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フィリップとの出会い(フランス恋物語97)

東京生活スタート

11月14日、土曜日の午後。

この日新居の鍵が受け取れるということで、私は地元から東京に戻ってきた。

不動産屋で鍵を受け取ると、新しい部屋に入って引っ越し業者が運んでくる荷物を待つ。

何度も引っ越しを経験するとその大変さがわかるので、自然となるべく物を持たないミニマリストになっていった。

今回も極力荷物を減らしたので、引っ越し作業も少なめで済んで嬉しい。

新しい部屋は最上階の8階で、南向きの窓から眺める景色が何よりもいい。


部屋がある程度出来上がってくると、私はついこんなことを考えてしまう。

「今度この部屋に泊まりにくる彼氏は、どんな人なんだろう?」


明大前は、渡仏前も住んでいた慣れ親しんだ街だ。

田舎者根性が染みついている私は、渋谷と新宿に乗り換えなしで行け、なおかつ下北沢や吉祥寺ほど敷居も家賃も高くない明大前が気に入っていた。

何より、京王線のローカルで庶民的な雰囲気がいい。

私は、知っているスーパーや100円ショップに行き、足りない雑貨などの買い出しに出かけた。

大学時代一人暮らしに憧れながら出来なかった私にとって、一人暮らしの準備というのは、何度やっても胸が躍る作業だった。

親友・咲紀

「東京生活が落ち着いたら会おうね。」

咲紀ちゃんとは、私がフランスにいる時からずっと約束していた。


4年前、咲紀ちゃんとは東京のイベントの仕事で知り合い、意気投合してすぐに仲良くなった。

当時フランス人の彼氏と婚約中だった彼女は、日本人男性としか付き合ったことない私にとって驚きであり、憧れでもあった。

2年前私が離婚した時は何かと励まして、彼女の夫・ジャンの友人ヴィクトルを紹介し、私に新たな希望を与えてくれた。

私が渡仏してからも交流は続き、メールで色々と相談に乗ってもらい、何度も助けられた。

東京の引っ越しが完了し、10ケ月間のフランス生活の報告とお礼をしたかった私は、咲紀ちゃん夫婦が最近引っ越したという横浜のお宅へと向かった。

ジャン・咲紀ファミリー

11月15日、日曜日。

咲紀ちゃんの実家は横浜にあり、同じ敷地内に夫婦の新居を新築したと聞いた。

彼女のお父さんは横浜の老舗の貿易商で、小学校から大学まで一貫の女子高育ちの咲ちゃんは育ちのいいお嬢様だ。

「数日前まで磯の香漂う田舎に帰省していた私とは、そもそも根本が違うな」と、心の中で苦笑した。


「Ça fait longtemps, Reiko!!」
(久しぶり、レイコ!!)

インターホンを鳴らすと旦那様のジャンが出てきて、私は帰国後初のフランス語の挨拶をした。

少しして、2歳の娘・アリスちゃんを抱いた咲紀ちゃんが出てきた。

「アリスちゃん、大きくなったね。」

ハーフのアリスちゃんは、モデルみたいにすごく可愛かった。

久しぶりに会う咲紀ちゃんは相変わらず華奢で可愛らしくて、子どもを産んだことのあるお母さんには見えないくらい可憐だった。

「さぁさぁ、入って。」

夫妻に促され、私は素敵な新居にお邪魔した。

Girls talk

「すごいね、玲子ちゃん。たった10ケ月で色んな経験をしたんだね。

特にその恋愛遍歴ぶりがすごい。」

アリスちゃんはジャンが公園に遊びに連れて行ってくれたので、私たちはリビングで久しぶりの女子トークを楽しんだ。

「一番初めに色々あった純一くんは微妙だけど・・・一人目のフランス人の彼氏はトゥールのラファエルだね。

・・・あ、ラファエルと別れる時、手紙の翻訳一緒に考えてくれてありがとね。

あの時は、咲紀ちゃんのおかげでちゃんとしたフランス語の手紙が書けて、きれいに別れられて助かった・・・。」

咲紀ちゃんは懐かしそうに話した。

「あれから半年か・・・。

あの手紙の内容を読んだり翻訳を考えた時、恋していた時の切ない気持ちを思い出したよ。

で、パリに引っ越してすぐに会ったのがヴィクトルだっけ?」

ヴィクトルは、咲紀ちゃんとジャンがいなければ出会わなかった人だ。

「そうそう、ヴィクトル!!

