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トラウマ/フラッシュバックの対応方法 『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』 杉山 登志郎 (著)

本書『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』は、発達障害とトラウマ治療に長年関わってきた、精神科医 杉山登志郎Dr.による書籍です。慢性的な重度ストレス/トラウマに起因する、複雑性PTSDの症状と、そのケア理論・方法を紹介します。

EMDRと呼ばれる、WHOが推奨するPTSD治療手法を、筆者経験に基づき簡略化した「TSプロトコール」も紹介します。簡単で道具もいらないので、セルフケアをしようと思えば、自宅で無料で数分で出来ます。動画説明リンクが本書内に掲載されており、10歳の子供でも十分できそうなくらい簡単な手法です。


児童虐待をされて育ったようなトラウマ経験者は、その事後も長期にわたり、脳のモードが健常人と異なります。常に警戒モード状態の過敏対応をしたり、あるいは日頃から心が麻痺した失感情症になり得ます。ふとしたことからトラウマ記憶を思い出すフラッシュバックを繰り返し、辛いトラウマを際限なく再体験し続けます。幼児期の虐待経験も、無意識フラッシュバックを起こし、脳にストレスを与え続けます。深刻なうつ病を患った方も、同様のフラッシュバックを起こしているのかもしれません。


従来からあるトラウマ心理療法の多くは、交通事故のような単発性トラウマを対象として作られており、慢性的なトラウマ(複雑性PTSD)には対応していません。複雑性PTSDにこれらの心理療法を適用すると、トラウマの箱を開いてそれらが噴出し、収拾がつかなるケースすらあります。複雑性PTSD患者には、精神療法の基本である傾聴ですら禁忌です。医療現場で多いのは、圧倒的に複雑性PTSDの方だというのが杉山Dr.見解ですが、その対応は手探り状態というのが実態です。

本書『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』は、この複雑性PTSDに対応するための理論・方法を、杉山Dr.の臨床経験に基づき紹介します。杉山Dr.は、令和時代のメインテーマはトラウマだと言います。その広がり、誤診の多さ、専門家における治療経験の乏しさなど、いずれをとってもかつての発達障害に十分に匹敵する大きなテーマです。

発達障害とトラウマは、切っても切れない関係にあります。トラウマは、世代を超えて連鎖します。当事者だけでなく、その親まで含めてトラウマ治療をしなければ、当事者の問題症状が改善されないことも珍しくありません。
臨床現場では、トラウマに起因するだろう多様な問題が溢れかえっているのに、原因ではなく症状に着目する現行の医療制度では、根っこのトラウマ問題に対応をすること自体が困難です。


フラッシュバックが起きる原因や、その対処法に関心のある方は、本書が参考になるかもしれません。是非、一読ください。

※筆者(私)の個人的予想ですが、本書で紹介する「TSプロトコール」が効果を発揮するのは、一日に何度もフラッシュバックが発生するような複雑性PTSDの方です。特定の環境以外では問題ないような方(クモ恐怖症のようなものも含む)は、施術中にトラウマを明示的に思い出すEFT(TFT)の方が効果を発揮するはずです。エビデンスがある訳ではなく、私の個人的予想です。


<参考1>
トラウマが起きる脳の仕組みや、その大きな対応指針を俯瞰して知りたい方は、小野真樹 Dr.の著作『発達障がいとトラウマ』がおすすめです。脳科学的な観点から、トラウマについて分かり易く解説した、貴重な本です。以下リンク先に要約メモを載せました。興味ある方は、是非入手して精読下さい。


<参考2>
杉山登志郎Dr.の著作『テキストブック TSプロトコール』でも、『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』と大体同じ内容を紹介しています。医療従事者のような専門家でなければ、どちらか片方で十分です。ただし、動画リンクは『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』のみに掲載されています。


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