マガジンのカバー画像

ライトノベル

7
VRChatに関係なく、世界も時代も異なる、1話限りの短編集。
運営しているクリエイター

記事一覧

センスのない人

センスのない人

私の彼は、センスがない。
どうしようもないくらい、センスがない。

「このレストラン、美味しくてオススメだよ」

そう言って連れてきてくれたお店は、私が気になっていた場所だった。

「このネックレス、君に似合うと思うんだ」

そう言ってプレゼントしてくれたのは、私の好きなブランドの新作だった。

「じっとしてて。大丈夫、勝ってくるから」
「姫プレイは趣味じゃねーんだよっ!」
「ごっ、ごめん!じゃあ

もっとみる
妖精からプロテインを込めて

妖精からプロテインを込めて

事故物件という話は、聞いていない。
それでも、この部屋は何かがおかしい。

規則的に叩かれる壁、誰かに見られているような感覚。夜、耳元で聞こえる誰かの声。

引っ越す金もなく、途方に暮れていた私は、友人からの勧めで霊媒師を呼ぶことにした。

「先生。この部屋で変なことばかり起こるんです。これは、幽霊の仕業なのでしょうか」

年老いたお婆さんが来ると思っていた私は、自分と同年代くらいの、どこにでもい

もっとみる
伯爵と令嬢は相企む

伯爵と令嬢は相企む

「みなさま、伯爵陛下をご存知ですか。齢19で家督を継ぐと、北に行っては蛮族を討ち、南に行っては呪いを払う。治める領地は常に潤い、町は常に祭りのように賑わっているという、まっこと偉大な名君でございます」

昼下がりの街を目的もなく歩いていると、大広場に人だかりができていることに気がついた。野次馬根性で近づいてみれば、吟遊詩人が語り引きをしているらしい。

しかも歌の内容が伯爵かぁ。

この王国で伯爵

もっとみる
あなたの1番になりたくて

あなたの1番になりたくて

「うがーー!聞いてよ紗夜ーー!」
「はいはい。ちゃんと聞くよ。神奈ちゃん」

私こと紗夜は、友達の神奈ちゃんに「相談したいことがある」と言われ、大学近くの喫茶店に来ていた。

といっても、誘った本人はこうして机につっぷしてうめくばかりで、一向に話に入ろうとしない。

こうして神奈ちゃんのうめき声を聞くだけの時間というのも悪くないけど、私もそこまで暇じゃないのよねぇ。

私はため息をつき、神奈ちゃん

もっとみる
機械猫はアキバを歩く

機械猫はアキバを歩く

西暦2310年。東京、アキバストリート

気象管理局によって操作された空の下、ゴミの多い裏通りを、女が歩いていた。

大通りを外れたこの近辺は、廃ビルへの不法入居者やヤクザ者、商売女がたむろしている。そこを歩く、擦れた気配のない女性は、それだけで注目を集めた。

手入れが行き届いている桃色の髪には緩やかにパーマがかけられ、口元を隠すマスクは男性向けのいかついデザインではあるが、女の放つ雰囲気に妙に

もっとみる

Alos文学:アンドロイドへの恋は叶うのか?

『U10』というアンドロイドシリーズがある。

『常世界機構』が管理・保有する汎用人型自立稼働システムであるそれは、世界の安定と発展のために日夜稼働し、各々の役目を果たしている。

その役目は、外敵を排除するために武装を積むだけでなく、中枢システムの管理や宇宙空間における活動補助など、多岐に渡る。

そんな近未来的で、管理社会の様相がわずかに香る世界ではあるが、これはディストピアな話でも、ユートピ

もっとみる
ハジメテをアナタに

ハジメテをアナタに

僕の彼女は幼馴染だ。

子供の頃からずっと一緒で、よく彼女に手を握られて、いろいろなところに行ったし、いろいろなコトをやった。

僕の人生は、彼女とともにあった。

彼女と行かなかった場所なんてないし、彼女以外とやったことなど、何一つなかった。

七五三もバレンタインもクリスマスも、彼女と共に過ごしてきた。

僕にとって彼女は、無くてはならない存在なのだ。

そんな彼女も大学に入ると、とてもきれい

もっとみる