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月色のカナリア

ガラスの草原で踊りましょう。
ハープシコードの音色が響く。

サクサクと小気味良い音を立てて笑う雑草を素足で感じるの。
足の裏をくすぐる悪戯っ子なあの子はだあれ?

書きかけの小説と、あなたの煙草。
アルコールランプで燃やしてしまいましょう。

わたしが心を傾けるのは、あなた一人で十分だから。
あなたのキスを捧げる相手も、わたし一人で十分でしょう?

今はただ、この手を取って踊りましょう。
眩しいくらいの月の光だって気にならないほどに
あなたはわたしの瞳に夢中でいるわ。
わたしはあなたの長い睫毛と、頰に落ちるその影しか見れないというのに。



言葉遊びのタンゴ、わたしはあなたに踊らされる。
難解な言葉の旋律は耳馴染みよく、心弾む。

ねえ、もっとよく見て?

あなたの頰がほのかな朱色に染まるのは、きっとあの朝焼けのせい。

落ちた月と、かけた星に手を伸ばすけど届かない。
濡れた瞼をあなたが拭う。
寂しがるあなたと平気そうなわたしが湖面に映る。
水面が揺れて、夢の終わりをわたしに告げる。

あなたは痛ましそうな顔をしてつま先に視線をやる。
割れたガラスを踏んで傷ついた足に、優しく触れて破片を除く。

ええ、さっきまで全然痛くなかったの。
本当よ?

あなたが傷口に落とすキスが、どんな処方箋よりも一番に効くから。
今夜のことを忘れないように、痕に残して。

冷たいガラスの草原で、あなたとわたしふたりきり。
誰にも知られず踊った夜を、わたし絶対に忘れないわ。
ずっとずっと覚えてる。
あなたが忘れても覚えてる。

月の雫が、あなたの瞳からこぼれ落ちるのを、
わたしはちゃんと見ていたもの。

アルコールランプが微かに香って、柔らかい風がわたしの髪を弄ぶ。
わたしはこの世界を目に焼き付ける。


どうか永遠に、
この景色が鮮明なままで。

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