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「カタコト愛され珍獣」として、外国で暮らす -ベトナム在住5ヶ月めの実感-


ベトナムで、外国人として暮らしている。それが意外と楽で、驚いている。
看板が読めないとか、買い物が面倒とかいう物質的な面は置いておいて、
対人関係において、である。
多くの人が、「あ! 外国人がいる!」と、こぞって話しかけてくる。そしてそれが気楽で、意外。


マンションのポーチを通るたび、そこで遊んでいる10歳、8歳の姉妹が私にまとわりつくように話かけてくる。
どうやら姉妹で英会話を習っているらしく、外国人に向けて覚えたての英語を使うのが嬉しいようで、姉の方が、今日あったことを話しまくってくる。

妹の方はしきりに
「ワッチュアネーム?」
と聞いてくる。何度答えても、日本人の名前は聞き取れないのか、覚えられないのか、5秒後にはまた「ワッチュアネーム?」と聞いてくる。

私も彼女に「ワッチュアネーム?」と聞き返すが、私もベトナム人の名前は全然聞き取れないので、何度も聞き返す。おあいこだ。

多分妹の方は、これ以外の英語を話せないだと思う。彼女はよく「しっ! 失礼でしょ!」みたいな感じでお姉さんにたしなめられているが、私にとってはむしろ、それしか話せないのに話しかけてくれることが嬉しい。

私は好きな歌詞を思いだす。

『Hiとbyeだけ英語覚えてアメリカへ行った。
Hiとbyeだけ言えれば会って別れられる。』

むしろ余計な事なんて話さない方がいい。

在住外国人として暮らすと、自分が子供のような気がしてくる。

屋台で、道で、コンビニで、多くの現地人が、「ベトナムに来てどのぐらい?」「ベトナム語話せるようになった?」と、口々に聞いてくる。

そして、私がドローカルな現地食を食べたと言ったり、覚えたてのベトナム語のフレーズを披露すると、大いに喜んでくれる。

なんか、成長を楽しみにされている感じがある。
そのたびに、「もしかして、子供って、こういう感じで生きてるのかなあ」と思う。


私は、実は昔からずっと
「子供って、大人に会うたび『今何歳?何年生?』『大きくなったねー』って言われてうんざりしないのかな?」
と思っていた。
なので自分はあまり子供に年齢を尋ねないようにしていた。

でも私は最近になって子供に年齢を尋ねることができるようになってきた。
それは、「成長を楽しみにされること」とか「存在を気にされること」自体は、嬉しいことだとよく分かったから。

特に、子供とか、外国人とか、言語が不得手ゆえ無力な存在にとっては、本当に。


あらゆることが、「なってみないと分からないものだな」と思う。

私は日本にいた頃、在住外国人と話すことがあっても
「日本はどうですか」とか「納豆食べられますか」みたいな質問は避けていた。
「そんな質問は聞かれ飽きただろうし、「『日本はどうですか』なんて聞かれても『好きです』以外答えられないんだから、意味ないよな」
と考えていた。

しかし、現地人が在住外国人にウェルカムの態度を出すこと自体はとても喜ばれることのはずなのだ。それは、社会の新参者である子供に、大人が、ウェルカムの意向を示すのが素晴らしいことであるのと同じように。

在住外国人も、子供も、「この社会、入っていいのかな?」「周りの大人、怖くないかな?」とちょっと怯えている。
だからそこをほどいてあげるのは悪いことじゃない。


ベトナムではよく、「ニコッ」とされる。道のそこここで、老若男女あらゆる人に。
そしてそのたび、胸が浮くような、とても不思議な気持ちになる。
外国人だからニコッとされてるのか、女だからかなのか、はたまたそんなこと関係なくベトナム人はあらゆる相手とそうし合うのかは、リサーチ不足ゆえ分からない。
しかし少なくとも日本にはあまりない習慣だ。

不思議なことに、ニコッとされるほど、私はどこにでもいるなんでもない無力な人間なんだなと思う。
周りの大人の挙動に反応して、安心したり、不安になったりする程度の、無力な子供なんだなと思う。

日本でも、子供に対してなら、ニコッとする大人はいる。
私はそれを目にしてよく
「子供だって、知らない人にいきなりニコッとされても嬉しくないだろう」
と思っていたのだが。
今は私が子供にニコッとするようになっている。

私もまた、「ベトナム歴5ヶ月」の子供でしかなく、周囲の人に成長を見守られており、私もまたそのことを嬉しく思っている。

しかし分かっている。
今は無邪気にベトナムを愛してるし、無邪気にベトナムに愛されている私だけど、この蜜月がいつまで続くかも分からない、ということを。

ちなみに、私が「いちいち年齢を聞いてくる大人ウザい」と思い始めたのは、少なくとも11歳からだ。

だから、私の在住外国人レベルが「11歳」並みになってきたら、
「いちいちかまってくる現地人ウゼー。こっちはこっちで勝手に成長してくるんだよ!」
と反発し始めるのかもしれない。

あるいは、お気楽な南国の良い面のみならず、悪い面にも徐々に気付いていくかもしれない。
または、私がうっかりベトナム語が上達してしまって、余計なことが聞けたり言えたりしていくのかもしれない。

しかし今は、6歳ぐらいの感覚で、現地人に「カタコト異邦人愛され珍獣」として、
「ベトナム語のはちゅおんいいでちゅね~」
「おくちゅりほちいんでちゅか、一緒に薬局いってあげまちゅね~」
と、過保護に愛されている。




渋澤怜(@RayShibusawa

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オマケ 
Twitterの雄、ダ・ヴィンチ・恐山さんが、品田遊名義で出している連作短編集「止まりだしたら走らない」に、「8年目の異邦人」という短編がある。

「日本って変な国ですよねー」と外国人に聞きたくて仕方ない日本人の島国根性に辟易している、日本在住フランス人の話。
「日本人は日本通の外国人に心を許す」と学習したため、わざわざ古風な日本語を使ってウケをとる姑息さを、部下に見透かされてハッとする。

twitterでみられる著者の人間観察眼の鋭さが、長文で楽しめる。

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