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愛をする人 (12)


 もしかして

 「なあ亜希子、、、俺がもしこの街にずっと住んでたら、、、お前と一緒になってたのかな」
 「えっ、私と健夫が?、、、あんたも婿だったっけね。あの人じゃなく健夫だったとしたらか、、、」
 「うん、偶然か、、、必然だったのか分かんないど、俺は奥さんの苗字にした。その前にお前が俺の傍に居たら、、、亜希子の家に入ってたかもしれないなって思う事があるんだ。」
 「……無いね。多分、、、いや絶対無かったね。」
 「….えっ、、なんで?、、何でそう思うの?」
 「私があの人と結婚したのが27歳で、、、健夫が奥さんと一緒になったのが30半ば過ぎでしょ。健夫が20代の時、そんな決断できた?
 30半ばの結婚も、押し切られてしたんじゃないの?、、、もうここでしとかないと、周りから何言われるか分からないからみたいな理由でさ。違う?」
 「……うん、、、そうだな。亜希子の言う通りだ、、、、優柔不断で何も決められない俺で、、、しかも20代なんて、逃げ回ってばっかりだったからな、、、
 きっと、亜希子からも逃げてたかもしれないな。」
 「フフっ、、巡り合わせよね。タイミングだと思うわよ。私たちだってさ、今だからこうやって会えてるのよ。
 私も離婚前だったらそうそう会えないし、健夫の方も奥さんが病気前だったら嗅覚鋭かったと思うし。」
 「うん、言う通りだ。今だからなんだ、、、ましてや高校生の頃なんて、、、、、全く噛み合ってなかったな。」
 「高校生か、、、バラバラで滅茶苦茶で、先行き見通せなくてイライラしてて、、、、切り捨てて、切り離して、、、、ようやくだったもんね。」
 「大変だったんだろうな、、、、ゴメンな、何してやれなくて、、、」
 「良いよ、あの頃は何も期待してなかったし。」
 「何も期待してなかったか、、、、そりゃそうだ、、、、自分でもそう思うわ、アハ、アハハハハ、、、、、でもさ、今はどう?、何か期待してる?」
 「期待してるっ!、、、、頼んだっ! いつものシテっ!」
 「よっしゃ!おいで、、、」

 「このホテルって古いよね、、、壁紙なんて滲みだらけだし、、、私たちと同い年らしいよ。」
 「へえ~、、、50年ちょっとか、、、建て直しするのかな。」
 「しないでしょ。新しくしても新規の客、そんなに来ないだろうし、、、この辺り若い人減ってるし、、、でも最近大きな車、多いでしょ、しかも買えないでしょってツッコミ入れたいような若い男の子が乗り回してる。」
 「そうだな、、、そう言えば今の若い男の子の高そうな車ってさ、3年5年で買い替えると、比較的安く買えるそうだよ。下取りを高く取ってくれるらしいから。人気車種に集中するから、みんな同じ車になっちゃうらしいけど。」
 「……そう言う子達って、、、車も女の子も直ぐに乗り換えちゃうのかな、、、知ってる子なんかこの前と違う子、乗せてるって思うことあるもん。」
 「人によるんじゃないの、、、広く浅くっていうのが男の子だけどさ、、、、、一途に誰かを思い慕う子、俺みたいな男もいるし、、、」
 「……誰かって私の事?、、、本当にどこで習ったのよ。そんな歯の浮くような事。さんざん遊んだんでしょう。」
 「遊んで無いよ、俺は。数えられるもん、お仕事の人も含めてね。それだけ亜希子の事が忘れられなかったんだよ、素直に、、、、本心だよ。」
 「……ホ、、惚れてまうやろ~、、、」
 「うん、、、惚れて、、、惚れさせてよ、、、亜希子。」

