いつかの夜

傷口から溢れる優しさを
必死で舐めとろうとした君と
傷口から溢れる優しさに
必死で夢を見出そうとした僕は
世界の隅っこの湿気だらけの部屋の中
お互いの憂愁を天秤にかけ
危うい綱渡りに身をやつした

背負った重みの優劣を
比べる必要はなかったけれど
脆くて頼りない砂の城を
なんとか守りぬけたのは
比べて蔑み同情し
絡んでもつれてこじらせて
憤怒と慈愛と嫌悪なんかをないまぜにした
強固な城壁を築くことができたからかな

それでも最近思うのは
あの時城壁を築かなければとか
砂の城なんて崩れてしまえばとか
せめて思い出だけでも改変しようと
時計の針を無理やり戻して
あったことをなかったことに
なかったことをあったことに
思考過程で経験した出来事も
まぎれもない僕の思い出だなんて
言ってみたところで虚しくて
時計の針は重すぎて
人間なんかには動かせれそうもない
破綻した状態から始まりむかえて
求めたのはさらなる破滅
そのくせ自分の城だけは
崩されまいと必死になって
小さな砂粒が一つこぼれるたびに
世界の終わりみたいに真っ青になって
愚問だったね
何をしたってどうせ、ね

でもやっぱり
同じ国の住人だったはずなのに
お互いにまで城壁を築いたのはまずかったね
君の城も僕の城も
主人がいるのにいないみたいで
城内に寂れた風が吹いてるだけ
それなのに城壁だけはやたらと高くて
やたらと強固で
守らなきゃいけない大切なものなんて
壁の内側にはなんにもなかったのに
気づけばお互い別の国に引っ越して
でも僕の新しい国だって
前とあんまり変わってない
僕の城はいまだに主人の存在が曖昧で
城壁は無意味だと知りながらも
今日も砂の城を囲んでる
壁は今でも高くなり続けてて
そろそろ空まで飲みこみそうだよ

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