見出し画像

レインボウイ・レインボー

ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。
あ、め。
雨が、降る。
頭の上めがけて小さな雨水たちが私の上を駆け巡る。

ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。

傘は、なくした。
もうずっと前に、

なくした。


母さんが買ってくれた、浅葱色した水玉の傘。
くるくる回して、パラパラと雨、を、弾いた、水玉の傘。

ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。
ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。

とある噂を聞きました。
持ち主のいなくなった傘たちを、拾い集めては背中にさして
傘の持ち主探してあげる。
素っ頓狂な人がいると。

母さんがくれた傘、その人に拾われていないかしら。
母さんがくれた傘、まだどこかで私のこと待っているんじゃないかしら。

ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。
ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。
無くした傘はどこにある?
見つけた傘はどこにいく?
ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。
ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。

浅葱色した水玉の傘
今もどこかで、ポツリ、ぽつん。


_______________

最初の傘、はビニール傘。
僕は集めた、傘、傘、傘
ビニ傘、日傘、コウモリ傘。
あの子が無くした水玉の傘、誰かが捨てた、ボロボロの傘。
集めた傘を届けたりもした。
たくさんの、いらない。と、ありがとうが少し。
いっぱいいっぱい集めたけれど、まだ見つからない、一つだけ。

しとしと、ぴっちゃん、雨が降る。

しとしと、ぴっちゃん、雨よ降れ。

_______________


噂を聞いたの、こんな噂。
持ち主のいない傘たちを
集めて届ける人がいる。
会えたらいいなと思ってる
ぴとぴと、ぽっちゃん、雨が降る。


それは静かに広まっていく。
忘れ去られた傘たちを
僕だけが一人、覚えてる。
会えますようにと願ってる。
しとしと、ぴっちゃん、雨で濡れる。


_______________

ぽつり、ぽつりと雨が降る。
わたしの背中はしとしとと濡れ、
そんなのはお構いなしにわたしは歩く。

『濡れちゃうよ。』
後ろの方で、誰かが言った。

『濡れてるの。』
振り向きもせずわたしは言った。

『風邪ひくよ。』

『引けばいいのよ。』

『へっくしゅん。』

『あなたの方こそ風邪ひきそうよ。』

『だってちょっと寒いから。』

『そうね、今日はちょっと、冷えるわね。』
歩くのをやめて空を見上げる。
薄灰色の空に雫のベールがかかってる。

『ささないの?傘。』

『無くしちゃったの。』

『大切な傘?』

『さあ、今となってはもう分かんないや。』

『変なの。』

『あなただって、変じゃない。』

『そうかな。』

『ええ、とっても変よ。知らない女に傘なんかさして。』

『知ってたりして。』

『え?』

『なあんて。』

『やめてよ、気持ち悪い。』

『ひどいなあ、親切にしてるのに。』

『あなたのはお節介。』


ぽつり、ぽつりと静かな雨は、
しとり、しとりと弱まっていく。
永遠くらいの刹那、
静寂は雨がもたらした。

『ねえ、探してるんだ。』

『何を?』

『持ち主を。』

『だからなんの?』

『浅葱色した、水玉の傘。』

一瞬、息が止まった。
ああ、これは、この傘は。

『……!母さんがくれた、大切な傘……これ、どこで?』
いつかどこかに置いてきた、大事な大事なわたしの傘。

『忘れちゃったの?』

『忘れてない。だって、あれは!』

『あれは、残していったんだよね。』

『……傘を見て、わたしのこと思い出してくれたらいいなって。』

『だからね、届けに来たんだ。』

『あなたは、一体——』

『虹だ!』

『え?』

『雨、止んだよ?ほら、虹がかかってる!』

『……ほんとだ。』
ぶ厚い雲の隙間から、青い空が顔を出してる。
そのさらに向こう側、大きな七色の橋がひとつ。

『もう、濡れないで。』

『え?』
振り向いたそこには誰もいない。

仕方がないので傘をさす。
浅葱色した水玉の傘。
くるくる回してさしてみる。


ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。
ぽつり、ぽつり、ぴとぴと、ぽっちゃん。


雨、降んないかなあ。


この記事が参加している募集

いつも応援ありがとうございます! 頂いたお代は、公演のための制作費や、活動費、そして私が生きていくための生活費となります!! ぜひ、サポートよろしくお願い致します!