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詩をまとめました。
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#詩

お肉屋さん

ちょうどいい悪夢を人は好むから
私は自分の体を小分けにして売ることにした

今日は親指一本
今日は太ももを一切れ
今日は舌を一つ
今日は乳首を一つ
明日のお客さんには耳を一つあげようか

小さく小さく切り分けた私を
みんなは嬉しそうに食べてくれた

ある日私の体全部がほしいって人がきた
綺麗なお姉さんだった
私は喜んで全てを差し出した

お姉さんはゆっくり私を食べた
足の親指をかじったと思ったら太

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35ミリ

きっと誰でもいいのだろう
嘔吐しきれなかった憂鬱を
一緒に噛みしめてくれるのなら
きっと誰でもいいのだろう
優しく溢れる陰鬱を
一緒に舐めあってくれるのなら

苦し紛れで歩みを続けて
鋭く虚栄をまき散らす
さすような冷雨に似た黒髪
永久凍土のなれの果て
君と僕は同じだね
なんて言ったら怒るかな

どこ吹く風で歩みを続けて
漂う虚構に身を任せる
酔ったまなこで見つめる街は
いつか観た35ミリの淡い夢

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骸は濡れて

ガラス玉みたいな君の瞳を
えぐりだして飲みこんだ
冷たくなってく首筋を
冷たい両手で絞め続けた
終わらない
終わらない

吐き気がするくらいにうるさかった
蝉の声にみたされた帰り道
もう一度あの日からやり直せるかな
深夜2時の憂鬱を
目をつむってやり過ごそう

変わらない教室の
黒板に残る君の文字
柔らかな思い出を
柔らかな舌でころがした
なくならない
なくならない

息苦しいくらいにうるさかった

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夕立日記

子供のころに戻ったみたいなんだ
いい思い出なんてないはずなのに
花火の煙とシロップと
柔軟剤とシャンプーと
汗にぬれた後れ毛と
子供のころに戻ったみたいなんだ
いい思い出なんてないはずなのに

君が子供のうちに殺しておくべきだったかな
殺して食べちゃえばよかったかな
私の手を引く後ろ姿は変わらないはずなのにね
おいてかないでって泣くのはみっともないから
せめて後ろで束ねたその髪に
触れてるくらいは

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機械人形の贖罪

錯雑としたおもちゃ箱をひっくり返したような町並みを抜け、砂浜に出た。乳白色の月明かりが照らすのっぺりとした海面。緩やかな波が慎ましく白浜を濡らす。高密度のかき氷みたいな砂の上を歩くたび、ぎゅっ、ぎゅっと音がした。侘しさすら感じなくなった僕は、海と浜の境界をおぼつかない足取りで進む。遠くにぼんやりとうかぶ小さな漁港は心許ない灯りのもと、ぽっかりとあけた口を静かな海に向けていた。随分まえに通り過ぎた居

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メンヘラ君の慟哭

糜爛したきみの眼球がとけだしたとき、僕はようやく雨の美しさを知った。幾層にもかさねた肉厚の絵の具のように凝った赤黒い血を爪で削り取りながら、窓を打つ驟雨のリズムに目をつむる。放恣な生活を送り続けた僕を、明るい笑顔で見守り続けたきみのその嘘に、気づいていないわけじゃなかったよ。けど僕は怖かった。きみが向けてくれた純然たる愛に正面切って向き合うのが怖かったんだ。それは僕が今まで一度も触れたことも、向け

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三千世界の私を殺して

海辺を逍遥している時だった。久しぶりに匂いを感じた。日焼け止めと、乾いた塩の香り。それが嬉しくて、十一個目のピアスを外して飲み下した。月のない星空。真っ暗な砂浜。数メートル先にぼんやりと佇む影を見た。K君の幽霊だと思った。月世界に行ってしまったK君を想い、もう少しでコンバースに触れる距離にうち寄せる波に一歩足を踏み入れた。海は海であることを強要されていた。私であろうとしたゆえに味わった苦しみを思い

