愛をする人 (5)
亜希子との再会
奥さんを、今住んでいる町の市民病院へ入院させた。
奥さんの両親も同じ病気で亡くなっている。
「遺伝だね、、、しょうがないね、、、後、頼んだわよ。」
奥さんは落ち着いた声で、俺を牽制した。
【実家にある家屋敷、田畑、山林、人に貸している土地、、、娘の名義にしておけ、、、、それしか無いってか。】
娘に連絡した。
「ママを入院させた。爺さんと婆さんと同じ病気だ。いつ迄かは、、、、分からない。」
『そう、、、って事は私もなるよね、、、、それがいつかは分かんないけど、明日か来年か、、、10年後か、、、、
私は私で好きにするからね。短いんだから思いっきり楽しむわよ。相続はパパにしとけばいいじゃん。私より長生きするかもしれないでしょ。
ママにそう言っといて、、、、じゃあね、、、、ママの事、お願い、、、、パパ、、、、、ありがと。』
覚悟はしていたみたいだ。好きで進んだ医学の道で、自分なりに調べたのかな。
娘の気持ちを思い図ると、好きにさせてやりたいと思う。
今、病気にならず元気でいるのは伯母さん一人だけだな。ご主人は元会社経営者で、事業を売り渡したばかり、、、お金持ちだ。話をしてみよう。
どうせ俺はよそ者だ。部外者だ。養子縁組もしていない、、、それにそんな器じゃないし、、、、得心してくれるはずだ。
奥さんには『実家の整理を始めるから、、、俺の実家は処分するつもりでいるから、片づけの為に実家へ帰るよ。ここへは週1回、顔出すから』と伝えた。
目の前に座り窓の外を見ている、すっかり元気の無くなってきている奥さんは、「そう、分かった。」と言った。
自分の実家へ帰り、電気ガス水道の再開通手続きを進め、掃除から始める。
床が抜け始めていたり、南向きの廊下表面の合板が浮き始めてる所があったり、畳の一部にカビが湧き始めているか、腐り始めてたりしている。
「大工道具、、、買うか。面白そうじゃん、修繕の仕方なんて、ホームセンターに行けばパンフレットあるし、、、いっちょやりますか。」
妙にやる気が出て、ウキウキし始めている自分が面白い。
何事も問題先送りの俺が、計画し始めている。
浮ついた気持ちで過ごし始めた数日後、住んでいた家に戻ると同窓会開催の知らせが着ていた。
往復はがきには、開催日時、場所、会費が書かれている。
世話人の欄を見て、ドキッとした。
二人目に、亜希子の名前があった。苗字があの頃と変わっていない。
【あ、亜希子、、、あれからもう、30年以上か、、、、一度会って、、、、謝りたい。】
亜希子の事は忘れてはいない。
でも、、、思い出すことが真実だったのかその通りだったのかあやふやになりつつある。
美化されている所もある気がする。顔やスタイルや、あの大きな乳房も、、、
悲しみのヒロインであって欲しいとも考えている時もある。クズなヒモに捕まった、、、水商売や夜の街で生きてきた、、、反社の世界で生きてきた、、、
そんな妄想に頭が支配されていた時もあった。
確かめたわけじゃないのに、、、
同窓会の世話人をしているくらいなら、人並みの穏やかな暮らしをしているんじゃないか、、、、そう思うとほっとした、良かったと思えた。
よし、、、会いに行こう。
案内に書かれていた日時、その場所へ行く。
昔は大衆食堂だった飲食店がファミレス風イタリアンのお店に生まれ変わっている。
家族客などが座るボックス席エリアがメインだが、店の横に建て増しされた平屋があり、ちょっとした披露宴やパーティーが出来そうな広間がある。
会場に入ると世話人の一人である元番長が「お、おう、、健夫っ。よく来てくれた、ありがとありがと。」と、明るく迎えてくれた。
その声に誘発されたようにあちこちかから「○○君。」「健夫~、元気か?」「面影あるねえ~」と声を掛けてくれる。
妙にこそばゆい思いをしていると、喉が渇いてる事に気がつき、壁際にあるフリードリンクコーナーへと向かう。
先ずはジンジャーエールをと思い、サーバーから注いでいると、「健夫君」と後ろから声を掛けられた。聞き覚えのある声、少し低くなった気はしたが、、、そうあの人の声。振り返ってみる。
