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#ショートショート
【ショートショート】ルールを知らないオーナメント
計画は完璧だった……
……はずだった。
始まりは、私が国会議員として今日まで稼いだ裏金に税務署が気づいたという税理士からの報せだった。
あまりの巨額に、ガサ入れが行われることが決まり、その日取りは間近に迫っていた。
だが私は抜け目なく、問題のある資産を全て宝石に換えることに成功した。
問題は、ガサ入れの日にはこれを隠さなければならないことだ。
そんな時、私は地元でクリスマスツリー
【ショートショート】台s アニバーサリー
「灯台さん、開設百周年おめでとうございます」
時計台が言った。
「おめでとうございます」
天文台も続けた。
「ありがとう。でも、私も歳だからねえ。実は取り壊しが決まったんだよ」
「え!」
突然の告白に二人の台は言葉を失った。
「技術の進歩で船も灯台がいらなくなったしねえ……時代の流れには逆らえないのさ」
「いや、実は……」
天文台も告白した。
「僕も来年取り壊されることになったんですよ」
【ショートショート】麻子のスマホ または白骨化スマホ
麻子はスマホ中毒だった。
クラスメートたちとのLINE……ゲーム……推しの出演動画……
通学中も画面から目を離すことなく、ひたすらオンラインの世界に没頭する。
その夜も駅のホームを歩きながら、彼氏とメッセージのやり取りに夢中になっていた。
しかも、ちょっとした言葉の行き違いで、ケンカが生じそうな雰囲気に陥った。
何よそれ……
納得出来ない向こうの言い分に、脊髄反射的な言葉を連発し
【ショートショート】助手席の異世界転生
人間関係は転生だ。
付き合いが長いほど、その人にとって相手が何者かは転生のように変わっていく。
彼女にとって私は最初、弟だった。
まだ運転免許を取れない私を、二つ年上の彼女は自慢の愛車であちこち連れて行ってくれた。
僕のこと、どう思ってる?
そんな質問に彼女は笑って答えた。
「君は弟だよ」
その後、学校を卒業した僕は彼女の部下に転生。
彼女の運転する営業車の助手席で、彼女につ
【SFショートショート】プレリジン または着の身着のままゲーム機
今日こそ、このゲームをクリアする。
僕はケースからタブレットを取り出し、ミネラルウォーターで喉に流し込んだ。
薬ではない。
これが、いわばゲーム機なのだ。
ケミカルゲームマシン〈プレリジン〉。
これを飲むだけでゲーム世界に没入し、ゲームの主人公となり、まさに実体験のようにゲームをプレイすることができる。
どんなデバイスもメディアもネットワークすら必要としない、着の身着のままで遊べる
【ショートショート】ごはん杖の音
コツ…コツ…
二階から響いてくる音。
義母が杖で床を突き、夕飯を求めているのだ。
今日も響くごはん杖の音。
私は、支度を急いで階段を昇る。
義母が口をつけるまで、私は母の部屋を出られない。
「鮭の塩加減が甘いようね…」
料理への寸評をもらってから、その場を辞する。
義母は意地悪ではないが厳しい人だった。
ごはん杖の音は、私にはなんとも言えないプレッシャーだ。
我慢できないほ
【掌編ハードボイルド】たったひとつの親切な暗殺
「レオン」という映画にこういうシーンがある。
暗殺者志願の少女に、プロ暗殺者の男が言う。
「女と子供は殺すな」
ほとんどの観客は、このセリフが彼の優しさや親切心から出たものだと思うだろう。
だがそれは誤解だ。
彼の真意はこうだ。
「女子供を殺すと、社会からの追及が厳しくなり仕事を続けにくくなる」
俺も同じ理由で、女子供には手を出さないようにしてきた。
だが、その信条もついに曲げざる
【戦国ショートショート】忍者ラブレター 駆け落ち姫編
「また恋文か…」
迫姫は庭師の弥助から受け取った書状をつまらなそうに放ってみせた。
「姫様の美しさは近隣諸国でも評判しきり。大名諸侯やその子息で知らぬ者はおりませぬ。もっと喜ばれては……」
弥助はその端正な顔を少し上げながら言った。
普段庭師の体をとっているが、その実体は城を陰から守る忍びである。
迫姫とは主従ではあるが兄妹のように育っていた。
「送り主の顔は大体知っておる。どいつもこいつ
【青春ショートショート】数学ダージリン または隣の席のインド人
「また赤点とったのかよ……」
隣の席でリンが顔をしかめた。
彼女の名前はリン・カンバータ。
黒髪に褐色の肌。
額には赤い星のようなビンディ。
メガネの奥で光る瞳は少し青みがかっている。
うちの高校では数学の成績No.1の秀才だ。
そして俺は剣道部の部活にかまけて、数学では赤点以外取ったことのない凡才だ……
「うるせーな、ダージリンはよ……」
「ダージリンて呼ぶな!」
小さな拳がコツ
【SFショートショート】Slippin’ High school またはスベり高等学校 ループ編
その小さな町の高校に入学した日、あいつは俺に言った。
「お前…また一年生か…スベったな?」
スベった?
留年のことなら「ダブった」だろ。
何を言ってるんだ?
それに俺はダブってなんかいない。
今日、入学したばかりなんだから。
あいつ…芳山健とは同じクラスだった。
そして、そのクラスには堀川祥子がいた。
「おはよう!佐々木くん!」
堀川は、初めて会ったその日から俺の名前を知ってい
【ショートショート】思い出の秋の空時計
君には本当に振り回されたね。
まるで秋の空のようにコロコロ変わる気分に付き合って、僕も相当に苦労したよ。
誕生日には君は必ず、時計を欲しがった。
でも、一年経つとデザインが気に入らなくなったと言って、また新しい時計をプレゼントさせられた。
たまには違うものをあげたかったが、何年も続けたプレゼントはどんどん溜まっていった。
君の真意に気づいたのはずいぶん後のことだった。
君は、僕と過
【ショートショート】なるべく動物園には… 戦略爆撃編
その二つの国の戦争は、終局を迎えつつあった。
一方の国の空軍が、その爆撃力にものを言わせて敵国の都市を蹂躙し尽くし、地上軍による占領地域を野火の如く広げていた。
爆撃の指揮を取る空軍司令官は、次の目標となる準首都とも言える大都市への攻撃計画を練り上げた。
そこには一つだけ特別な指示が付け加えられていた。
「なるべく動物園には爆弾を投下しないこと」
攻撃目標である都市には、中心部に世
【ショートショート】呪いの臭み または素人呪術師の蹉跌
あたしはがっかりした。
せっかく呼び出した呪霊が、どこにでもいるようなおっさんだったからだ。
神社で神主をやってるおじいちゃんに、陰陽師だったという先祖から伝わる祈祷書を送ってもらい、やっとの思いで成功した召喚だったのに…
小太りで頭はバーコード。
ヨレヨレのスーツにメガネをかけた、どう見てもサラリーマン風のおっさん。
おまけに、加齢臭なのか変な臭いもする…
「もっと真人みたいなイ
【ショートショート】カフェ4分33秒 第二楽章
その店のことを教えてくれたのは、親友の圭司だった。
カフェ4分33秒。
とにかく、不思議な店だから行ってみろと言われた私は、まず一人で尋ねてみた。
しかし、店の印象はよく覚えていない。
何を頼んで何を飲んだのかも覚えていない。
というか、店にいた時のことはまったく記憶に残っていないのだ。
間違いないのは、店にいた時間はきっかり4分33秒だったということ(なぜ測ったのかも覚えてい