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着せ替え人形の彷徨

朝まだきの往還は、奥ゆかしい静けさに包まれていた。しとどなアスファルトから立ち込める独特の香りが鼻腔をくすぐる。浅春の冷たい風が前髪をゆらすたびにおでこに感じるくすぐったさになんとも言えない切なさを覚えた。肺腑にたまったどうしようもない侘しさも、この穏やかな静寂にひたされるうちに溶解していくようだった。と、後ろから荒々しく風を切る車の音が聞こえてきた。すっかり現実に引き戻されてしまった私は憮然と背

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質量

その張りつめた君の魅力が
どこから来たのか知ってるよ
たらふく飲みすぎた泥水は
飽和点なんかとっくにこえて
君のバランスを崩すわけだけど
ぷっつり糸が切れる前の
最期の痙攣が伝わって
背筋を伝う憎悪の甘みと
奈落の吐息で身罷る快感
舌でころがし脳汁すすって
同族嫌悪でしめつける
裏腹の優しさと
滑らかな憎しみを
今日も非生産的に抱きしめようか

かじりとった憐れみの
果汁がしたたり鎖骨を濡らす

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マシュマロの町

ここに来て得たのは退屈だった
認めたくはないけれど
きっと張り合いがなくなったんだ
今の僕は死んでいる
殺される直前ほど
生きたいって思うのは
やっぱり当たり前のことみたいで
甘い香りが一面漂う
マシュマロみたいなこの町は
僕の気力を奪うだけ

排水溝に飛び込めばいい
淵めがけて飛び込めばいい

でも今の僕には
願うだけで何もできやしない
最低限の興味すらも
最低限の気力すらも
マシュマロみたいな

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羅刹

羅刹になりきり不幸を喰らう
どうせ有限その他大勢
はき違えの個性で優劣つけようと
無我夢中で貪り尽くし
嚥下し消化し血肉にし
覚悟もないのに踏み入れた

ぬかるみ冷たく腐臭を放ち
気づいた時には空まで覆った
汚泥の天井光は届かず
目隠しされた百鬼夜行が
本能のままに踊り狂う
求め続けた退廃と
広げられた空洞で
羅刹になりきり不幸を喰らう

見知らぬ苦悩は羨望し
馴染んだ苦悩は忌み嫌う
羅刹になりき

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ペンシル少女

散り散りにはじけた私を集めて
君の体を作ってみたよ
足の長さがずれちゃったけど
意外とうまく笑えたよ

お腹の中が空っぽで困ってるんだ
臓器はさすがに腐っちゃって
お腹に戻す気になれなくて
君の可愛がってたみーちゃんを
代わりに入れてみたんだけど
爪とぎしないと気がすまないみたいで
そのたびお腹のつなぎ目が
ほつれて破れて困ってます

右の手首に大きな瞳
左の手首はまっさらで
やっぱりかわいそうに

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いつかの夜

傷口から溢れる優しさを
必死で舐めとろうとした君と
傷口から溢れる優しさに
必死で夢を見出そうとした僕は
世界の隅っこの湿気だらけの部屋の中
お互いの憂愁を天秤にかけ
危うい綱渡りに身をやつした

背負った重みの優劣を
比べる必要はなかったけれど
脆くて頼りない砂の城を
なんとか守りぬけたのは
比べて蔑み同情し
絡んでもつれてこじらせて
憤怒と慈愛と嫌悪なんかをないまぜにした
強固な城壁を築くこと

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深く、深く

壊れるあなたを見てみたい
パンケーキみたいな甘い香りに包まれて
小さな幸せを謙虚に永続させて
パンケーキの油みたいにじわじわと
あなたの脳に侵蝕するそれは
脳のシワをいつのまにか溶かしちゃって
あなたは惰性の幸福を
それとしらずに食み続けるんだ
だからあなたに壊れてほしい
何十年もどんよりと輝き続けるよりも
一日だけ目も眩むほどの輝きを
蛍の光が綺麗なのって
きっとそういうことなんじゃないかな

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