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レモン

深い深い海の底、暗い暗い海淵に、その花は咲く。

光の届かない海の底で、ぼうっと光るように白い花を咲かせる。
そうしてゆっくりと実をつけてゆく。
緑色の実はある程度の大きさになったら自然と幹から離れ、
長い時間をかけて上へ上へと上昇していく。

長い時間を旅するからか、太陽に光を浴びたからか、最初は緑のその実も、次第に鮮やかな黄色へと変わっていく。

ぽこぽこ海の底から上がってくるその黄色い実は”レモン”と呼ばれ、大層ポピュラーな人気を博していた。
先の尖った楕円をしており、切ると中から太陽が出てくる。
食べるととても酸っぱいが、その爽やかな香りと酸味とで様々な料理やデザート、ドリンクにも使われた。

レモンが最初に見つかるようになってから、しばらくの間、レモンがどこから来るものなのか、誰も分かっていなかったのだが、最新の技術を用いて調査をしたところ、海淵から来ていることが近年になって分かった。

何度か人工でのレモン栽培ができないかが研究されたが、どれも結果は思わしく無く、残念ながら人工レモン栽培の目処は立っていない。

レモンに含まれる栄養素はとても高く、昔は風邪の時などによくジュースなどにして飲まれていた。
大量廃棄時代や、枯渇時代など様々な時期を経て、現在では通年でレモンを楽しむことができるようになった。
レモンの保存技術は目覚ましいほどに向上したのだ。

レモンがよく収穫される港町では、毎年レモン祭などが開催され、世界中から色々な人が集まる、人気の催し物だ。
参加者の一部は、祭の最後に配られるギフトカードを目当てに、わざわざ遠方からやって来る者たちもいる。

海底の花が実をつけて海上までその実を送る理由は未だかいまだ明かされてはいない。
どのようなメカニズムで芽を出し、花を咲かせ、実をつけているのか。
それらの研究が進めば、レモンの人工栽培も夢ではない。
未だ解明されぬ神秘にたどりつくその日を夢見て、私たち研究者は日々研究を積み重ねている。

深い深い海の底、暗い暗い海淵に、その花は咲く。
誰にも知られず芽をだして、誰にも知られず蕾をつける。
ぼんやりと淡く光る白い花弁が美しい。

その花の名は、レモン。
黄色い実を海上に送り出す、未だ謎多き海の花である。

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