、あげたくなくなるのが人情というものだ。
「いや~、そう言われたらなんか惜しくなるなぁ。」
美月ちゃんはいたずらっぽく笑った。
「冗談冗談。
それが玲子ちゃんの本音だよ。
本当は及川さんのこと、好きなんじゃない?
イケメンでチャラ男だから、恋して傷付くのが怖いだけでしょ?
でも、彼のチャラ男キャラだって、周りに求められて演じているものなのかもしれないし。
もっと会ううちに、彼の本音とか真面目な部分も見えてくるんじゃない?」
美月ちゃんに核心を突かれて、私は目の覚める思いだった。
そっか・・・私は及川さんに惹かれているのか。
「でも、なかなか二人で話す機会がないんだよね。
同行するのかどうかって店長が決めるし。
プライベートな連絡先も交換してないし。」
彼女は鋭く言った。
「それだよ!!
時間がもったいないから、次チャンスがあったら連絡先交換しなきゃダメだよ。
どんどん行かなきゃ、あんなイケメン、さっさと誰かに持っていかれちゃうよ。」
さすが、肉食系女子。この行動力の速さを見習わなければ。
「わかった。次、二人になる機会があったら、連絡先交換してみるよ。」
これで、次に自分のやるべきことが決まった。
Philippeの話
「そういえば、帰国後、フランス人との出会いはないの?」と聞かれたので、恋愛対象ではないが、一応フィリップの話もしておいた。
すると、美月ちゃんは断定口調で言った。
「フィリップ、絶対玲子ちゃんのこと好きだね。」
え・・・私はそんなこと全然思ったことない。
「なんで?
ただ、義理堅くて真面目なだけなんじゃないの?」
呆れたように彼女は言った。
「まったく、玲子ちゃんは自分の興味のない男性には疎いんだから・・・。
急に呼び出されて、彼氏との別れ話を延々と聞いてくれるとか、ただの友達ならそこまでしないって。
・・・っていうか、初めて会った時に連絡先交換しようとした時点で、フィリップは玲子ちゃんに好意あったと思うよ。」
「え、そうなの!?
だってフィリップは最初に”エシャンジュ(=言語を教え合う会)”しようって言ってきたんだよ。
だから、純粋に日本語を勉強したいだけかなって思ってたんだけど。」
「そんなわけないじゃん。
だって、在日3年で日本語ペラペラなんでしょ?
そんなの、玲子ちゃんに近付く口実だよ。」
そうなのか・・・全然気付かなった。
美月ちゃんは、フィリップの扱いについてこう結論付けた。
「でも、エシャンジュの相手としては良さそうだから、今の友達関係を続ければいいんじゃない?
タイプじゃなくてもひょんなことから好きになるかもしれないし、『日本語ペラペラでずっと日本に住みそうな日本人』という意味では、好条件だと思うよ。」
「なるほど・・・。」
助言通り、フィリップについては現状維持でいくことにした。
Michaëlの話
他の男性の陰に隠れて存在感が薄れていたが、美月ちゃんはあの美しいミカエルのこともしっかりと覚えていた。
「エドワード・ファーロング似のミカエル、帰国後も連絡は来てる?」
ミカエル・・・ずっと私を愛し続けて、フランスからメールをくれる、ありがたすぎる天使・・・。
「定期的にメールのやりとりをしてるよ。
本格的に日本語を始めたらしくて、11月からは日仏併記でメール送ってきてるよ。
初めは平仮名オンリーだったのが、年末には片仮名混じりになってて、成長を感じたわ。」
その言葉を聞いて、美月ちゃんは感動していた。
「ミカエルの本気度がすごい!!
マルクにも爪の垢を煎じて飲ませたかったわ。
で、いつ日本に住むって言ってるの?」
「1月になったら、日本のワーキングホリデービザに応募するって言ってた。」
「そうなの!?
ってことは、もし審査通ったら、早ければ来月には日本に来るかもしれないんじゃない?
・・・いいなぁ。」
・・・”美しすぎて簡単に会えないミカエル”は、私にとってバーチャル彼氏のようなものだ。
彼に対しては、つい冷静に考えてしまう癖がついていた。
「まだ具体的な来日時期は聞いてないよ。
そもそもビザが通るかどうかわからないし。」
そんな私をよそに、彼女は興奮気味に語った。
「そんなこと言っても、もう年は明けたんだよ。
ミカエルが東京に住み始めて、日本語も覚えてくれたら、彼氏としてこんな理想的なことないじゃない!?」
そして、彼女は勝手に総論を出していた。
「よしっっ!!今後の玲子ちゃんの彼氏候補は及川さんか、ミカエルだね。
タイミング的には、毎日会える及川さんかな?
まぁ、せっかくパリで共に修行した身だから、玲子ちゃんにはフランス人と付き合ってほしいっていう気持ちもあるけど。
及川さんは水嶋ヒロ似でハーフぽいし、類って名前もフランス人っぽいからいっか。
あとは、大穴でフィリップ!!」
「・・・なんじゃそれ!?」
こうして、私たちの長い女子トークは終了したのだった。
Le résumé
夜は我が家で鍋パーティーをして、美月ちゃんはゴキゲンで帰って行った。
今日彼女と話したおかげで、自分のこれからの方向性が見えてきたように思う。
「次、及川さんと二人になれる機会があったら、連絡先交換をしよう。
もっと彼を知って、自分が本当に好きなのか、ちゃんと確かめなきゃ。」
しかし、それをきっかけに二人の仲が急速に深まっていくなんて、この時の私はまったく知る由もなかった・・・。
Kindle本『フランス恋物語』次回作出版のため、あなたのサポートが必要です。 『フランス恋物語』は全5巻出版予定です。 滞りなく全巻出せるよう、さゆりをサポートしてください。 あなたのお気持ちをよろしくお願いします。