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恋と泡沫

メリーゴーラウンドは恋をした。
くるくる廻って3回目
頭の風見鶏が東の空を見上げるところ
あの子がよく、見えるところ。

メリーゴーラウンドはそこで止まるのが好きだった。
恋するあの子がよく見えるから。

遊園地に人はまばら。
だけども絶えず廻り続ける。
メリーゴーラウンドは人気者。
今日もくるくる廻り続ける。

レトロな音楽奏でながら、白馬の馬車を引き連れて
今日も紳士に廻りましょう。
一人きりでは踊れないけど、いつかあの子の手を取りたくて。

あれは偶像さ、分かってるのか?

カラスが笑う。
張り出したテントの屋根に足を止め、
あの子を指差しカラカラ笑う。
傷つく様子を見て笑う。
嫌なやつだ。

スピーカーから、大きな音で音楽を流すと
カラスは驚いたのか去っていった。

日が落ちる、トワイライト。
オレンジジュースこぼしたみたいな、彩りの空。
この時間がとても好き。
だんだん暗くなっていく頃合いで、遊園地は徐々に明るくなる。

昼間は眠っていたネオンライトが、目を覚ます頃合いだから。

メリーゴーラウンドはおめかしした気分になれるし
ライトアップされたあの子はより一層美しい。

廻る、廻る。くるくる廻る。
メリーゴーラウンドは閉園間近まで人気者だ。
何回か廻ったあと、ようやく東の空を向いたところで止まった時に
やっぱりあの子を見つめてしまう。
3分間の憩いのひと時。

メリーゴーラウンドは恋をした
遠くのあの子に恋をした
自分と同じく廻り続ける、観覧車に恋をした。

目も眩むほどに光輝き、空に向かって廻り続ける
孤独なあの子に恋をした。

オレンジが濃紺に溶けて、星空のカーテンが幕を下ろす。
そのすぐ下で、いつまでもいつまでも廻り続けるその姿を
東向きに止まれた時だけ、3分間。
メリーゴーラウンドは見つめ続けた。

メリーゴーラウンドの恋心が観覧車に届くことはない。
観覧車がこちらを見たことは一度もないし
遠くにいるせいで声も届かない。
けれど、メリーゴーラウンドは幸せだった。

いつも最後まで廻り続ける観覧車。
メリーゴーラウンドは観覧車に見惚れながら眠りにつくのだから。

夜の遊園地、閉園間近。
眩しいくらいのネオンライト。
キラキラ輝く観覧車と、ぴかぴか豪華なメリーゴーラウンドは
遠く向こうまでそのシルエットを届けながら。

メリーゴーラウンドは今日も廻る。
頭の風見鶏が東の空を見上げるところ
あの子がよく、見えるところ

そこで止まれたら今日もハッピー。
3分間だけあの子に見惚れる。
メリーゴーラウンドは恋をした。

観覧車に恋をした。
今日も静かに、見つめ続ける。

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