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センスのない人

私の彼は、センスがない。
どうしようもないくらい、センスがない。

「このレストラン、美味しくてオススメだよ」

そう言って連れてきてくれたお店は、私が気になっていた場所だった。

「このネックレス、君に似合うと思うんだ」

そう言ってプレゼントしてくれたのは、私の好きなブランドの新作だった。

「じっとしてて。大丈夫、勝ってくるから」
「姫プレイは趣味じゃねーんだよっ!」
「ごっ、ごめん!じゃあ一緒に勝ちに行こう」
「くっそ!何であたしよりあとに初めてもうプラチナ何だよ!立ち回り教えてくだちい」
「あはは、喜んで」

一緒にプレイしてくれたゲームは、私がやり込んでいるものだった。しかも私よりランクが高い。なんでだよ。

彼はいつもそうだ。

私の好きなもの。私の欲しいもの。私のやりたいことに合わせてくれる。

自分の好きを押し殺して。

だから私は、彼に言う。

「あなたってホント、セミスがないわね」

すると決まって、彼はこう返すのだ。

「ごめんね。次は気をつけるよ」

違う、違うの。そうじゃないの。私はあなたの好きが知りたい。あなたの好きを共有したいの。

食事はあなたの好きなラーメンが良い。
ゲームは殺伐したものじゃなくて、スローライフや協力系で良い。
プレゼントだって無くて良い。あなたとの時間が1番のプレゼントなの。

でも、そんなことをいえばあなたを困らせてしまうから。

あなたは私の喜ぶ姿が好きなことを、私が1番良く知っているから。

だから私は言うの。

「センスのない私には、あなたはもったいなさすぎる」

突き放すように、あなたの手を離す勇気がないから、離してほしいと祈りながら。

だけど、あなたは離さない。

「僕はセンスが悪いから、そういう貴女が好きなんだ」

……こういうところが、ホントキライ。

だから今日も2人でいる。

センスの悪い者同士、センスの悪い時間を過ごす。

決して、この手を離さないように。

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