 「ホームレスに憧れる、、、って事、無い?」
 「ホームレス?、、、無いわよ。健夫はあるの?」
 「ある。……背負ってるもの、全て放棄したい時がある。」
 「奥さん、、、亡くなったから?、でも娘さんがいるじゃない。」
 「娘には、背負わせたくないんだ。財産なんて言ってもごく一部だからな。後は、、、負債だよ。」
 「生かせれば財産、、、手が付けられなければ負債だもんね、、、、それは良く分かるわ、私も一緒だから、、、でもうちには男の子が居るから、無理やり背負わせれば済むけど、女の子だけだったとしたら、、、、ちょっとね。」
 「お義父さんには妹さんがいて、叔母さんにあたるその人には元経営者の御主人が居るんだけどね、、、その妹さん、、、
 『生まれ育った家だから、変わっていくのを見るのは忍びないわ。健夫さん、頼んだわよ。』って、、、つっても金も出さず、口は出す、、、、みたいな。
 嫁に行っても実家は実家、、、場合によっては権利は残る。でも、面倒な事は引き受けたくない、、、牽制球だよね。」
 「健夫、、、逃げたいの?」
 「……ああ、逃げたい、、、亜希子、もし俺が逃げると言ったら、、、、連いてきてくれるか。」
 「……良いよ。」
 俺は、亜希子のその言葉が嬉しくなり頭へ手をやり、引き寄せ接吻くちづけた。

 亜希子と再会し一年半、今の関係になって約一年。
 実家に戻り、床を治したりしながら生活していると、ご近所さんが頻りに『自治会に入って。』と言ってくる様になった。
 最初は挨拶程度から立ち話を少ししたりしていたが、それが俺の幼い頃の話になり話が長くなり始める。
 その内、その立ち話しが今の仕事の事、休みの事に深入りし始める
 自治会の内容を聞くと、市役所からの配付物、行事の案内、住民サークルへの勧誘、色んな方々が行う講演会へのお誘い、環境保全活動の地区担当者、神社の維持活動担当、、、多岐にわたる。
 行政に任せておけば、、、ボランティアはいないのか、、、と思うが、自治会がボランティアなのだと気付く。
 自治会へは会費を払い、行政側から電気代や水道ガス代の補助が下り、自治会の為の集会所の運営を行う。
 何かと役割は多いのだ。
 俺たち家族が暮らしていた地区にも自治会があり、それなりの活動をしていたが、それが実家が加わる事になる。

 ふと、こんな事が頭を過った。
 【都会暮らしで行政サービスの行き届いたところから、過疎地域に移り住む Iアイターン の方たちが、意見が合わないとか風習慣習に拘り過ぎと憤慨し、結局また他所へ行く話を聞くが、、、、
 郷に入れば郷に従えって昔から言われてるのに、自分の主張優先かよ。】

 正直、自治会の役割が煩わしい時もある。
 でも、いざと言う時に助け合わないと、、、助けてあげないと助けて貰えないかも、、と思う。
 苛立たず文句も言わず、相手のペースに合わせながら引き受けざるを得ない。
 俺は、、、そういう事が得意じゃないか。
 そう考えている。

 奥さんの実家の件で市役所から封筒が届いた。
 山林の地籍調査をするから立ち会って欲しいと書いてある。
 月日、日時、待ち合わせ場所、調査する対象の地番、面積が書いてある。
 目的としては、現実の地番の面積が、その昔にフリーハンドで書かれた地図の大きさと食い違い課税評価額が適格では無い為、GPSを利用し面積や形を確定する事らしい。
 そんな事どうでも良いのに、、、と思うがそうもいかない。
 一度も行った事の無い山ではあるが、立ち会う事にした。

