太田初夏

瀬戸内海に面する小都市に住んでます。 詩や散文を中心に配信します

太田初夏

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マガジン

  • 散文

    自作の散文

  • 妻恋う鹿は笛に寄る(自作の詩と散文)

    瀬戸内海に面する小都市で暮らし、働きながら詩や散文を詠んでいます。情景を言葉として、心で感じたことを情景にして描くことを心がけています。言葉の好きな方と交流できたらいいなと思っています。

  • 小説

  • 100文字散文

    100文字で作る散文です。

  • 遊び心

最近の記事

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自己紹介

20年前から詩を詠んでいます。出会った方とのやりとりの中で生まれた作品たちに、自分自身が育てられて、何とか生きてきました。こうなればいいのにという願いや、胸に抱く形にならない想いを形にする時間を、こよなく愛しています。2021年に作品を通して知り合った人と、コロナ禍の影響もあり、一度も会わずに婚約、翌年に入籍。二人四脚で型にはまらない日常を一緒に生きています。

    • 夏の終わり

      夕飯を終え、キッチンで、暮れていく夕陽を見ている。夏の終わりの気配のする夕暮れ、盛んに鳴いていたクマゼミはヒグラシへ、そして、陽が落ちると、ヒグラシから秋の虫の音に変わる。尾形亀之助の『美しい街』を読む。闇に紛れて、真っ白な紙面に、筆で染みを落としたような美しい詩は、形をなくしつつあり、私自身も像を失っていく。夏野菜の炒め物の香りも、冷蔵庫のコンプレッサーの音も、気配を失い、詩集をポロンポロンとめくる音と、秋の虫のリリリ、リリリと鳴く音だけが響いている。東の空から少し遅れて、

      • 正義とは?

        <正義とは?>これは妻からの質問です。昔からウルトラマンで、ウルトラマンが負けて、いつも都合よく負けている怪獣たちが勝たないかなという目線で見ていた歪んだ子どもだった私に正義を語る資格があるのかと思うのですが、私なりの解釈で言います。正義とは、そこに悪がないものに正義が宿るのかなと思っています。少年サンデーに、小山ゆう著の「スプリンター」という漫画がありました。その序盤に、お祭りで大多数の大人たちが一触即発の状態で向かい合って、いまにも殴り合いそうな場面があります。そこに出く

        • ピーチシャーベット

          莫大な財産を積むから、その花を譲ってほしいと言われて、有無を言わせず射殺する夢を見た真夜中に、寝言で喉が渇いたとぼそっと呟いた妻に、土砂降りの雨に打たれながら、ピーチシャーベットを買ってきた。匙ですくって、そっと唇に滑らせて食べさせると、寝ぼけたまま笑顔になった。 烏の住処に転がったガラス玉に逆さまに映る青空は果てしなく深い。縄張り争いの果てに得た場所は孤高の証。廃墟の屋上から真っ逆さまに飛び降りる瞬間に本能が刺激される。界隈で唯一愛する伴侶を命を賭けて守り抜く。雑踏の裏路

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        自己紹介

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        • 散文
          12本
        • 妻恋う鹿は笛に寄る(自作の詩と散文)
          111本
        • 小説
          2本
        • 100文字散文
          13本
        • 遊び心
          3本
        • 夫婦の交換日記、往復書簡
          1本

        記事

          漁夫の利

          妻の実家の静岡への行き来で新幹線を利用していて、最近多いのが円安需要と政府のインバウンド政策による外国人観光客である。たくさん買い物をし、バイタリティに飛んでいて、陽気であり、日本人の乗客が大人しく乗っているのとは対照的である。 少し気になっているのが、荷物の大きさや多さで、外国人観光客は頭上の荷物棚を占拠していて、自分の頭上エリアを通り越して、反対側にまで置く人も出る始末。こうなるとマナーというよりは、乗り物の荷物管理の仕組みを根本から変える必要があるのでは、というところ

          いつか終わりの来る短い命に託して

          空に預けた悲しみは堪えきれなくなって、私の代わりに涙を流してくれた。誰かの歌声の響く街かどにいて、夢を物語にして昇華している。 いつか終わりの来る世界の短い命に託して、欲張りな私は詰め込み過ぎて、悲鳴をあげているのかもしれない。花から見て私には名前がないんだろう。静かに微笑んでくれる。 残酷で優しい世界の掟。幸せも不幸もどう感じるかは自分に託されている。どんなに打ちのめされても詩を詠み、世界に明かりを点そう。 誰のものでもない社会は独善的に独占されて支配されていても、私

          いつか終わりの来る短い命に託して

          蝶の舞(第3話)

          川の周辺に生物たちが快適に棲める多自然型河川工法を学ぶために大学の専攻をした明日香は、ますますその夢を確固たるものにして、川の氾濫や治水なども総合的に含めた研究を深めていき、成果を上げていった。河川周辺で、人間と営んでいる動植物たちが共生できる場所にする研究がどんどん進んだ。明日香の周りをまとわりつく昆虫たちと、明日香は次第に会話ができるようになっていて、それはテレパシーに近いコンタクトの取り方で、そうするうちに川の流れや界隈の自然の大いなるものとも、コンタクトを取ることがで