「あ、亜希子、、、久しぶり、元気だったか?」
「うん、お陰様で元気よ。健夫君は?」
「うん、元気、、、目が少し遠くなって来てる、あとは健康診断でエグザイルが、、、いや、LDLが少し高い程度。」
「…しょーもな、、、ウフっ、ところでさ、会費お願いできる?」
「あ、そうだったそうだった。ごめんごめん。」
財布からお金を出し、亜希子に従い部屋の角にある手提げ金庫のあるテーブルへと向かう。
俺は参加者名簿へ住所氏名連絡先を記入し、ノートパソコンへ何やら入力の後、手提げ金庫へとお金をしまう亜希子を見ていた。
あの頃華奢だった身体は、少しお腹や腰辺りがふくよかになっている。
形が良く、大きかった乳房は相変わらずだ。少し下側に移動している気はするが、、、
髪は白くなり始めたものが混じる茶髪。昔も今も良く似合う。
相変わらず美人な顔立ち。目尻に相応な皺があるがそれも似合っている。
ほうれい線が目立ち始めてはいるものの、肌そのものはきめ細かそうに見える。
「えっ、何?何かついてる?」
亜希子が目を少し見開き気味に、上目使いに聞いてきている。
「あっ!、、、いやっ、、、何もついてない、、ついてない。」
慌てた。慌てていて高い大きな声が会場に響いた。みんなが俺たちを見てる。
「ウフフ、、、見惚れてたの?、私に?」
亜希子が恥ずかしそうに笑いながら聞いてきている。単に揶揄っているとは思うが、
「……ああ、、、見惚れてた、、、綺麗だ、、、相変わらず、、、綺麗だ。」
昔、面白くて見ていたお笑い芸人のコントそのままのセリフが、俺の口を突いて出てきた。
「えっ、、、」亜希子の目が丸く見開いた。頬が赤くなったような気がした。
「健夫、、、、あんた何時からそんな事言えるようになったの?、、、、アハっ、アハハハハ、、、、キャハハハハっ」
今度は亜希子の笑い声が会場に響く。
「あははは、アハハハハハ」、「キャハハハハ、アハハハハハ、、、」
二人の笑い声が会場に響いた。
それから二人はそれぞれ思い思いの同級生たちと話をしながら、会場を回遊していた。
ふと、亜希子がベランダへと出て行くのが見えた。俺は追いかけた。
亜希子は外に備え付けの灰皿があるテーブルへと向かい、椅子へと座りバッグから煙草、黄色いピースを取り出し、火を点けた。
俺はそのテーブルのもう一つの椅子に座り、胸ポケットから煙草を取り出す。青いピース、アロマロイヤル。
亜希子が白い煙を吐いた後、目線を俺に移した。微笑んでいる。
俺も煙草に火を点ける。程よく吸い込んだ後、ふぅ~っと白い煙を吐く。亜希子へ目線をやり、微笑む。
「早死にするよって、脅かされてない?」
「言われてる。まるでセリフの様に、、、喫煙有と画面に出てれば、必ず誰もがいうセリフ。言わないと、誰かに怒られるんだろうね。」
「確かにね、、、医者もさ、喫煙者だと排除される時代じゃないの?病院の敷地内禁煙って、ここで働くなって事でしょ。」
「そうだろうね、、、でも病院のどっかに秘密の部屋とかあるんじゃないのかな?、、、守衛室の隣とか、、、屋上のプレハブとか、、、10人に3人はまだ喫煙者だよ。医者でも看護師でも、一定数居ると思うよ。」
「よくお昼休みに職員駐車場の車の中で見かけるけどね、、、」
「建物の中に無ければ、そうなるよな。」
サラリーマン同士の世間話の様な会話でも、俺は嬉しかった。
亜希子が笑ってくれている。俺を嫌っていなさそうだし、、、良かった、俺を責めていない、、、多分、きっと、、、、そう思えた。
同窓会も終わり、それぞれが帰っていく。
真っ直ぐ帰宅すると言う人、スナックへ行こうと周りを誘う人、カラオケボックスへと行こうという人、、、
俺は亜希子の所へ行き、「亜希子、これから予定ある?」と、酔いに任せ聞いてみた。
亜希子は「ゴメン、ゆう子らとカラオケ行くの。」
「残念でした。健夫君はまた今度、個人的に誘いなさい。」と、ゆう子にいなされた。