 雨がしとしと降る5月、朝9時に待ち合わせとしてある場所へと向かった。
 奥さんの実家のある地区の集会所前。調査する人が二人立っている。
 作業服の上にビニール製の雨合羽。俺は百均で買ったレインコートと傘。
 一人は手にタブレットを持ち、一人は背中に箱を背負っている。GPS測定器と説明された。
 タブレットには昔の手書きの地図が映し出されており、タッチペンで切り替えると上空からの写真となるらしい。
 具体的にどの様に操作するかは分からないが、便利な世の中になりましたね。と笑いながら相手の車に乗り込み、山の中へと入って行った。
 一度も入った事の無い山の中を車から降り歩く。タブレットを見せられながら「面積は120㎡となってはいますが、隣地との境とかご存知ですか?」と聞かれる。
 「いえ、全くわかりません。」としか言いようがない。
 「だいたいの地形や目標物があれば、、、例えば大きな石とか良く置いてあるんですが、、、あ、、これかな?」
 見れば、男一人でも持ち上がりそうにもない石がある。草や落ち葉や倒木などで半分は隠れてはいるが、確かに石がある。
 その石が、昔の人達の『ここを境にしよう。』と言う 意思 だと理解できた。
 「それにしてください。」半分、面倒臭いと思ってる俺はそう言ってしまう。
 「一先ず仮にそうしておきます。隣の持ち主の方にも立ち会って貰い、納得して頂ければGPSで測量した結果で登録しておきます。
 それでも意見や聞いた事と違う場合には、第三者に入って貰ってからの話し合いの場になると思います。」
 調査員の言葉に、【もう、、、面倒臭ぇ~。】と思ってしまう。
 「….はい、、、」力のない返事をするしか無かった。

 生活していくには、暮らしていくには都会の方が良いのだろうか、、、
 必要なものが近くに有り、仕事もあり、娯楽もある都会。
 生きていくには、田舎の方が良いんだろうか、、、
 自給自足が理想かもしれないが、出来る訳がない。
 山の中にポツンと一軒家で生きていけるものなら、そうすればいい。
 病気になったらどうする。暮らしの為に車に乗っていて、山の中で事故を起こしたらどうする。
 携帯電話の圏外かどうかが、それこそ 境目 じゃないか。

 雨が降る山の中を、枝や倒木に引き裂かれたレインコートで、服や靴がグチャグチャになりながら、俺は歩きながら訳の分からない事を考えていた。

 散会したあと帰宅する。普段より倍以上疲れた身体を、温かい湯船の中で癒す。考える事は、
 【次は何時、亜希子に会えるだろう、、、来週かな?】

 【……全部、何もかも捨てて、、、逃げたい。……亜希子は俺と一緒に来てくれると言った、、、、】
 湯船の中、疲労困憊の身体と頭では、そんな事しか思い浮かばない。

 亜希子へ ”会いたい ”とラインした。

 ”わたしもあいたい” と直ぐに返事が来た。

 俺は濡れた頭と体をバスタオルで拭き、服を着て車へと乗った。
 目指すは亜希子の家。

 暗闇の中に光るヘッドライト。
 忙しなく動くワイパーの先に亜希子の家が見えた。
 明かりも無い暗い玄関前に亜希子が立っている。
 そこへ俺の車が乗りつけると、亜希子は雨の中を小走りに近づき、助手席のドアを開けた。
 「ゴメン、、急に。」
 「良いの、、、」
 俺は明子を共に、いつものホテルへと向かった。

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 一糸も纏わず、力なく横たわる亜希子。
 どこを見るともなしに薄く眼を開け、半開きの口からは、ハア~ハア~と息遣いが聞こえる。
 片膝を立て、あそこを露わにしている時は恥ずかしくはないのだろうか。
 そういう俺自身も、すっかり小さくなった下半身を見て、恥ずかしさが無いかと言えば多少はある。
 隠す所を隠していないと言うのではなく、世間一般男性の平均と比べ小さいのじゃないかと思うそれを、自慢げに晒している事に恥ずかしさが少しある。
 大きいのか小さいのか、、、大きければそれでいいのか、、、そうじゃないと言われても、あのビデオの演出を見ると大きい方が良いのかと、思ってしまう。
 自信の無さの表れだろうな、、、
 関係無いよと言われても、気持ちの問題だからと言われても、そりゃ慰めだろと思う自分が確かにいる。
 でも、足りなさをカバーするには他の事を頑張るしかないよな。
 いつもそう結論付けて、少しでも長く持続できるようにしている。
 優しくしたり、少し激しくしたり、亜希子の顔を確認しながら、指や舌先、唇を動かしていく。

 さあ、、、もう一回。

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