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空のあたり

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昼休み、会社を抜け出したぼくは、いつのまにか喫茶店の中にいた。そこで出される不思議な飲み物は、「空のかけら」と交換で飲むことができた。それを持っていないぼくは、マスターから提案さ… もっと読む
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記事一覧

〈ファンタジー小説〉空のあたり1

〈ファンタジー小説〉空のあたり1

1. 救出

 用水路に足を取られないように、ぼくは必死に歩いた。何かに追われているように、ぼくは感じた。けれどそれは、幻だった。自分でも、半分気づいているのだった。それでもぼくは、あくせく働き、今、こうして休憩中に逃げ出して、用水路に足を取られないように、懸命に歩いている。
 そろそろゆっくり歩いても、良いころだろう。

 にゃあと猫の声がする。三毛猫の声だと思ったが、その根拠はどこにもない

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〈ファンタジー小説〉空のあたり2

〈ファンタジー小説〉空のあたり2

2.猶予

 目覚めは最悪だった。だって昨日、ぼくは無銭飲食はしなかったけれども、無断早退はしてしまった。何も言わずに休憩中に会社を抜け出し、そのまま家に帰ったのだ。
 昨日はなんとなく、ぼくがひまをした代わりの人が、ぼくの仕事をしてくれるのだろうと思っていたけれど、そんなの無理に決まっている。ぼくの仕事は、一日二日で覚えられるようなものじゃないんだから。

 とても憂鬱な気持ちで、ぼくは足取り重

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〈ファンタジー小説〉空のあたり3

〈ファンタジー小説〉空のあたり3

3.欲求

「いらっしゃいませー」
 マスターの声がする。
 目を開くと、天井のベージュ色が見えた。
 そうだ。昨日はここに泊まっていったんだっけ。
 お店の方で、マスターとお客さんがしゃべっている。
 ぼくはしばらく布団の中にじっとしていた。
 お客さんが帰ったと思った頃、ぼくは、ようやく起き出した。布を畳もうとしたけれど、あまりにでかくて苦労した。手をめいっぱいのばしても、両端をつかめないか

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〈ファンタジー小説〉空のあたり4

〈ファンタジー小説〉空のあたり4

4.研修

 動き出した車輪は、上空に向かって回り出した。やがて自転車は宙に浮き、空中を、風を切って走った。自転車に乗ったのは久しぶりだった。
 しばらくこいでいると、若者に少しずつ近づいてくるのが分かった。ぼくは必死にこいでいたけれど、若者はゆっくりこいでいたからだった。
 そのうちに、あたりが暗くなってきた。時間の感覚がなくなるまで、ぼくは、走りつづけた。

 さすがに足が痛くなり、しびれを切

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〈ファンタジー小説〉空のあたり5 

〈ファンタジー小説〉空のあたり5 

5.諦観

 ぼくは頼りなく宙に浮いていたけれど、マスターは、まるでそこに地面があるみたいに、ぴしっと立っていた。
「マスター、ぼく今、空に手が届いたんです」
 興奮気味のぼくに対して、マスターは、えらく冷静だった。
「そうですか」
「はい。電話のある部屋にいたんですけど」
 そう言いかけた時、ぼくの頭の中に、つけっぱなしのコンロの火が、ぽっと思い浮かんだ。あ、そうだ。ぼくには伝えなければならない

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〈ファンタジー小説〉空のあたり6

〈ファンタジー小説〉空のあたり6

6. 遭逢

 ザザンと、波の音が聞こえて、ぼくは目を覚ました。今まで、このお店を取り囲む水を、ぼくは海だと思っていたけど、ほんとの意味で、海だと感じたのは、これが初めてだった。それは、今は、波があるからだった。ぼくは大きな布をたたむと、カウンターに向かった。カウンターはL字型になっていて、奥の席は、狭かったけれど、窓に近かった。ぼくは、その席に座って、窓の外を眺めた。
 打ち寄せる波が、カール

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〈ファンタジー小説〉空のあたり7 最終話

〈ファンタジー小説〉空のあたり7 最終話

7.自力 

 ひまって、どうやってやったら良いんだろう。と、ぼくは考えた。
 ぼくは、自分がひまだった時のことを、思い出してみることにした。それは、とても小さい頃の事だった。

 夏休み、ぼくは、おばあちゃんの家に預けられていた。遊ぶ物もないし、友達もいないし、テレビも見飽きてしまって、ぼくは心底ひましていた。
 
 あぁ、こういう感覚だった。時間がもったり進んで、なにか大きくて丸くて、ぷよぷよ

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