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妻恋う鹿は笛に寄る(自作の詩と散文)

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瀬戸内海に面する小都市で暮らし、働きながら詩や散文を詠んでいます。情景を言葉として、心で感じたことを情景にして描くことを心がけています。言葉の好きな方と交流できたらいいなと思って…
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2023年5月の記事一覧

対 立

対 立

対立が対立を生む世界で、対立に対立をしている自分がいる

そうやって対立が生まれていくんだろうな

乱立していく対立に衝立をしないで、立ち葵でも植えてりゃいいのにな

エオリアン

エオリアン

秋の空の色をそのまま映したような薄藍色の湖がある。スカイラインを縫ってたどりついた山の奥にひっそりとたたずむ湖。

由香里の目の奥にわななく光の色は、その湖の薄藍色に似ている。誰も寄せつけようとしない淋しげな色。由香里はその湖が好きで、悲しい気持ちになると私に連れて行ってとせがむ。

その湖の本当の名前を二人は知らない。数年前に由香里とスカイラインをドライブ中にわき道に迷い込んで、偶然見つけた湖だ

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桜の木の下で

桜の木の下で

ひっそりとした場所にある桜の咲き乱れる樹下で、そっと口づけをした。時が一瞬止まったような気持ちになり、車の走り去る音や鳥の鳴き声が聞こえ、女の息遣いが耳に入ってきた。ずっと好きだったし、これからも好きだと伝えると、女は真面目な顔をして、そんなこと知ってるとちょっと怒ったように言った。女の顔を引き寄せ、もう一度長く唇を貪った。舌先をからめようとすると、女は拒否するように歯を閉じ、手で頭を撫でると力を

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道 標

道 標

今にして思うと、いいこともそうではないと感じたことも全て、私の一部分で、一つ欠けても今日この日は迎えられなかったのだろうと思う。私の世界は他ではない私自身の選択で決められて、誰のせいでもない事。否定もしないし肯定的でもないが、因果応報、こうなる定めであり、概ね、これで良かったと思える。これからさきは未開地。先の尖ったドリルで、壁をぶち破り、これまでの経験を糧に、知恵を絞って、一つひとつの選択をして

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凪のしじま

凪のしじま

あぁ、時々は空に溶けて

暮れ泥んでいきたい

あぁ、時々は海に溶けて

呑み込まれていきたい

しかし、どちらも内在している

身体の現象

しかし、どちらも滞在できない

凪のしじま

宇宙の片隅で

宇宙の片隅で

銀河系を共に旅するなら、愉快な人がいい

宇宙遊泳するなら、一人がいい

月を見て語り合うなら、友達以上恋人未満の人がいい

新月の夜に夢で会うなら、まだ見ぬ人がいい

流星群を見るなら、恋人がいい

夕陽を見て叫ぶなら、悪い友達がいい

日向ぼっこするなら、良い友達がいい

日の出を過ごすなら、家族がいい

地球の滅亡に共に立ち会うなら……

どんな時も人間は無力であることを知っている人がいい

コアラのマーチ

コアラのマーチ

夜中、目が覚めると隣に眠っていたはずの君がいない。トイレにでも行ったかなと思い、うとうとしていても帰ってこない。心配になって探しに行く。

また、眠れないのかな……

リビングの方に行くと、真っ暗な部屋で映画を見ている君を見つけた。眠れないの?と聞くとうなずく。

寝転んでごらんと言うと聞き分けの良い女の子のように、すっと寝転がる。僕は君の足元に廻り、そっと足の裏をマッサージしていく。そうするとた

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暴力装置

暴力装置

私の体の中に忍び込んでいる
暴力装置を監視している

何かの弾みでスイッチの入る恐ろしい装置に
スイッチが入らないような
第三者機関のような冷徹な目が曇らぬように
第三者機関を見張るもうひとつの目が光っている

その目こそ私の中に忍び込んでいる
暴力装置が持っている目であるという
大きな矛盾の中で
私は日々、生きている

湖

心の中に

濁った湖が横たわっている

澄んでいるといいのに・・・

いつもそう思う

真ん中まで舟で漕ぎ出すと

心もとない気持ちになる

底は浅そうだが

計り知れないものがある

風向きが刻々と変わっている

上空の方・・・

漣は月影を揺らす

しんと冷たい水

良かった

良かった

どん底を味わって良かった。辛いことをたくさん経験してきて良かった。身体も心も弱くて良かった。もうダメかもと何度も思ってきたけど、いろいろな人や自然に助けられてきて良かった。運が良かったのかも。まだ自分にはやり残したことがあるのかも。立派な人間ではなくて良かった。格好良くなくて良かった。仕事ができる人間ではなくて良かった。良かったことが沢山見つかって良かった。自分の素直な感覚の中で生かしてもらえて良

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哀しみの在処

哀しみの在処

夕空追いかけながら

あなたの見ているものを見つめながら

歩幅に寄り添いながら

走り去る車の脇すり抜けながら

壊れものを扱うように手を握った

誰もいない世界の

二人だけの小さな会話の

クツクツ笑う瞳の奥の

わななく哀しみの在処を

そっと温めたの

ちっぽけな存在にすぎない私たちの心の中

ちっぽけな存在にすぎない私たちの心の中

なんて人生は意味深いのだろうか。自分の思い方次第で、どんな風にでも捉えられる。辛いことが重なっても、その経験が人間を広く深いものにしてくれる。この世界の大きさ、歴史の長さの中で、ちっぽけな存在にすぎない私たちの心の中には、全て詰まっているはず。感じられるはず。それも自分の思い方一つなのだ。それは何か大切な者達に支えられ、助けられ、ここまでたどり着いた大きな流れの中に浮かんでいて、星々の軌道に則った

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