見出し画像

春の数えかた 日高敏隆

春、花が咲き始め瑞々しい若葉が広がり、虫が眠りから醒める。

虫は花の蜜を吸い、花は虫に花粉を運ばせる。

なぜこんなに自然はうまく作られているのだろう。
まるで誰かが、全てを計算し調整して作り上げたもののように感じる。

春の数えかた

春の数えかた 日高敏隆

毎年2月頃に本棚から取り出して、目につくところにこの本を置いておく。

ちょっと時間ができた時、お湯を沸かす間や電子レンジの待ち時間、お茶が出るまでのほんの少しの時間を使って、一つ二つ、と読み進める。
一つのエピソードにつきほとんどが5ページなので、隙間時間に読むのに最適だ。
順番通りでなく、パッと開いたところを読むのでも構わない。

この本を読み終える頃には、すっかり春になっている。
野の花が咲き始めた頃に川辺を散歩していると「あ、これはあのエピソードで読んだアレかな」と気付いたり、知らない花の名前や、それに群がる虫の種類が気になるようになる。
そのまま図書館へ行って春の野花の本を借りたくなる。

疑問に思ったり新たな発見があると、自然と友達になったような気がしてくる。
童心に帰るとは、こういうことなのかもしれない。

春の風を感じながら、外で読みたい一冊

桜が花の芽を作るのは前年の夏である、ということをこの本を読んで初めて知った。夏場は青い葉が生い茂っているのは、まさにその瞬間蕾を生成しているからなのかもしれない。

冬を越したサナギから生まれた春型の蝶と、春型から生まれる夏型の蝶では体の仕組みが異なるということも、知らなかった。それぞれが生きる季節に順応するため、サナギになったときに気温を感知して体の構造を変えるというのは驚きだ。

周到に準備をしているのは桜や蝶だけではない。
自然のロジックは様々な、多くの種類の生物たちの営みが重なり合って成り立っている。

全ての生物たちが用意周到に生きている、ということを、日高先生はとても優しく教えてくれる。

自然の営みを肌で感じながら、晴れた春の日に外で読みたくなる一冊である。

自然のロジック

「人里とエトコーン」というエピソードは他のものよりも少し長いのだが、自然との共存について非常に考えさせられる話だった。

そもそも「自然との共存」とはなんなのだろうか。

自然のロジックを完全に破壊し、人工的に作り上げた「自然」を含むモノを「自然との共存」ということに違和感があったのだが、その違和感に間違いはなかったのだな、と読みながら少し安心した。

動物たちは彼らの求める条件を満たしていれば、人工物まみれの都会でも生きていくことができる。都会の仕組みを利用して生きている動物が多いことはすでに知られていることである。

自然との共存とは、元からある自然のロジックを破壊した上に再建されたコンクリートの中に木を突き刺すようなことなのだろうか。
必要以上に人間が自然を整備する必要はあるのだろうか。

土地の再開発のニュースを見た時、ふとこのエピソードを思い出し、胸が痛んだ。

春を探しに

外を歩くのが気持ちの良い季節である。
自然と気持ちも明るくなり、普段しないようなことをしたくなる。

折りたたみ椅子を持って川辺へ行き、ゆっくり読書をしたいなと思ったり、自転車に乗って少し離れた公園まで行って、ピクニックをしようかなと思ったり。

まるで春になると虫たちが一斉に飛び回るかのようだ。
人間も春になると、浮かれて動き回りたくなるようにできているのかもしれない。

この本を読み「春の数えかた」を知ってから、春の散歩がより一層楽しくなった。
知る、知識を得る、ということは、最高の贅沢だなと思う。


日高先生の書く本は本当にわかりやすく面白い。
猫の本も、今後読みたい本リストに追加した。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,937件

励みになります。