          蝶の舞(第3話)

          蝶の舞(第2話)

          傷だらけになった明日香は、一人住まいの自宅に戻り病院にも通った。何があったのかいろいろな人に聞かれたが、多くを語ろうとしなかった。明日香の住まいには研究の為に持ち帰った水生昆虫たちの水槽が並んでいたが、研究の為にデータを取れば、必ず丁重に元の場所に水生昆虫や植物たちを返していた。 それ以降、明日香の周りでは不思議な現象が起こるようになった。蚊やブトなどに刺され放題だったのに、茂みに入ってもどんな場所に行っても、一切虫たちが明日香の身体に接触することがなくなった。そして、複数

          蝶の舞(第2話)

          蝶の舞(第1話)

          (あらすじ) 明日香は多自然型河川工法を学ぼうとしている大学4年生。幼いころから虫も殺さない優しい子どもだった。ある日小さな虫かごに蝶を乱雑に詰め込んだ大学生3人に乱暴されてしまう。どんな時も凛として自分の意思を通し強く優しく生きてきた明日香に、どんな結末が待っているのか? <本文> (第一話) 梅雨が明けた。前線が刺激した線状降水帯が各地で被害をもたらした。明日香の学んでいる街でも、豪雨の爪痕を残した。国が管轄する一級河川である魚井更川の両岸の河川敷には、最高推移の高さま

          蝶の舞(第1話)

          夫の矜持

          20は手を出さず、30にして悩み、 40にして惑わず、50なら鮮度チェックは必ずする スーパーの割引セール 定価からの割引なので いくら安いかは計算して手に入れる 買い出しを任されている夫の矜持

          義父の形見

          義父が亡くなって、妻が義父所有のカメラなどをこちらに持ち帰ってきた。義父は小鳥を撮影するのが趣味でしたので、かなり大きめの望遠レンズから、スコープ、フィルムカメラもかなりの数あった。本来ならカメラ屋でメンテナンスかけて使えるようにするか、中古で買い取ってもらうかする予定でしたが、Excelで目録を作りつつ、価値やもろもろについてネットで調べながら片付けていくと、義父の趣味に対するスタンスや、カメラ専用の防湿庫などで管理し、丁寧にメンテナンスしている姿が思い浮かんで、妻が表面上

          義父の形見

          天使との対話

          傷だらけの天使と出会った。深手の傷を負い、肩で呼吸をしていた。手当をしながら、どうしてそんなに傷だらけなのか尋ねた。 天使たちは、人間の中に棲んでいる悪魔と闘い、半死半生の目にあわされても、人間が正気を保っていられるように奮闘しているということだった。人一倍強欲で醜い心の私の天使は、さぞかし傷だらけだろうと申し訳ない気持ちになった。 恐るおそる私の天使について聴いてみた。 私の天使は、現在7代目だそうで、歴代の天使たちは皆、奮闘して実力がついて、出世しているという話だっ

          天使との対話

          シルバー

          ろくでなし! 彼女にとって、私のFirst impression。 私は弾みで12台連続で横転させた自転車をそのままにして立ち去ろうとしてしまったのだ。それだけではない。大学の講義で彼女が風下にいるにも関わらず、おならをしてしまったのだ。それは玉子の腐ったような強烈な匂い。 苦痛に歪む彼女に、ろくでなし!と吐き捨てるように言われてから、30年。私は彼女と結婚して、銀婚式を迎えた。いまでは彼女の私との出会いの鉄板ネタになっている。 二人は縁あって結婚して、寄り添い暮らしてい

          五月

          月も空も山も海も花も そして、人も 美しい季節 輝いていて、影があって 歌がある

          海を飼う

          右耳を悪くした 鼓膜に炎症を起こしているよう 耳の奥に 海を飼っている ざざん、ざざん 静かに響いている 瀬戸内海のような波 貝殻を聴いているよう 経験したはずの忘れかけていた 失われたデジャヴ 治るまで楽しもう 次の耳鼻科は金曜日 #ひとりごとのようなもの #笑顔の日 #小さな幸せ #自分らしく生きる #至福のひととき

          エオリアン

           秋の空の色をそのまま映したような薄藍色の湖がある。スカイラインを縫ってたどりついた山の奥にひっそりとたたずむ湖。   由香里の目の奥にわななく光の色は、その湖の薄藍色に似ている。誰も寄せつけようとしない淋しげな色。由香里はその湖が好きで、悲しい気持ちになると私に連れて行ってとせがむ。  その湖の本当の名前を二人は知らない。数年前に由香里とスカイラインをドライブ中にわき道に迷い込んで、偶然見つけた湖だった。二人のあいだでは、その湖をエオリアンと呼んでいた。彼女がそう名づけ

          エオリアン