写真見て一目惚れしてすごく憧れていたのに、実際会ってみたら老けててビックリしたんだよね。

でも、『この人と話すためにフランス語頑張る!!』と思って日本で勉強してきたから、実現して感無量だったよ。

そういう意味では、私のモチベーションを上げてくれたありがたい存在だったな。」

咲ちゃんが言った。

「その後の、ジョゼフアラン・コンビの出会いはドラマみたいだね。

友達なのにタイプが対照的で面白い。」

私は懐かしく二人を思い出した。

「友達の間を渡り歩く自分もどうかしてると思うけど、まぁそういう恋愛はどちらも上手くいかないよね・・・。

で、8月にセレブなニコラと付き合って、それまでの自分からは信じられないくらいの贅沢な生活をさせてもらったな。

アンナ先生を付けてくれたおかげで、私のフランス語力も格段にアップしたし・・・。

でも、ニコラの家にいた時に刃物持った前妻に乗り込まれて、別れを決めたんだよね。

それでフランス生活に疲れて、早めに帰国したと・・・。」

咲紀ちゃんはその話を聞いて、改めて驚いていた。

「あの話は本当にびっくりした!!

よく無事に帰ってこれたよ。

・・・でも、まだ一人いたよね。

玲子ちゃんの特別な人が。」

やはり、ミカエルは彼女にとっても別格扱いなようだった。

「大天使・ミカエル様ね・・・。

あ~、本当に美しかったなぁ。

なんで彼が私を好きでいてくれるのか、未だに信じられないままなの。

私のことを想い続けて、情熱的な愛の詩もくれて・・・。

あ、その時も翻訳手伝ってくれてありがとう。

咲紀ちゃんの翻訳、素敵だったよ。」

咲紀ちゃんはその詩をまだ覚えているようで、一節を暗唱してみせた。

「"Tu es tel un tsunami, tu es arrivée si vite et d'une puissance que je n'ai pu succombé à ton océan de douceur."

・・・実はあの詩があまりにも素敵だから、ジャンにも見せたの。

『C'est Magnifique!! こんなに愛されるレイコは幸せ者だね。』って言ってたよ。

確か、玲子ちゃんの帰国直前にミカエルが泊まりに来たんだよね?」

私はあの甘美な夜を思い出して、胸が熱くなった。

「そう、タイミング悪くてミカエルとは中断しちゃったんだけど・・・。

でも、ミカエルは『来年ワーホリビザを取って来日する。東京に住むから、また一緒にいてほしい。続きはその時にね。』って言ったの。」

それを聞いた咲紀ちゃんは身を乗り出した。

「すごいじゃない!!

帰国してからも、ミカエルとは連絡を取ってるの?」

私は帰国後まだ一度もネットを繋いでいなかった。

「それが・・・昨日実家から東京の新居に引っ越してきたところで。

実家にはパソコンすら置いてない状況だし、新居のネットのプロバイダ契約は明日だから、帰国後まだ一度もメールボックスを開いてないんだよね。

地元に帰省中は、高校時代好きだったクラスメイトと再会してキスしちゃったし。

私、離れてしまうとその人への気持ちが薄れてしまう習性があって・・・。」

咲紀ちゃんは笑った。

「玲子ちゃんはモテるし、恋多き女だもんね。

友達として、コイバナを聞くのは楽しいよ。

色々な恋愛経験をしてるから、『小説にしたら面白いのに』って思うくらい。

結婚・出産した私はもう恋はできないから、話を聞いて疑似恋愛させてもらってるよ。」

言われてみて、私は今までを振り返った。

たくさんの恋を経て、何かを得たものはあるのだろうか!?

