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【ショートショート】カフェ4分33秒 第二楽章

 その店のことを教えてくれたのは、親友の圭司だった。
 カフェ4分33秒。
 とにかく、不思議な店だから行ってみろと言われた私は、まず一人で尋ねてみた。
 
 しかし、店の印象はよく覚えていない。
 何を頼んで何を飲んだのかも覚えていない。
 というか、店にいた時のことはまったく記憶に残っていないのだ。

 間違いないのは、店にいた時間はきっかり4分33秒だったということ(なぜ測ったのかも覚えていない)。

「不思議な店だったろ?」
「不思議っていうか、何も覚えてないんだけど…」
「そうさ、あの店はぽっかりと何もない〈無〉の時間を作ってくれるんだよ。眠っているのでも、気絶してるのでもない。それでも何も意識しなくていい時間をね」

 それ以来、私は4分33秒に通いつめている。
 いつか、このカフェで過ごした〈無〉の時間が、人生の残り時間と同じになるかもしれない。

 その時、初めて自分がオーダーしたものが出てくる気がするのだ。

 何をオーダーしたのかも覚えていないのに…


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「カフェ4分33秒」。
はじめて、ジャスト410文字に収まりました。
やったぜ!
✌️

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