「うん、じゃあ、」と照れ笑いを残し俺は、スナックへと行く男連中の中に混じりこみ、店を後にした。
亜希子との再会は、嬉しさ満開だった。
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「亜希子の子供さん、二人だったっけ。」
「うん、男の子と女の子、年子で出来たの。結婚して3年の内にね、、、」
ベッドの上で灰皿を左手に、黄色いピースの煙と独特の香りを燻らす亜希子の顔が、何気なく聞いた俺の問いかけに答えてくれた後、目線を落とし少し暗いに顔になった。
「あ、ゴメン、、、気に障る事、言った?」
「ううん、違うの、、、、前にも言ったと思うけど、子供が独り立ちしたら好きにしていいよって言ってて離婚したって言ったでしょ、、、、、、
一緒に暮らし始めて、子作りの為って言いながら、ヤル訳じゃん、、、そりゃ情も沸いたりするわよね、、、
心のどっかでさ、、、子供が巣立っても『これからも一緒に居よう。』って言ってくれるんじゃないかって、、、
でもさ、、、約束したわけだしさ、、、、そうするって決めて、婿に来て貰えたわけだし、、、、
約束破ってくれるの期待するのって、、、、なんか違うし、、、、都合の良い事、考えんなよ自分って思う訳、、、
そう考えるようになったのよ、、、子供が生まれる毎に、別れに近づいてる、、、いや、そうしなきゃ、、、ってね。
二人目が生まれてしばらくすると、あの人が誘ってくるの、、、『どう?、今夜、、、』とかさ、
当たり前だよね、男なんだもん、、、したくなるよね、、、でも私、、、、避けてたの、、、断ってたの、、、、
だって、、、、惚れちゃったら、、、、、約束、自分から破ることになるし、、、、
下の子生れてから、、、、、しなかったのよ。そうすれば、あの人も遊びやすいかな、出て行きやすいかなって、、、、、」
「じゃあ、、20年くらい、、、してなかったんだ、、、俺と再会するまでって言うか、、、」
亜希子は吸っていたピースを灰皿へ押し付け火を消し、俺の方を見た。……いや、睨んでいる。
俺はまた気に障る事、言ったのかと思い、「ゴ、ゴメン、、」と言うと、、、、。
「…うん、してなかった。誘ってくれる人はいたんだよね~、、、子供の手前、遊んでるとは言え旦那の手前、、、飛び込めなかったんだよねぇ~、、、」
そう言うなり亜希子は俺の上体を押し倒し、お腹の上に跨って来た。
「俺に会うまで、取っといてくれたって事で良いよな。」俺は上にいる亜希子にそう言った。
乱れた髪の毛が亜希子の顔の両側から垂れ下がり、表情が良く見えない。
「ウフっ、、、」笑った様に思えた。
亜希子は両手で俺の手首をそれぞれ掴み、頭の上に押し付ける。丁度万歳をする格好に俺はされた。
もちろん、無理にその形を解こうとは思わず、なすがままにされている。
亜希子は俺の両手首を押さえつけたまま、腰を俺の顔の前に摺り寄せてくる。
目の前に亜希子の花園が広がっている、、、、はずだ。
歳は取りたくないなぁ~、、、と思った。
老眼が進んだ目には、ほとんどぼやけた亜希子のクロズミの少ないピンクの花園が見える、、、はず。
俺はその時、こう思った。
【近い内に、、、眼医者に行こう。白内障の治療をすると、老眼も治り視力も回復するって、、、、誰か言ってたよな。まだ俺、、、白内障じゃないってか。】
亜希子とはいつも、どちらが上になり攻めるかで鬩ぎ合い、、、いや譲り合いになる。
俺が上になれば、亜希子は脱力して足を広げたり自分で太腿を抱える程度だし、亜希子が上になれば俺もやっぱり脱力し、されるがままになる。
ただ俺の場合は、足や腰を上げたままの状態が長くは出来ない。体力が無いのか、筋力が衰えてるのか、身体や関節とかが硬くなっているのか。
硬くて良いのはあそこだけなんだが、、、
そんなこんなでも俺は今日も、亜希子のお尻を目の前にして、、、貪り食うんだ。納得できるまで。
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