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空想日記

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あなたの知る私ではない『誰か』から届くメッセージ。日記のようで、どうやら公開して欲しいみたいだったのでここで。ちっぽけな世界のちっぽけな私のここから、私の元に届く誰かからの日記。… もっと読む
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合わない時計

合わない時計

僕の街には時計屋がある。
古くて立派な置き時計とか、壁時計とかがたくさん置いてあるのだけれど、そのどれもが正しい時間を示していない。
ガラクタばかりの時計屋だ。

店主は言う。

”これでちゃあんと合っている。”

僕はついにボケたと店主を見やった。
僕は知っているのだ、何度直しても結局ズレるこの時計たちのことを。

シワシワのよぼよぼ、白い髭がぼさぼさのオジイ。
店の奥で丸い背中をさらに丸めて椅

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からっぽ工場

からっぽ工場

ベルトコンベアから流れてくるのは、あなたも知らない誰かの記憶。

やらかいもの、あったかいもの、まあるいものは省きましょう。
倉庫の中に溜め込んで、積みあげ重ねていくのです。

かたいもの、つめたいもの、とげとげしたものは
ぎゅうぎゅうにして箱に詰めます。
そしてまた、ベルトコンベアに流しましょう。

ベルトコンベアで流した先は
なみだ、うらみ、いかり、かなしみ、最後に、しっとの元へと運ぶトラック

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冬の朝

冬の朝

さむい。

中々開かないまぶたを擦りつつ、布団から頭だけを出して、あとはすっぽり毛布に包まれたまま思う。

さーむーいー。

心地のいい、ふかふかであったかい天国から何故冷え切った寒い外へと行かなければならないのだろうか。もっとしばらくぬくぬくさせてくれたっていいじゃないか。

なんて、文句垂れつつギリギリの時間までこの幸せを噛み締めていようと企てていたら、足元のあったかい塊がなにやら蠢きだした。

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月色のカナリア

月色のカナリア

ガラスの草原で踊りましょう。
ハープシコードの音色が響く。

サクサクと小気味良い音を立てて笑う雑草を素足で感じるの。
足の裏をくすぐる悪戯っ子なあの子はだあれ?

書きかけの小説と、あなたの煙草。
アルコールランプで燃やしてしまいましょう。

わたしが心を傾けるのは、あなた一人で十分だから。
あなたのキスを捧げる相手も、わたし一人で十分でしょう?

今はただ、この手を取って踊りましょう。
眩しい

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リオリアの洞窟

リオリアの洞窟

200年に1回、月も風も雲も出ない夜がある。
その夜、リオリアの洞窟への入り口はひらかれる。

ゴツゴツとした岩の迷路を抜けて、鍾乳洞の広間へと出るとそこは淡いサファイアブルーの湖が広がっている。
湖の真ん中の方、少し碧い色したところを、まっすぐに潜っていくと底の方に人ひとりがやっと通れる程の隙間がある。
そこに頭をねじ込んで突き進むと、ぽっかりと小さな空洞がある。
空洞の奥の方、粘土質の土からも

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秘密のノート

秘密のノート

地元の文房具屋でしか見たことの無い分厚いノート。
厚手の表紙に施されたデザインと、書き心地の良い生成りの用紙。
二本で百円のボールペンが、信じられないくらいに実力を発揮できる。

罫線のない無地のページに、自由にペンで書き連ねる。
それは今日起きたこととか、昨日見た夢とかあることないこと書きたいことは全部書く。
徒然なるままに、あるいは泳ぎ回るように。

目の前に置いてある物をスケッチしてみたって

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レインボウイ・レインボー

レインボウイ・レインボー

ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。
あ、め。
雨が、降る。
頭の上めがけて小さな雨水たちが私の上を駆け巡る。

ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。

傘は、なくした。
もうずっと前に、

なくした。

母さんが買ってくれた、浅葱色した水玉の傘。
くるくる回して、パラパラと雨、を、弾いた、水玉の傘。

ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。
ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。

