ドイツ・ドレスデン「シュトーレン祭り」に行ってみた。
毎年12月の第2土曜日にドイツ・ドレスデンで行われる「シュトーレン祭り(Stollenfest)」へ行ってきた。
「シュトーレン」というのはもちろん、最近日本でも見かけるようになったドイツのクリスマスシーズンのお菓子。
シュトーレン自体はドイツの街のパン屋さんやスーパーでも購入することができるのだが、その中に「ドレスナークリストシュトレン(Dresdner Christstollen)」というシュトーレンがある。「ドレスデン風クリスマスシュトーレン」という意味なのだが、ドイツでも1,2を争う長い歴史のあるシュトーレンだ。
今回行った「シュトーレン祭り」は、このドレスデンのシュトーレンを最大限アピールしつつ盛り上がる感じのイベントだった。
(ドレスナークリストシュトレンについては、こちらの記事を御覧ください)
この「シュトーレン祭り」は1730年の春、当時この土地を治めていたザクセン選帝侯、フリードリヒ・アウグスト1世(アウグスト強王)が権力をアピールするために貴族などを招待して盛大に行った軍事パレード(Zeithainer Lustlager)に由来しているという。
そのパレードの目玉の一つとして作られたのがシュトーレン祭りの名物となっている1.8トンの重さがある、巨大クリスマスシュトーレン。
アウグスト強王の抱えていた60人のパン職人によって作られたもので、パレード後にそれを切り分けて招待客や参加した兵士などに配ったという。
その様子が、当時の画家によって描かれて残っているんだそう。
そして1990年初頭にこの軍事パレードが実在したのかなどの調査が入り、本当に行われていたことが証明されたことから、1994年から始まったのがこの「シュトーレン祭り」。
今では、クリスマスマーケットと同じく、ドレスデンで有名なイベントの一つになっている。
お祭りの歴史としては短いほうかもしれないけれど、300年近く前から巨大シュトーレンを作ってお披露目するというイベントがあったという事実はなかなか興味深い。
そしてそれを再現して巨大なシュトーレンを使ったイベントをしようという発想も面白くて、このイベントの存在を知ってからずっと気になっていた。
2023年のシュトーレン祭りは、12月9日。
11時頃からパレードが始まると公式サイトに書いてあったので、11時過ぎに到着。会場は、ドイツの中でも古い歴史を持つクリスマスマーケット「シュトリーツェルマルクト(Striezelmarkt)」の向かいにある広場で、すでにたくさんの人が集まっていた。
11時過ぎに着いたにも関わらず、パレードはすでにほとんどのブロックが出発していて(早い!)、開場前から出発する一番最後のブロックを見送って、旧市街の別の道から見物することにした。
パレード自体は1時間ほどあり、公式サイトにパレードで練り歩くルートが出ているので、出遅れても巻き返せるのがありがたい。
沿道には現地の住民や観光で着たドイツ国内外の人がいて、皆でパレードを見守っている感じだった。
今年の「Stollenmädchen(シュトーレンガール)」はネリーさんという方で、29代目だそう。彼女の写真でラッピングされた車もステージ付近に飾られていた。
イベントの顔になるだけあってシュトーレンが大好きらしく、「シュトーレンのない世界は?」という質問に「想像できない」と答えていた。
さすがである。
賑やかなマーチにテンションを上げられながら見守っているとついにやってきたのは……なんとなくクリスマスっぽく飾られたトラクター!(笑)
そしてトラクターの背後で牽引されているのが、このシュトーレン祭りの目玉である「巨大シュトーレン」だった。
深い青と金にカラーが統一された台車の上には、粉砂糖がまぶされて真っ白なシュトーレンが鎮座している。側面には「長さ276cm、幅139cm、高さ87cm、重さ1,860kg」と書かれていた。
まな板サイズのシュトーレンでも大きいと思っているのに、このサイズは流石に大きい。
ちなみに、この巨大なシュトーレンの製造工程もインスタに公開されている。どうやらレンガのような形に焼いたものを積み重ねながら成型して粉砂糖をまぶしているらしい。現代の機材を使っても、なかなかの大仕事だ。
巨大なシュトーレンを見送った後に続くのは、シュトーレンを作った(と思われる)パン職人の方々と、当時の衣装に身を包んだ方々。
こんな感じで18世紀の格好をしている(と思われる)方々を見守った後に続いていたのは、巨大なナイフ。
こちらが、巨大シュトーレンをカットするために使われる巨大ナイフ。
重さは12キロあるそう。
このような感じで、シュトーレンとシュトーレンを作った職人、18世紀当時の衣装に身を包んだ人々がマーチングバンドの音楽に合わせて練り歩いていたわけだが、最後の方に現れたこちらの一団にご注目。
これ、どんな方々かわかる人はいるだろうか?
わかる方もいると思うが、こちらは「煙突掃除人(Schornsteinfeger)」。
日本ではあまり馴染みのない職業だと思うが、「メリー・ポピンズ」を見たことがある方は見たことがある風貌だと思う。
どうして彼らがこのパレードに参加しているかというと、ドイツでは「煙突掃除人」という職業の人が幸運のシンボルだから。
イギリスなど、ヨーロッパでも寒い地域では暖炉をよく使う家が多く、ちゃんと掃除をしないと命取りにもなりかねないということから、そういう不運を取り除く役割を持つ煙突掃除人が幸せのシンボルになっていったのだとか。
ドイツでは、新年に煙突掃除人がモチーフになったものを贈る文化もあるのだそう。
そんな幸運のシンボルである彼らがパレードの間してくれる、素敵なサービスがある。
それはパレードを見物する人たちの顔に煤をつけてくれること!