「そうかな・・・。

でも、どの恋も長続きしていないし、私は咲紀ちゃんみたいに運命の人を見付けて、可愛い子どもに恵まれる方がよっぽど羨ましいよ。」

彼女は笑った。

「本当、ないものねだりだね。

他に、まだ話していない男の人はいない?」

私は記憶をたぐり寄せた。

「日本人だと、グラナダの祐介くん、パリのカメラマン上野さん、イタリアの北原さん

フランス人だと、バルセロナのガイドのイヴ、19歳のラウル、ニームで出会ったファビアン・・・。

キス以上の関係になったのは以上かな。

あと、マルタでゲイのヨハンにも片想いして、別れ際、おでこにキスしてもらったなぁ。」

私はそれぞれの男性とのエピソードをつぶさに語っていった。

咲紀ちゃんは面白そうに言った。

「玲子ちゃんから話を聞いて、どんな人かな?って想像するの楽しいよ。

私的には北原さんがいいなって思うけど、また会う予定はないの?」

・・・北原さん。

ミラノで貿易業をやってて、谷原章介似の知的で大人な雰囲気が魅力的な人だ。

「北原さんとは、一応メールアドレスの交換したよ。

でも、そんな滅多に帰国しないんじゃないかな?

確か実家は横浜って言ってた気がする。

もしかしてこの辺だったりして?」

咲紀ちゃんは歓声を上げた。

「わ~、すごい偶然だね!!」

世界は広いが、意外と日本は狭いかもしれないと思った・・・。

Fondue au fromage

その夜は、チーズフォンデュパーティーとなった。

私たちが準備をしていると、近所に住んでいるという、ジャンの友人・フィリップがフラッとやってきた。

フィリップは30歳前後で、若い頃のリュックベッソンに似ていて、温和で優しそうな印象を受けた。

「フィリップ、良かったら一緒に食べていきなよ。」

ジャンの誘いで、彼もパーティーに加わることになった。

「Enchantée. C'est Reiko.」

隣の席になった私は、フランス語で初対面の挨拶をした。

「フランス語喋れるの?

僕はフィリップだよ。よろしく!!」

私は帰国後初めてフランス語が話せて嬉しかった。

フィリップも日本人とフランス語を話せるのが嬉しいようで、私たちはずっとフランス語で談笑していた。


パーティーがお開きの頃、フィリップは私にこう言った。

「良かったら、また会って”échange”しない?」

”échange”(エシャンジュ)・・・フランスでは何度も聞いた言葉で懐かしいが、これは、外国人同士がお互いに言語を教え合うことだ。

せっかく覚えたフランス語をキープしたかったし、エシャンジュの相手を作ることは今の自分に必要だと思った。

「Avec plasir.」(喜んで。)

私はこう答えて、私たちは連絡先交換をして、エシャンジュ友達となった。

Just an ami

駅までの帰り道をフィリップは送ってくれた。

夜道を二人きりで歩いたが、彼の態度はとても紳士的で、私に友達以上の感情を持っているようには全く見えなかった。

「あ、やっぱりこの人は日本人から日本語を学びたいだけなんだ。

私もフィリップはタイプじゃないし、ちょうど良かった。

いいエシャンジュ友達になれたらいいな。」

別れ際私たちはビズをして別れたが、フランス人なら普通のことだし、私は別になんとも思わなかった。


そろそろ本格的に就活も始めなきゃいけないし、当分恋愛はしたくない。

彼との出会いは恋とは別物だし、問題ないだろう。


しかし、会ってゆくうちにその思いが変わってしまうのが、男女というものだった・・・。


ーフランス恋物語98に続くー


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