見出し画像

『花束みたいな恋をした』を観ても、まったく胸が苦しくならなかった

遅ればせながら『花束みたいな恋をした』を観た。

周りの人から早く観てほしいと言われていた作品で、過去の恋愛を思い出すとか、恋愛と結婚は違うとか、観ていて胸が苦しくなるとか。以前からいろんな感想を聞いていた。

お互いに終電を逃して、運命的な出会いをした麦(菅田将暉)と絹(有村架純)。サブカル好きという共通点を発見し、徐々に2人の仲が縮まっていく。絹の部屋に入ってすぐに麦が「ほぼうちの本棚じゃん」と言ったときに「これは運命だ」と口走っている自分がいた。

一緒にいないときに思い出す人は好きな人だ。思い出した回数が多ければ多いほどに、恋をしている可能性が高い。お互いを思う時間が増えた2人は3回目のデートで無事交際に至る。

好きなものが一緒というまさに運命的な恋のはじまり。『花束みたいな恋をした』というタイトルを知らなければ、ハッピーエンドで終わると思ってしまうほどに、2人は幸せそうだった。

はじまりはおわりのはじまりで、絹は花束みたいな恋がはじまった瞬間から、麦との関係の終わりを知っていたのだろう。

親からの仕送りが止まったことがきっかけで、2人は現実の生活と向き合わざるを得なくなる。そこから2人は生活を成り立たせるために就職活動をした。絹は就職先があっさり決まったのだけれど、麦の就職活動はなかなか終わらない。

ようやく決まった就職先で、麦が実際に会社で働くようになってから2人の生活が一変する。絹との生活の“現状維持”が自分の夢だと語っていた麦は、生活するためには仕事をする必要があるという現実を知ったことで、ビジネス本を読んだり、仕事で結果を出すために仕事が終わったあとも頑張ったりする

かつては好きなものが一緒だった2人。現実を見て変わりゆく麦と好きなものが変わらない絹。徐々にすれ違いを繰り返した2人は、生き方のスタンスも合わなくなる。

ある日、好きなことを仕事にしたいと言った絹に対して、麦はこう返した。

「それは生活するためのことだからね。全然大変じゃないよ。好きなこと活かせるとか、そういうのは人生舐めてるって考えちゃう」

好きな人の価値観を否定した時点で、2人に明るい未来はないと確信してしまった。この先ずっと一緒にいたとしても、絹が辛くなるだけの未来が容易に想像できる。最初は幸せいっぱいだった2人の未来に光が見えなくなった事実が何よりも悲しかった。

共通の友人の結婚式に出席した2人は、その日に別れる決心をする。最後のデートではじめて本音を話す。5年も付き合っていたのに、本音を話せなかった2人は、自分が気づかないうちに、無理をしていたのだろう。

別れ話の最中に麦は別れる選択から結婚する選択へ考えを改めたのだけれど、絹は自分の考えを曲げることなく、2人の別れを選ぶ。相手の気持ちを考えずに、結婚を選ぶ麦のエゴに乗らなかった絹の判断はきっと正しかったはずだ。

***

『花束みたいな恋をした』みたいな恋愛をした経験はある。その証拠に2人と重なるシーンは多々あった。それを思い出すきっかけにはなったけれど、胸が苦しくなるわけでもなく、そんな時代もあったなとどこか他人行儀な自分がいる。

加えて、好きなものが一緒で始まる恋愛はたしかに存在する。本や映画、その他諸々、同じ好きなものを持つ人が恋人だったらうれしいけれど、人間の価値観なんて月日が流れるうちにどんどん変わっていくものだ。好きなものが一緒よりも嫌いなものを共有できる人の方がいい。なんて思えたのは大人になってからのことなんだけれども。

『花束みたいな恋をした』に共感できなかった理由は、過去の恋愛はすでに終わった過去だと認識しているためだ。感謝の気持ちはあれど、やり直したいとか、後悔しているとか、マイナスな感情は一切ない。思い出したところでなんとも思わない。だって、もう終わったことなのだから。

好きだった人の幸せは願えないという人もいるけれど、幸せになっていればいいんじゃないぐらいの気持ちだ。そもそも恋人という名前がついた関係から「ただの2人」に戻っただけの話。2人の映画はもう既に上映が終了しているし、続編が作られるわけでもない。

花は散り際が1番美しいけれど、いずれ枯れてゆくものだ。散った瞬間に価値がないものとして判断されるため、散る前にドライフラワーとして保存する人だっている。僕は終わった恋をドライフラワーとして保存しておきたいとは思えない。

恋が終わった時点でもう2度と思い出に浸らないように、綺麗にさっぱり清算する。過去に花束みたいな恋をしていたのかもしれないけれど、思い出に浸るのではなく、粉にして海にばら撒きたい気持ちだ。今後、2人が交わる可能性もない。たとえ街で偶然遭遇したとしても、赤の他人のフリをしてやり過ごすのであろう。

『花束みたいな恋をした』を観て、過去の恋愛を考えるよりも、今目の前にいる恋人を大切にしたいと思った。失敗は反省点を見つけ出し、自身に活かすことで、同じ過ちを繰り返さないようにできる。過去の恋愛なんて必要ない。目の前にある花束いっぱいの恋を枯らしてしまわないように、何ができるかを考えたい。

(C)2021「花束みたいな恋をした」製作委員会

この記事が参加している募集

映画感想文

ありがとうございます٩( 'ω' )و活動資金に充てさせて頂きます!あなたに良いことがありますように!