最初はパレードの浮かれた雰囲気に乗じた遊び的なものなのかと思っていたのだけれど、パレードを見送ったあと顔につけられた煤を取ろうとしていると、一緒に見物していたドイツ人のおばさまが声を掛けてくれた。
「その煤はラッキーアイテムだから取っちゃダメ!」
話を聞くと、煙突掃除人から煤を顔に付けてもらえることがとても縁起の良いことらしい。煤を付けてもらうと来年を幸せに過ごせると言われているそうで、みんな望んで付けてもらっているとのこと。
改めてあたりを見回すと頬や鼻などに煤がついた老若男女が結構いて、誰も拭うことなく、どこかほくほくとした心持ちで歩いているように見えた。
日本で言うなら、獅子舞に頭などを噛んでもらったり、お寺の境内で焚かれたお線香の煙を体にかけたりするようなものなのだろう。
ドイツにも何かにご利益をもらうようなイベントがあるとは知らなかった。こういうことを現地の方に教えていただけるのはありがたい。
一通りのパレードを見送ってメイン会場に戻ると、ステージ周辺は黒山の人だかりになっていた。
シュトーレンのことなどをパン職人が話している間に、先ほどパレードで巨大シュトーレンを運んでいたトラクターがシュトーレンを引いてステージ横に移動してくる。
シュトーレンの周りを覆っていたアクリル板を外し、いよいよ「シュトーレン入刀」の時間になった。
先ほどパレードで見せられていた巨大ナイフをシュトーレンガールとパン職人の代表が2人で持って入刀。
↑ニュース記事にされた実際の様子はこのような感じ。
シュトーレンの一部が切り出され写真撮影が行われたあと、職人たちがあらゆる角度からシュトーレンを解体し始めて「シュトーレン販売」に移っていった。
私のいたあたりは偶然にも販売を受け付けるポイント(シュトーレンを中心にして4箇所くらいある)の近くだったので、シュトーレンを購入しようとした人が一気に集まってきてすし詰め状態に。
ステージの様子を見守っていた人の大半が、このシュトーレンを買おうとしていたようで、どのポイントもぎゅうぎゅう詰めになってシュトーレンが解体されるを見守っていた。
ちなみにこのシュトーレンは500gで10ユーロ。
現地のシュトーレン価格の相場からやや高いくらいだけれど、みんなの集まり買い求めようとしているところをみると、この巨大シュトーレンも縁起物的な価値があるのかもしれない。
ドイツでこんなに人が密集して、押し合いへし合いしながら何かを買おうとする姿を初めてみたのでちょっと驚いた。
私のように日本やアジアから来ている人も結構おり、英語で会話する声も聞こえたので、世界の色々なところからこの「シュトーレン祭り」やシュトーレンの販売を楽しみに、ドレスデンを訪れているようだった。
運良く場所取りが良かったので、販売開始後わりとすぐにシュトーレンを購入することができた。
巨大シュトーレンはの重さは1.8トンなので、500gずつ販売されるとなるとだいたい3600箱販売されるということになる。プレゼント用なのか何箱も買う人もいたので、わりとあっという間に売り切れてしまうのかもしれない。
帰宅後、箱を開けてみると中身はこんな感じだった。
シュトーレンの周りは普通粉砂糖に覆われているけれど、巨大シュトーレンの一部なのであまり粉砂糖はついておらず、代わりに接着に使ったと思われる、クリーム色をしたアイシングのようなもので覆われていた。
さっそく薄くきってみたのがこちら。
切ってしまうと、ほかのドレスナークリストシュトレンの断面とほぼ変わらない。レーズンやナッツなどがぎっしりと入っている。
味は以前食べた同じ金ワッペンのシュトーレンよりも、レーズンにお酒が効いておりバターの風味も強く感じられた。全体的にとてもしっとりしていて美味しい。
これは縁起物でなくても買いたい人が群がるだろう、気持ちはわかる。
今回は「シュトーレン祭り?なにそれ!」という興味からこのお祭りに参加したけれど、今まで知らなかったことや面白いことが詰まっていた。
クリスマスマーケットを回っていても思うけれど、ドイツの人はクリスマスが大好きだ。そしてシュトーレンも愛されていて、特にドレスデンの人たちは歴史あるシュトーレンとクリスマスマーケットに誇りを持っている。
日本では、自分の生まれ育った土地に残る伝統や歴史に誇りを持っている人をちゃかしたり堅苦しさを嫌がる人たちがいるけれど、ドイツではあまりそういう雰囲気は感じられない。
うちの大家さんも、自分の生まれ育った場所であるドレスデンを愛しているのを会話の端々から感じられて、素敵だなとよく思う。
自分の「好き」や価値観を誰かに押し付けるのはよくないが、こうやって「私はこの土地を愛している」「私はこの文化や歴史を誇りに思っている」と素直に思ったり言えたりする環境があるのは、いいことだと思う。
引き続きドイツという国やそれぞれの土地の文化や歴史に触れながら、色々と学んでいきたいと思った。
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