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映画と音楽

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「好きなものを好きなだけ」 映画と音楽に纏わるエッセイやコラムを集めたマガジン。」
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#映画感想文

『マイ・ブロークン・マリコ』は残酷な現実に放たれた一縷の希望の物語だった

『マイ・ブロークン・マリコ』は残酷な現実に放たれた一縷の希望の物語だった

人生とは奇妙なほどに残酷で、時折美しさを見せるものだ。幸か不幸か、どこに生まれるかは自分で選べない。一切の苦労をせずに平凡な幸せを営む人もいれば、生まれてくる場所を間違えたと思うほどに残酷な仕打ちが待ち受けている人もいる。幸いにも『マイ・ブロークン・マリコ』を観終えた瞬間の空は明るかった。もしも夜に本作を観ていたらと考えるだけで、居た堪れない気持ちになる。

痛みが心を支配する瞬間と出会った覚えは

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又吉直樹『劇場』は男女の恋愛の瑞々しさを綺麗に描いた物語だった

又吉直樹『劇場』は男女の恋愛の瑞々しさを綺麗に描いた物語だった

「ここが一番安全な場所だよ」

「いつまでもつのか」

街の画廊を覗いている売れない劇作家である永田と俳優を夢見て上京した沙希が出会うシーンで、又吉直樹原作の『劇場』は動き出す。これはずっと安全な場所にいられると信じていたい女とそれがいつまでもつか不安になる男の物語だ。

最初はそれぞれの生活を過ごしていたが、売れない劇作家が女性の家に転がり込んだところで、物語は一変する。「ここが一番安全な場所だ

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『花束みたいな恋をした』を観ても、まったく胸が苦しくならなかった

『花束みたいな恋をした』を観ても、まったく胸が苦しくならなかった

遅ればせながら『花束みたいな恋をした』を観た。

周りの人から早く観てほしいと言われていた作品で、過去の恋愛を思い出すとか、恋愛と結婚は違うとか、観ていて胸が苦しくなるとか。以前からいろんな感想を聞いていた。

お互いに終電を逃して、運命的な出会いをした麦(菅田将暉)と絹(有村架純)。サブカル好きという共通点を発見し、徐々に2人の仲が縮まっていく。絹の部屋に入ってすぐに麦が「ほぼうちの本棚じゃん」

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かけがえのない1日を丁寧に生きることの大切さは全部「アバウトタイム」が教えてくれた

かけがえのない1日を丁寧に生きることの大切さは全部「アバウトタイム」が教えてくれた

いつかの過去を思い出して、あのときああしていれば、もう一度やり直せるならなんてありもしないもしもを考えてしまう人は多いだろう。もう2度と過去には戻れやしないのに、過去にばかり目を向けて、過去の思い出をずっと思い出している。2度と戻らない過去を思い出してしまうあの現象を、誰かが勝手に「後悔」と名付けた。

過去に後悔を馳せるたびに、観たいと思ってしまう映画がある。その映画の名前は「アバウトタイム」だ

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『サマーフィルムにのって』みたいな青春時代を送りたかった

『サマーフィルムにのって』みたいな青春時代を送りたかった

これほどまでに「こんな高校生活を送りたかった」と思えた作品は、これまでにあっただろうか。ただの青春と言えばそうとも言える。でも、その一言では片付けられないとある高校生の青春物語がそこにはあった。

恋愛、時代劇、SF、高校生、友情など、あらゆるジャンルがミックスされた現代版恋愛SF青春映画。主人公は伊藤万理華が演じるハダシ、謎の高校生・凛太朗を演じる金子大地。ハダシの幼馴染・ビート板を演じる河合優

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