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いつかのための詩集

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どこかで酒と出会うための詩集。
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#海

景色はお前をわすれないよ

景色はお前をわすれないよ

平熱で海を見にいく

学校から一番近い船着き場まで5分

今日も明日も明後日も

自転車を走らせて

ずっとずっと

この瞬間を待ち望んで生きている

音楽を聴きながら

下り坂に明かりがともり始める

木の葉が安心しきった

風のない蒸し暑い日

平熱で海を見にいく

綺麗だったころの記憶がある

波に泡 とける景色 流れない時間

そのどれもが今となっては懐かしい

気づくと涙が流れている

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ムーン・オーシャンの夜話

ムーン・オーシャンの夜話

舟を漕ぐ

月の道のまんなかを

僕はゆく

片手に

スキットルと

満潮の入り江を

とじこめる

バーボンは振り返らせる

笛を吹く

そんな時間でもないのに

こたえたのは

調子はずれのうみねこと

急ぐ蟹の群れ

ささくれをけずった

木製のオールは

今宵も手には少し大きい

身に余るものたちを

ダーク・グレーのハット

の内側にしまって

少し

灯台を見る

(彼は元気にしてい

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モノラル、モノクローム、響く鐘の音

モノラル、モノクローム、響く鐘の音

未だに自分のたましいに

重さがあるなどとは考えられず

今日も腐っているわけなのですが

ああ から ころ 鈍い色の音

教会の端っこ 犬小屋の隅

僕の空想はそこに生きてます

そこに生きてるものを掬ってます

どうやらちいさな生き物のたましいは

揮発しやすいものであるようで

あとに残らない虫のたましい

あとに残らない僕のたましい

モノラル、モノクローム、響く鐘の音

ステレオタイプに

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モア・スローリーに世界よまわれ

モア・スローリーに世界よまわれ

たとえば船一隻のほどのなみだを積んで

後悔の旅に出かけるとして

どれほどの期間が経ったら

ぼくはなみだを使いきれるだろ

最初の港で出会ったひとは

大きなヒスイ色の目をもって

ぼくの産毛と産毛の間を

じっと見ていたものであった

あなた あなた 自分の宝石に

耐えられずカモメとともに飛んだ

あなた

あなたと過ごした日々を浮かべて

船からまた雫がこぼれてく

ゆらゆらきらきらその

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詩 「さざなみの私」

詩 「さざなみの私」

さざなみが文字をさらっていく

立ちつくす私

足元に砂 あるいは貝など

狐の嫁入り

眩しいしずく

さざなみが文字をさらっていく
 
 
 

さざなみが文字をさらっていく

浮き輪の群れ

ブイに海猫 麦わら帽がとけてゆく

みゃーみゃーと

クェークェーに

さざなみが文字をさらっていく
 
 
 

さざなみが私をさらってゆく

反った腰 灼熱の腕 強いしおかぜ

それはもう この季節

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