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オリジナル小説

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さごしが執筆したオリジナル小説です。
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記事一覧

ゼンマイ仕掛けの星空に

ゼンマイ仕掛けの星空に

 私はシェルターから逃げ出した。連日降り続いている雨で、生活に必要な最低限の物しかない殺風景な空間に押し込められているのが心底嫌になったからだ。「こんなときに外に出るなんて正気か!? 身体が曲がっちまうぞ!」そんな怒号と静止を振り払って、私は走った。
 シェルターの外に出ても当然行く当てなどなく、ただ呆然と歩いた。雨に当たった肌がピリピリと痛む。雨とは言うものの、これは本質的には雨ではない。土の天

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カフェ・オ・レが冷める前に

 視界の端にコーヒーメーカーが映った。熱いブラックコーヒーが喉を通る感覚を思い浮かべる。一仕事終えた体には最適だろう。しかしながら、首から下の汗が酷く鬱陶しい。「とりあえず着替えを済ませてからにしよう」そう思い作業服を脱ぎ払っていると、カツリカツリと特徴的な音が聞こえた。耳を澄まさずとも分かった。カジウラの足音だ。

「おつかれさん。仕事には慣れたか?」
「あっ、ヒムラさん。お疲れ様です。まあ、そ

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【ショートショート】手袋の中のユートピア【朗読用台本】

【ショートショート】手袋の中のユートピア【朗読用台本】

朗読用台本としてお使いいただける掌編小説です。

冬にお気に入りの手袋をして出かけるのってなんだかウキウキしませんか?
そんな気持ちを込めて書いたちょっぴり不思議なお話です。

本文 冬になると楽しみなことがある。わたしの手袋はどこか別の世界に繋がっていて、なぜだかそれは真冬にならないと私の手を受け入れてはくれない。冬の始まりの冷たい風に体が震え始めると同時に、真冬の訪れへの期待から胸が踊る。私の

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彼らを縫い糸から解放するただ一つの方法

彼らを縫い糸から解放するただ一つの方法

 前触れなく現れた訪問者は、ベッドの枕元で座っているぬいぐるみの方を指差して、唐突に言った。
「その子の皮は剥いでやらないの?」
私は面食らった。正しく鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていただろう。そもそも、チェーンロックの隙間から顔を覗かせるだけの、この女の位置からはぬいぐるみは見えていない筈だ。
「ええっと……どういう意味ですか?」
「あれ?もしかして、ただのぬいぐるみだと思ってた?」
女は私

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就活に失敗した僕が人外ばかりの害虫駆除業者に拾われた件

就活に失敗した僕が人外ばかりの害虫駆除業者に拾われた件

ライトノベルっぽいキャラ小説に挑戦してみました。

どうぞお楽しみくださいませ。

あらすじ就活に失敗し続けていた青年、有栖川 要(アリスガワ カナメ)。彼はある日突然謎の害虫駆除業者『阿久クリーンサービス』に拾われて働くことに。人外の社員ばかりが働くその会社には裏の顔があって……

本文『害虫・害獣駆除、承り〼。阿久クリーンサービス』
 青錆(あおさび)に縁取られた看板を見て溜め息をつく。ここが

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黄色い紐

紐になりたい疲れた男と、食べたい分だけ食べさせる奇妙なラーメン屋の話です。

少しファンタジーでちょっとホラーなショートショートとなっております。

お楽しみいただけると幸いです。

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 紐になりたい。不意にそんな言葉が頭に浮かんだ。女のヒモだとか、そういう意味

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