とある噂

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夢の扉

夢の扉

扉を開けると、そこは夢の中だった。

最初の部屋は食卓。
長いテーブルの端っこに僕は座っていた。

遠い先の反対側、向かいの人はミニカーを、
左前の人は夕焼けを、右前の人は中庭を食べていた。
スープ皿に盛られたそれをスプーンでぱくぱく。
美味しいとも不味いとも言わずただぱくぱく。

これはきっと、変な夢。
さっさと食べて出てしまおうと皿を覗くと
お皿の中は空っぽで、何にもない。
誰かが食事を持って

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アルバのミルク

風邪を引いた時の特効薬は、アルバ直伝のホットミルク。

モモア牛から取れたミルクを鍋で温めて、
豆蜜鳥の巣から取れた蜜をたっぷり三杯。
クローバージンジャーをこれでもかってくらいすりおろして
仕上げにカラカラドムとミアシクロを溶かし入れる。

火加減には良く注意が必要だ。沸騰したら固まってしまうから。

アルバは最後にウインクをする、と真面目な顔で言っていたのを
昔は冗談だと思ってやっていなかった

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旅人と赤い実

旅人と赤い実

エトラの木は世界で一番大きな木。

羨望の丘のてっぺんに、これでもかってくらいに枝を伸ばしてそびえ立ってる。

丘の上から何年も、何百年も、何千年も、エトラの民を見守ってきた。

エトラの木にはいのちが宿る。
まんまる大きな赤い実が、たっぷりしっかり熟した頃に、ぷつんとその実が枝を離れて、まっさかさまに落っこちる。
そのままころころ転がって、ころころころ転がり続け、ぴょこんと跳ねてぽすんと誰かの腕

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春の踊り子

春の踊り子

さあさ、みんなで踊りましょう。

春を告げる、私は踊り子。

長い手足を振り乱し、陽気に踊るわ。

るんたった、らんたった
たりらりらたたた

なんだかみんな、お寝坊さんね。
早く起きて踊りましょう?

チュールのスカートふわりとひろげ
くるり、くるくる、風を起こす。

春を知らせる夜の嵐。
みんなの目覚めを待っている。
みんなの喜ぶ顔がみたくって
春一番、今日も激しく舞い踊る。

だけど。

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夏のおわり、屋上のうえ

夏のおわり、屋上のうえ

【短編脚本】

夏、授業中の学校の屋上のうえ。
一人の女子高生が、フェンスにもたれ掛かりながら屋上からの景色を眺めている。
後ろから一人、別の女子生徒が静かに近づいて来るのに気づいていない。

スイ  「みーつけた!」

シオリ 「わ!……みつかっちゃったぁ」

スイ  「村岡が鼻の穴広げてシオリのこと探してたよ」

シオリ 「竹刀片手に?」

スイ  「ううん、出席簿片手に」

シオリ 「いやあ

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レモン

レモン

深い深い海の底、暗い暗い海淵に、その花は咲く。

光の届かない海の底で、ぼうっと光るように白い花を咲かせる。
そうしてゆっくりと実をつけてゆく。
緑色の実はある程度の大きさになったら自然と幹から離れ、
長い時間をかけて上へ上へと上昇していく。

長い時間を旅するからか、太陽に光を浴びたからか、最初は緑のその実も、次第に鮮やかな黄色へと変わっていく。

ぽこぽこ海の底から上がってくるその黄色い実は”

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恋と泡沫

恋と泡沫

メリーゴーラウンドは恋をした。
くるくる廻って3回目
頭の風見鶏が東の空を見上げるところ
あの子がよく、見えるところ。

メリーゴーラウンドはそこで止まるのが好きだった。
恋するあの子がよく見えるから。

遊園地に人はまばら。
だけども絶えず廻り続ける。
メリーゴーラウンドは人気者。
今日もくるくる廻り続ける。

レトロな音楽奏でながら、白馬の馬車を引き連れて
今日も紳士に廻りましょう。
一人きり

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