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愛をする人

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30数年振りの再会。少年だった心にいつまでも残る後悔。似たような境遇で暮らしてきた2人が引き合うも、捨て去る事ができないもどかしさ。それが更に2人を包み込む。
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2024年5月の記事一覧

愛をする人 (13)

愛をする人 (13)

愛をする人

 奥さんの一周忌をした。
 主寺で読経をして貰い、墓所へ参り、会食会場へ向かい食事。
 そこで義父の妹さん、叔母さん夫婦に「御相談があります。近いうちにお伺いして良いですか?」と尋ねた。
 『良いけど、、、実家の事なら任せたからね。勝手に処分したらダメだからね。いつ帰っても良い様にしていて頂戴。』
 【どうしろって言うんだ、、、、俺は単なる管理人かよ。しかも無報酬の、、、、】
 また

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愛をする人 (12)

愛をする人 (12)

 もしかして

 「なあ亜希子、、、俺がもしこの街にずっと住んでたら、、、お前と一緒になってたのかな」
 「えっ、私と健夫が?、、、あんたも婿だったっけね。あの人じゃなく健夫だったとしたらか、、、」
 「うん、偶然か、、、必然だったのか分かんないど、俺は奥さんの苗字にした。その前にお前が俺の傍に居たら、、、亜希子の家に入ってたかもしれないなって思う事があるんだ。」
 「……無いね。多分、、、いや絶

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愛をする人 (11)

愛をする人 (11)

 答え合わせ

 それから亜希子とは2、3週間に一度会う。
 いつもの公園駐車場だったり、ショッピングモールの立体駐車場で待ち合わせ、あのホテルへと車を走らせる。
 食事でもしようか、直売所へ寄ろうか、映画でも行こうかと誘うも、「よっぽど遠くに行くなら良いけど、地元の人の生活圏ならやめておこ。」と言われ、コンビニで飲み物や食料を買う。、
 「お互いに、人目を憚る事はもう無いんだけどね。他人を監視す

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愛をする人 (10)

愛をする人 (10)

 男と女の初めての夜

 奥さんの葬儀の翌日、俺は葬儀屋への支払いや市役所、奥さん名義の口座の名義変更の為の書類を貰う為郵便局や銀行などを回った。
 娘は今日一日休み、明日帰ると言う。夕食は最近嵌っているチャンポンを作るからと、俺の車の助手席に座りスーパーへ買い出しに付き合わされた。
 夕方、娘が夕食の支度をしている間、奥さんの通帳を見た。
 生活費などは、俺の給与振り込み指定の銀行口座があるので

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愛をする人 (9)

愛をする人 (9)

 別れ 引き寄せられる心

 亜希子との初デートからはラインの交換も2,3日おき程度になった。

 双方に気まずさが残ったせいなのか、これ以上の進展は望まないと言う表れなのか俺自身も分からない。ましてや亜希子の思いなど俺には分からない。

 2週間位経った頃、夕方のネットスーパー配達の途中、携帯電話が着信を知らせた。
 車を路肩に停め通知画面を見ると、登録していない携帯番号の表示。
 俺は、勤務し

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愛をする人 (8)

愛をする人 (8)

 告白 思いの丈

 無心庵でそばを食べた俺と亜希子は、近くにある滝の名所へ向かった。
 滝を見たがる人の事を亜希子はこう評していた。
 「滝って、マイナスイオンが出てて傍に居る人の心を落ち着かせるんだって、、、、悩んでるとか心がザワザワしてる時には冷静になれるから、良いんだって。
 それにさ、、、、流れてきたもの、全部落としてるじゃん、、、、嫌な事、捨ててる様に見えるじゃん、、、自分に出来ない事

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愛をする人 (7)

愛をする人 (7)

 初めてのデート

 ライン交換した俺はその夜、逸る気持ちと相手は家庭のある身で誤解を与えてはいけないと言う自制とで、なかなか文字を打つことが出来なかった。
 ようやく送ることが出来たのが、
 ” 今日はありがとうございます。
   また機会があれば、よろしくお願いします ”
 家族がポップアップ通知を覗いても、出来るだけ不信感を抱かない様に、営業マンの様な文面で送った。
 ポンっ、という通知音が

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愛をする人 (6)

愛をする人 (6)

 再開の後、手繰り寄せられた糸

 同窓会の後、亜希子とは連絡を取り合ったりはしていない。
 自宅の電話番号は覚えている。連絡しようと思えばいつでもできる。
 それよりも、亜希子が俺を責めていない、怒っていない、嫌っていなんかいないと思える笑顔を向けてくれたのが嬉しくて仕方ない。
 と同時にみんなの手前、嫌いな素振りは見せないでその場を取り繕い、本当は恨んでいるんじゃないかと思ってしまう事がある。

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愛をする人 (5)

愛をする人 (5)

 亜希子との再会

 奥さんを、今住んでいる町の市民病院へ入院させた。
 奥さんの両親も同じ病気で亡くなっている。
 「遺伝だね、、、しょうがないね、、、後、頼んだわよ。」
 奥さんは落ち着いた声で、俺を牽制した。
 【実家にある家屋敷、田畑、山林、人に貸している土地、、、娘の名義にしておけ、、、、それしか無いってか。】
 娘に連絡した。
 「ママを入院させた。爺さんと婆さんと同じ病気だ。いつ迄か

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